Electronic Frontier Foundation

中小の欧州テクノロジー企業欧州大手エンターテイメント企業アーティスト団体テクノロジーの専門家人権の専門家から強い警告が発せられ、さらにEU史上最大規模の市民からの懸念がよせられていたにもかかわらず、驚くべきことに、 著作権指令案に関するEUの「トリローグ」は卑しき歴史を持つ著作権指令のなかでも最悪なかたちに取りまとめて終了した。

さよなら、アーティストと科学者の保護

著作権指令は、EUの著作権ルールをアップデートするための詰め合わせといった類のものである。前回改正からすでに18年が経過していることもあり、オーバーホールが急務とされていた。その中には、アーティストや科学者を保護するための条項が含まれており、それらはアーティストがエンターテイメント企業から搾取されないようにし、科学者がデータ分析や研究など様々な用途に著作物を原材料として使用できるようにするというものであった。

いずれの条項とも、すでに無力化させられており、巨大エンターテイメント企業は意のままに、クリエイターから搾取したり、科学的研究を恣意的に阻止する権限を振りかざし続けることができる。

指令案には幾ばくかのポジティブな側面が含まれていたものの、トリローグはそれら削ぎ落とし、(信じがたいほどに恐ろしい)ネガティブな要素をさらに悪化させている。

陰りゆくEU域内プラットフォーム、サービス、オンラインコミュニティの未来

最終テキストでは、3年以上の継続、または年間収益が1000万ユーロを超えるあらゆるオンラインコミュニティ、プラットフォーム、またはサービスは、たとえ一瞬でもユーザに著作権を侵害する投稿をさせてはならない。これはどう考えても不可能であり、最大限実現したとしても、あらゆるサービスが、自動著作権フィルターの開発に数億ユーロを費やさなくてはならなくなる。こうしたフィルターは全欧州市民のあらゆるコミュニケーションを傍受することとなり、ブラックボックス化されたアルゴリズムがテキスト、写真、音声、ビデオが既知の著作物と一致すると判断した場合には、恣意的な検閲が行われることになる。このような環境は、詐欺師や犯罪者パラダイスであると同時に、政府や民間セクターによる検閲に好都合なことは言うまでもない。

こうしたフィルターは(訳注:開発、実装、運用コストを考えれば)、米国の大手テクノロジー企業以外の企業に背負いきれるものではない。つまり、欧州域内のテクノロジーセクターがこうした義務を回避するための唯一の方法は、年間収益を1000万ユーロ未満に抑えつつ、3年後に閉鎖することだ。

もちろん、米国テクノロジー大手も、フィルターの事実上の義務化を好ましくは思ってはいないだろう。だが、それによって欧州の競合他社と競い合うことなく成長を続けられることを考えれば、前向きに譲歩できるものであろう(だからこそ、複数の米テクノロジー大手が、密かにフィルターの義務化を求めてロビー活動を行ってきた)。

驚くべきことに、第13条に設けられた小さく、無益な例外規定は、エンターテイメント業界のロビイストにとっては寛大過ぎたようで、政治家たちはその痛みを緩和するための贈り物を授けている。最終テキストでは、あらゆるオンラインコミュニティ、サービス、プラットフォームに対し、ユーザがアップロードするかもしれないあらゆるコンテンツについて事前にライセンス契約を交わすよう「最善の努力(ベストエフォート)」を義務づけている。つまり、事実上、ユーザの著作権侵害の責任を負わされないために、ありとあらゆる著作権者のあらゆる作品を言い値で契約しなくてはならない。

ニュースを議論することは許されない

ニュースサイトが記事へのリンクの可否を決定し、それに対して使用料を請求できるという第11条も、さらにひどいものになってしまっている。最終テキストでは、ニュース記事からの「単一の語または非常に短い抜粋」以上を含むリンクにライセンスを義務づけており、営利を目的としない個人ユーザ、非営利のプロジェクト、さらには些細な広告や他の収入源を持つ個人サイトでさえ、例外ではない。

欧州議員はコレに賛成するの?

トリローグが指令案に合意したことで、次は欧州議会の最終投票を迎えることになる。投票は3月25〜28日、または4月15〜18日の会期に実施されることになりそうだ。そしてその直後の5月、欧州議会は選挙を控えている。

この選挙は非常に重要だ。欧州議会議員は、この指令案に投票した直後に選挙戦に臨むことになる。この指令案は欧州史上最も不支持をあつめる立法努力であり、ともすれば風がかわることもありうるだろう。

実際のところ、欧州議会のどの政治会派も、(訳注:投票“後”に選挙戦に臨むことになるため)この著作権指令案を争点とした選挙キャンペーンを行うことはできない。しかし、メディアや新聞の経営者に数百万ユーロを流し込むために、有権者の意思に反し、我々の知るインターネットを破壊の危機に晒した会派への支持を翻すよう訴え、支持を集める会派は出てくるだろう。

今こそあなたの声が必要だ

この状況を理解して欲しい。我々は、すべての欧州議会議員にこの指令案が孕む問題を十分に理解し、欧州の有権者が彼らの投票に注目していることを理解した上で、議会投票に臨んでもらうべく、EU各地の団体と連帯して取り組んでいく。

そこで必要になるのはあなたの声だ。すでに400万人以上のインターネットユーザが、この指令案に反対する請願に署名している。署名できたなら、電話に手を伸ばし、あなたの議員に電話することもできる。あなたがなぜこの指令案に反対しているのか、それがあなたに何をもたらすのか、そして来る投票でどちらへの投票を期待しているのかを話して欲しい。これがあなたの声を届ける最後のチャンスだ。

Take Action

Stop Article 13

The Final Version of the EU’s Copyright Directive Is the Worst One Yet | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctrow (EFF)/ CC BY 3.0 US
Publication Date: February 13, 2019
Translation: heatwave_p2p

訂正(2019年2月19日):記事中の「ニュース記事からの『単一の語または非常に短い抜粋』を含むリンク」を「ニュース記事からの『単一の語または非常に短い抜粋』以上を含むリンク」に修正しました。原文の変更ではなく、翻訳時の記載時の誤記です。訂正してお詫びします。