フィンランドで相次ぐ海賊版和解請求の波は、ファイル共有ユーザのプライバシー訴訟の勝利を生み出した。同国の裁判所は、法律事務所「ヘドマン・パートナーズ」が違法なファイル共有が疑われる女性について保有するすべての技術的証拠を開示し無くてはならないとの判断を示した。同法律事務所は当初開示を拒否していた。この裁定は、この法律事務所に膨大なペーパーワークを強いる可能性がある。
10年以上に渡り、世界中のファイル共有ユーザ(と疑われる人々)は、多額の和解金を支払うよう圧力をかけられてきた。
こうした「著作権トロール」の手口は、きわめて単純である。著作権者が「海賊ユーザ」のIPリストを入手し、裁判所の召喚状を請求し、ISPに該当する顧客データの提出を強制する。
近年、米国、英国、カナダ、スウェーデン、デンマークなどでこうした著作権トロールに関するニュースが報じられている。フィンランドでも2013年頃から目立ち始めていた。
こうした活動をフィンランドで主導している組織の1つが、ヘルシンキの法律事務所ヘドマン・パートナーズだ。同社はさまざまな映画会社を代表して数万の海賊(行為が疑われる)ユーザを追跡し、それぞれ数百ユーロの損害賠償を請求している。
リトヴァ・パオラッカは同社にターゲットとされた女性だ。しかし彼女は身に覚えがなく、法律事務所が要求する800ユーロを損害賠償を支払う理由もなかった。そして、彼女は反撃に出た。
パオラッカは所謂「著作権トロール」のやり方に強く反発し、彼女にかけられた不正行為の容疑を否定した。さらに彼女は、同国のプライバシー法に基づき、同法律事務所が収集した情報にアクセスする権利を有すると主張し、彼女に関するあらゆるデータを開示するよう要求した。
ヘドマン・パートナーズはこの要求に一部従い、かなりの情報を開示した。しかし、すべての情報の開示は、権利者とのビジネス上の関係に悪影響を及ぼしかねないとして拒否した。同法律事務所が非開示とした情報は、IPアドレスのログなど、侵害の疑いを示す技術的な証拠であった。
さらに、同法律事務所は、女性が映画の配布を否定しているのだから、この情報は女性に関するものではなく、別人のものであるとも主張した。
パオラッカはこの限定的な情報開示には納得せず、データ保護担当者の助力を得て、この問題を行政裁判所に持ち込んだ。そして、行政裁判所は彼女を支持した。
行政裁判所は、ヘドマン・パートナーズによる調査に伴う権利の制限という主張は正当化されない、と判断した。同法律事務所の業務上の秘密保持義務は、制限の正当な理由となならず、パオラッカのデータコントロール権の方が重要であるとした。
裁判所は、個人情報保護法において、被告となるファイル共有ユーザは、他の誰がその接続を利用したかどうかにかかわらず、自身のIPアドレスに関連するすべてのログ情報にアクセスすることが認められていると結論づけた。
この判決は、被告が和解要求をはねつけるための武器とはなりえないが、法律事務所にとっては、手続き上の負担が増えることになる。何万人もの海賊ユーザすべてがIPアドレスログへのアクセスを要求する場合、膨大な書類を作成しなくてはならなくなる。
TorrentFreakはパオラッカに話を聞いた。彼女は、追求されているファイル共有ユーザを積極的に支援する同国のMuroBBSコミュニティにも参加している。彼女は、今回の結果に非常に満足しており、著作権トロールの企てをくじく助けになることを期待していると語った。
一方、MuroBBSの活動家Hasturinpoikaは、他の被害者にもヘドマン・パートナーズにデータ開示請求するよう呼びかけている。同法律事務所は、今回の裁定とEUの新たなGDPR規則に基づき、この請求に応じなくてはならない。
「著作権トロールから通知を受け取ったすべての人に、この裁定を利用して自分自身の情報を確認することを推奨します。GDPRが発効した今、この新たな規則に従わないトロールに対して、厳しい制裁を加えることができるためです」とHasturinpoikaは言う。
ヘドマン・パートナーズは、この行政裁判所の裁定を最高行政裁判所に控訴できる。しかし、これまでの経緯を考えれば、パオラッカ氏が著作権トロールとの戦いから退くことはないだろう。
Suspected ‘Pirate’ Wins Data Disclosure Battle Against Copyright Troll’s Law Firm – TorrentFreak
Publication Date: April 30, 2019
Translation: heatwave_p2p
Materials of Header Image: EFF Photos (CC BY 2.0) / Etereuti