TorrentFreak

増加を続ける米国の著作権トロール訴訟は、ある別の側面でも増加を続けている。2015年、いわゆるジョン・ドゥ訴訟は、著作権事件全体のおよそ58%を占め、ある会社が全体の4割に関わっている。しかし、2010年以降、標的にされた人の数は84%減少してもいる。

インターネット上ではわずか数クリックで映画や音楽をダウンロードすることができる。そのような状況のもと、一部の著作権者は著作権侵害から金儲けをしようと考えた。

こうしたアプローチの一側面として、いわゆるジョン・ドゥ訴訟の増加がある。これは、違法ファイル共有に責任があるとみなされた個人をターゲットにした著作権裁判だ。著作権者がターゲットに求めるのは、金銭的な和解であり、数千ドルを要求されるケースも多い。

昨年、ロヨラ大学シカゴ・ロースクールのMatthew Sag教授は、『米国地方裁判所における知財裁判:1994〜2014』と題した論文を発表した。過去20年間に米国地方裁判所で行われた著作権、特許、商標訴訟を含むすべての知財裁判をレビューしている。

そして2016年現在、Sag教授はこの論文に昨年の統計を加え、アップデートしてくれた。以下のグラフからわかるように、2010年にはファイル共有ユーザに対する訴訟はほとんど行われていなかったが、年々増加し、米国の著作権訴訟全体のかなりの割合を占めるようになった。

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実際、2015年中のジョン・ドゥ訴訟は再び高まりを見せ、(RIAAが違法ファイル共有ユーザの一斉訴訟を行った)2005年の記録を上回った。

2015年、ジョン・ドゥ裁判は米国の著作権事件全体のおよそ58%(5076件中2930件)を占めた。近年の例に漏れず、ごく少数の原告によって大多数の訴訟が起こされている。

「2015年、米国では(ポルノ企業の)Malibu Mediaが依然として著作権事件の最大の原告であり、前年よりさらに多くの申し立てを起こしている」と論文にはある。

Malibu Mediaは2014年の著作権事件全体の41.5%を占め、2015年にも39%以上を占めている。割合としては微減しているが、ほかの原告らもこれまで以上に訴訟を起こしているためである。

Malibu Mediaが占める割合は驚きではあるが、彼らの弁護士であるMichael KeithLipscombはさらに多くの事件に関係している。

「Lipscombは、昨年のトップ5に含まれるほかの2つの原告――Manny FilmとPlastic The Movie Limited――の弁護を引き受けており、2014年のトップ5のうちの2社――Good Man Productions, Inc.とPoplar Oaks, Inc.――の弁護も引き受けていた」という。

こうした法的リソースの統合は、膨大なトロール・プロセスにとってコスト効率の良いアプローチなのだろう。実際、現在起こされている訴訟の数を考えれば、ビジネスとするための業的アプローチが必要だということなのだろう。

以下の表のカラム2が示すように、過去5年に起こされたジョン・ドゥ訴訟は劇的に増加している。2010年には77件だったものが、2015年には2930件にまで増えた。

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しかし、訴訟件数が膨大になったからといって、ターゲットにされるファイル共有ユーザの人数が指数関数的に増加したわけではない。むしろ、逆であった。2010年にジョン・ドゥ訴訟の被告とされたISPアカウント所有者は43,124人だったの対し、昨年はわずか『6,700人』と、84%も減少している。

この論文では、この激減は、1つの事件で膨大な数の匿名ファイル共有ユーザを被告とする訴訟を、裁判所が許容しなくなっていることを示していると結論づけている。

「(数千のIPアドレスを被告とする)訴訟提起は、原告にとっては訴訟費用の節約になるが、法廷はBitTorrent事件におけるマス・ジョインダーの適法性や望ましさについて非常に懐疑的になってきている。2015年のデータに基づけば、マス・ジョインダーの時代はほぼ完全に終わりを告げたようだ」

とはいえ、いまでは著作権トロールといえば、ほぼBitTorrentパイラシーを利用した金儲けを意味している。数千の訴訟が提起されているにもかかわらず、このビジネスモデルは依然として原告に利益をもたらすものとして機能しているという。

「現在、米国地方裁判所で民事訴訟を提起するにあたってかかる費用は400ドルである。それはつまり、Lipscomb氏が関わっている原告らが、昨年1年間で、最低でも936,800ドルを支払ったことを意味する。この企業の規模を考えると、Lipscomb氏とそのクライアントは、インターネットの著作権侵害を効果的にマネタイズする方法を発見したと推論できるだろう」

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論文はここからダウンロードできる。
“People Sued For Piracy in The U.S. Drops 84% Since 2010 – TorrentFreak”

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: January 15, 2016
Translation: heatwave_p2p