今週、複数の権威ある欧州研究会議が、オープン・アクセスを大きく推進することを発表した。この方針は、巨大な著作権者の影響力を削ぎ、「学術界のペイウォール」を破壊する一助となるだろう。後者はまさに、「サイエンス版パイレート・ベイ」たるSci-hubが何年も前から主張してきたことだ。
3年ほど前、世界最大手の学術出版社「エルゼビア」は、Sci-hubを法廷に引きずり出した。
最初から不公平な戦いだった。毎年10億ドル超の純利益をあげる巨大出版社が法廷闘争に潤沢な資金を用意できるのに対し、Sci-hubは寄付に頼るほかないちっぽけな存在だ。
エルゼビアはこの訴訟に勝利し、Sci-hubに対する数百万ドルもの損害賠償命令を得た(訳註:日本語記事)。しかし、Sci-hubはその後もインターネットに残り、さらなる成長を遂げていった。そして今日、Sci-hubとその創設者アレクサンドラ・エルバキアンは精神的な勝利を収めることになるのかもしれない。
今週(訳註:9月4日)、権威ある欧州研究会議11団体が、オープンアクセスを強力に推進していくことに合意した。
「2020年までに、加盟国国内および欧州研究会議・研究助成機関から提供された公的助成金による成果である科学出版物は、基準に適合したオープンアクセスジャーナルないしオープンアクセスプラットフォームで公開されなくてはならない」
言い換えれば、公的助成金を得た研究は、もはや裕福な出版社の利益を生み出す高額なペイウォールの中に隠すことができなくなったということだ。そのオープンさはまさに……Sci-hubだ。
これは学術界にとって大きな一歩だ。研究者は伝統的に、権威ある「ハイ・インパクト」なジャーナルを好んできた。しかし、そうしたジャーナルの大半はオープンではない。今回の合意により、こうした状況を劇的に変わることになるだろう。オープンアクセスジャーナルにはより高品質な研究が掲載され、そのインパクトと訴求力が高まることになる。
確たる証拠はないにしても、Sci-hubも大きな貢献を果たしたと信じるに足る理由がある。特に、Sci-hubのオープン性が世界中の研究者や著者に広く受け入れられていることを考えれば。
このことはSci-hubの創設者(彼女は最近自伝を公表している)の言葉を思い起こさせる。
エルゼビアから訴訟を起こされた際、我々TorrentFreakはエルバキアンにインタビューした最初の英語メディアとなった。エルバキアンは圧力には屈しないと断言した。
「誰もが所得や所属とは無関係に、知にアクセスできなくてはなりません。それは絶対に適法でなくてはならないのです。また、知が営利企業の私有財産であるという考えも、私にはまったくもって受け入れられません」と彼女は当時述べていた。
エルバキアンはしばしば「海賊」として描かれているが、多くの人々が彼女の考えに共感する。たしかに、彼女の大学が購読料を支払えないという理由で、研究者が知へのアクセスを拒絶される罰を受けるというのは、公平とは思い難い。
実際に、著作権のせいで、研究者自身が自らの論文にアクセスできないこともある。
「おかしな話ですが、Sci-hubがなければ自分たちの論文すらダウンロードできなかったという話を研究者から何度も聞きました。著者でさえ、自分の成果にアクセスできないのです」と彼女は語っていた。
何をバカげたことを思われるかもしれないが、これは事実である。長年に渡り、一般的な慣習として、研究者は出版社に著作権の譲渡契約を結ばされてきたのだ。1セントすら支払われないまま、自らの成果物の権利を放棄する契約を命じられ、それがペイウォールの後ろに隠されるのを指を咥えて見ているしかなかった。
Sci-hubとエルバキアンが戦いを挑んでいるのは、まさにこの慣習だ。今週のニュースは、この戦いが勝利に近づきつつあることを示している。出版社は気に入らないだろうが、学術出版には確かにSci-hub効果が芽吹いているのだ。
The Sci-Hub Effect? Prominent Research Councils Push Open Access – TorrentFreak
Publication Date: September 9, 2018
Translation: heatwave_p2p