以下の文章は、電子フロンティア財団の「Sharing Our Common Culture in Uncommon Times」という記事を翻訳したものである。
私たちは今、これまで経験したことのない時代に突入した。誰もが可能な限り自宅待機するよう求められている。恵まれた人は遠隔で仕事をしていて、学校に行けなくなった子どもたちは家で過ごす。医療機関や食料品店など生活・生命を支えるために働かざるを得ない労働者たちも、一時の安らぎを求めている。つまり現在、インターネットは街の広場としてのみならず、学校、アートギャラリー、博物館、図書館としての役割を担っているのである。
個人のクリエイターから図書館、教育者、コミュニティの組織者に至るまで、米国中のユーザが、情報、音楽、書籍、アートをオンラインで共有することで、この危機に立ち向かっている。注目を集めているものとしては、俳優のレヴァー・バートンが子どもと大人に向けて物語を朗読したり、ミュージカル『ハミルトン』のキャストがYouTubeで再開を果たしたりしている。ミュージシャンたちも、有名・無名関係なく、様々なサービスやアプリを駆使して演奏を届けている。教師たちは、生徒たちが避難している間も居場所を失うことがないように、オンラインで教育するという途方も無い役割を引き受け、リソースの迅速な発見、開発、共有を続けている。インターネット・アーカイブは米国内外の図書館が一時的に閉鎖されたことを受けて、一般市民に150万冊の書籍へのデジタルアクセスを無償で提供する「国家非常事態図書館(NEL)」を開始した。大学、民間企業、非営利団体が、このCOVIDパンデミックと戦い、その影響を最小限に抑え込むために、必要に応じて知的財産を無償で利用できるようにすると約束している。
コミュニティの形成・維持のためにインターネットへの依存を深めていくと、多くの人びとが自らの喉元に法律という剣先が突きつけられているということに気付かされる。とくに著作権は、潜在的な脅威だ。たとえば著名な医師のDr. Drewは、コロナウィルスに関する誤ったアドバイスをまとめたビデオを虚偽の著作権クレームで削除しようとした。またバートンは、著作権への懸念が朗読の選択肢を狭めていると話している。あるいは、Facebook Liveでバイオリンの演奏をストリーミングしていた男性や、夫がレッスルマニアを視聴する傍らで未就学児クラス向けにウェブキャストしようとした教師のように、自動フィルターに巻き込まれてしまった事例も報告されている。一方、全米作家協会らは、NELが作家の生活を破壊すると抗議し、怒りを露わにしている。
こうした問題は予想されていたことではあるが、多くの人が共通の文化の共有を好意的に捉えていることは心強いものがある。レヴァー・バートンが著作権侵害の懸念を表明したとき、ニール・ゲイマンやEFFのコリィ・ドクトロウら作家が即座に反応し、バートンの朗読を許諾した。国際図書館協会連合は世界知的所有権機関(WIPO)への公開書簡を起草し、著作物の公益的利用を促進するための役割を果たすようWIPOに求めつつ、権利者にも同様のことを呼びかけた。この公開書簡には1週間足らずで312以上の団体が署名した。
New Yorker誌はNELを「読者への贈り物」と称賛し、300を超える個人や機関がこのプロジェクトを支持している。インターネット・アーカイブは批判に応えるかたちで、このプロジェクトがどのように機能するのか、なぜ法的に保護されているのか、そして著者が望むのであればオプトアウトできることを詳細に説明している。強調しておきたいのは、NELが本を貸し出すのは2週間だけで、期間が過ぎればユーザのデバイスから自動的に削除される。さらにNELは、過去5年以内に出版された書籍を除外しているため、新作を提供しているわけでもない。ジョナサン・バンドが指摘するように、インターネット・アーカイブや図書館に大半の蔵書への緊急アクセスをライセンシングする仕組みは存在していない。最後に、インターネット・アーカイブは読者のプライバシーを尊重して習慣を詳細には記録してはいないものの、彼らが共有できる情報からは、NELが電子書籍のライセンシングに重大な影響を与えてはいないことが見て取れる。大半の書籍は30分未満「開かれた」だけで、読者は閲覧のために使用していて、インターネット・アーカイブが貸し出す(しかし利便性ではKindleに大きく劣る)PDFのコピーにはさして価値を見出していないことがわかる。また、インターネット・アーカイブから貸し出されている書籍の9割が10年以上前に出版されたものであることも強調しておきたい。
フェアユースの味方がここにいる
文化の共有をめぐる論争は、いまのところ世論という法廷で繰り広げられている。だが、ユーザは強力な法的保護を手にしていることも知っておくべきだろう。たとえば、アメリカン大学の友人たちは、著作権とオンライン学習に関する教師向けの優れた教材をまとめてくれた。彼らが説明するように、フェアユースの法理は、読み上げなどの幅広いオンライン学習の実践を保護している。図書館アドバイザーのカイル・コートニーも、図書館、フェアユース、緊急事態について素晴らしい解説を提供している。
フェアユースの法理を一言で言い表せば、さまざまな条件のもとで、著作権で保護された作品の無断使用を可能にするということだ。著作権者に著作権という、特定の表現の独占権を与えている世界において、フェアユースは創造性と言論の自由を守るための手段となる。著作物の使用が公正〈fair〉であるかの判断に際して、裁判所は二次的使用者の目的(原著作物とは異なる新しい表現であるのか、商業・営利を目的としているか)、原著作物の性質(二次的使用者の目的を達成する必要性以上に使用されていないか)、市場への影響(二次的使用者は原著作物のライセンス市場に潜在的・顕在的な負の影響を与えるか)を考慮する。裁判所は、創造性と革新性を育むという著作権の基本的な目的と、通常は公益に照らして、これら4つの要素を考慮する。現在の危機的状況においては、「公益に照らして」という部分がとりわけ重要になる。COVID-19は、フェアユース分析において考慮されねばならない、強力な公益的目的を新たに作り出している。
人びとはいま、本能的に正しいと感じることを行動に移し、助け合い、光を当て、あるいは単に物質世界においてできることをやっている。多くの場合、彼らの本能は正しいが、自らが法的保護を持ち合わせていることを知らずにいる。たとえそうした人びとが権利と防御〈defenses〉を持っていても、それを行使する方法を知らないか、そうするための資源を持ち合わせていない場合がある。幸いなことに、フェアユースにはEFFという味方がいる。あなたが不当な侵害申立の標的とされてしまったならば、info@eff.orgまで連絡してほしい。
Sharing Our Common Culture in Uncommon Times | Electronic Frontier Foundation
Publication Date: April 10, 2020
Translation: heatwave_p2p
Header Image: Kelly Sikkema