カナダは米国・メキシコとの新たな貿易協定をうけて、著作権保護期間を著作者の死後70年に延長することになった。カナダの歌手、ブライアン・アダムスによれば、この恩恵を最も受けるのは、クリエイター自身ではなく、レコードレーベルのような大手仲介者だという。そこで彼は、あるシンプルな提案をしている。著作権譲渡の25年後にその契約を著作者が終了することができるようにする、という提案だ。
長い交渉の末、カナダ政府は今年(訳注:2018年)はじめ、現在の著作権保護期間を20年間延長することに合意した。
この変更は、米国とメキシととの貿易交渉の一部であった。死後70年への保護期間延長によって、『著作権者』は更に多くの利益を得ることができるだろうと言われている。
理論的にはたしかにそうなるのかもしれないが、カナダの歌手、ブライアン・アダムスは、この保護期間延長により最大の受益者は、メジャーレコードレーベルなどの仲介者だという。クリエイターはしばしば、キャリアの初期に著作権の譲渡契約を結ばされており、したがって保護機関の延長による恩恵をうけないということになる。
アダムスは、文化遺産省常任委員会に提出した意見書のなかで、著作権法のバランスを欠いている点を訴えている。それによれば、保護期間延長の恩恵の大部分は、個々のクリエイターではなく、大企業が享受しているというのだ。
アダムスによると、問題の1つは、契約に際して仲介者がきわめて優位なポジションにあるという事実である。生計を立てたいと望むクリエイターたちは、最初の契約で自らの権利を手放すことになり、後にそれを悔やむようになるという。
「クリエイターは1つまたは少数の仲介者の契約を交わす。彼らはどんなときもクリエイターと契約を交わす。はじめて契約に望むクリエイターは、提示された契約書すべてに署名してしまう。仲介者がこのクリエイターに署名させる必要はほとんどない」とアダムスは綴っている。
「著作権法はバランスをもたらすものである。このバランスは、クリエイターと仲介者との間のリスクであったし、現在もそうだ。著作権法は、仲介者のために機能しているが、クリエイターにはそれほど機能していない。著作権保護期間の延長も、クリエイターではなく、仲介者に利益をもたらすことになるだろう」
アダムスは、この不均衡は簡単に解決できるという。合意された保護期間延長を覆すには遅すぎるかもしれないが、クリエイターにより強い力を与えるよう変更を加えればよいというのだ。その変更は、著作権法のたった1語を変えることを求めている。
現在、カナダの著作権法では、クリエイターの死後25年で、著作権はクリエイターは相続人に戻されることになっている。この「死後」という言葉を「譲渡」という言葉に変えることで、クリエイターは存命中に著作権譲渡契約を終了することができることになる。
つまり、20歳のときにアルバムの権利をメジャーレーベルに譲渡した駆け出しアーティストが、45歳でその権利を取り戻すことができるということだ。これは劇的な変化ではあるものの、前代未聞というわけでもない。すでに米国では同様の著作権契約終了規定があり、35年後に返還できるようになっている。
アダムスは今年(訳注:2018年)はじめ、カナダ文化遺産省常任委員会に出席し、この提案について議論しているが、今回彼が提出した意見書ではその利点を非常に詳細に記している。
とりわけ、彼は契約終了規定の導入は、クリエイターに力を与えるものになるだろうと強調し、予定されている保護期間延長の観点からも良いものになるはずだという。
「カナダの著作権法に返還権(termination right)を導入することで、現実世界の著作権法がクリエイターにとってより有益に機能する一助となるだろう。また、今後の著作権保護期間延長による意図せぬ影響を減じるのにも役立つはずだ」
「カナダは現在、多かれ少なかれ、著作権保護期間を『死後70年』に延長する義務を負っている。著作権保護期間延長は、基本的には大企業の仲介者に利益をもたらすものとなる。しかし、大半のクリエイターのポケットにお金が舞い込むことはない」とアダムスは記している。
著作権の返還権を与えれば、保護期間延長によって期待される利益は、仲介者のフトコロに入ることはなくなる。それと同時に、クリエイターは自らの作品からより多くの利益を得ることができるだろう。著作権法のわずか1語を変えるだけで、飛躍的な前進が生まれるのだ。
—
ブライアン・アダムスの意見書全文はこちらから(pdf)。また、この意見書に最初に光を当てたマイケル・ガイスト教授の記事はこちら。
Bryan Adams: Longer Copyright Term Enriches Intermediaries, Not Creators – TorrentFreak
Publication Date: December 27, 2018
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: jboylan67 / CC BY 2.0