以下の文章は、TorrentFreakの「U.S. Senator Targets Disney With Bill Limiting Copyright Protection Term」という記事を翻訳したものである。

TorrentFreak

共和党のジョシュ・ホーリー上院議員が、著作権保護期間を56年に短縮する法案を提出した。この法案は、ディズニーを筆頭とする大手映画スタジオに遡及的に適用される。フロリダ州の「ゲイと言ってはならない」法への反対など、ディズニーの政治的活動を間接的に罰する狙いがあるようだ。

過去数十年の間、著作権保護期間は世界中で徐々に延長されていった。

米国では現在、著作権は著作者の死後70年間行使できる。また、職務著作物であれば、出版から95年または創作から120年のいずれか短い期間が保護期間となる。

米国における最後の著作権保護期間の延長は、「ミッキーマウス保護法」とも呼ばれる1998年の著作権保護期間延長法だ。この俗称は、ディズニーの人気キャラクターを著作権保護の終了から守ったことに由来する。

著作権保護期間の短縮を提案する新法案

それから20年以上が経過した現在、「蒸気船ウィリー」は再び著作権切れの危機にさらされている。だが、共和党のジョシュ・ホーリー上院議員は、著作権保護期間を再延長するどころか、それを短縮する法案を提出した。

新たに提出された「著作権条項回復法(Copyright Clause Restoration Act)」は、新たな著作物の著作権保護期間を56年間に短縮することを提案している。この変更は、時価総額1500億ドル以上で、映画産業やエンターテイメント産業に属する企業に遡及的に適用されることになる。

後者の条件では、ディズニーを含む大手コンテンツ企業が対象となる。上院議員のウェブサイトでの声明でも名指しされているくらいなのだから、実際そうなのだろう。

「ホーリー上院議員の法案は、新たな著作権保護期間を56年に制限し、不必要に長期間の著作権の独占を認められてきたディズニーのような巨大企業に対し、その変更を遡及させるものである」と記されている

Wokeポリティクス?

著作権保護期間を短縮する提案は、単にクリエイティビティを奨励することだけが目的ではない。多くの共和党議員を怒らせたティズニーの「ゲイと言ってはならない」法案への反対も動機のひとつだ。

先日、フロリダ州のロン・デサンティス知事は、ディズニーの税制優遇を廃止する法案に署名したが、これも同様の動機に基づく行動である。自身の法案についてコメントしたホーリー上院議員は、ディズニーの「woke」な姿勢を糾弾する。

「共和党が大企業に施しをする時代は終わった。議会による特別な著作権保護のおかげで、ディズニーのようなwokeした企業は、wokeした活動家にますます迎合する一方で、数十億ドルを稼ぎ出している」

「今こそ、ディズニーの特権を剥奪し、クリエイティビティとイノベーションの新たな時代を切り開くべきときだ」とホーリー議員はいう。

ミッキー危うし?

著作権情報回復法は、可決されれば間違いなく甚大な影響を及ぼしうる提案である。だが、共和党は上院で多数派ではなく、その可能性は低くそうだ。

そもそもこの法案は、米国を含め多数の国が署名する国際著作権条約のベルヌ条約に抵触しているように見える。ベルヌ条約では、最低限の著作権保護期間は著作者の死後50年間とされている。

仮に著作権保護期間が短縮されたとしても、ミッキーマウスがそのままパブリックドメインになることもない。このキャラクターは近年制作された映画やメディア作品にも登場しているが、そうした作品の保護がなくなるわけでもない。

とはいえ、ディズニーを始めとする大手の権利者たちは、ホーリー上院議員の提案を脅威とみなすだろう。とはいえ、それが彼らの政治的見解や発言を変えるかはまったくの別問題である。

U.S. Senator Targets Disney With Bill Limiting Copyright Protection Term * TorrentFreak

Author: Ernesto Van der Sar / TorrentFreak (CC BY-NC 3.0)
Publication Date: May 10, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Roméo A.

ベルヌ条約からの脱退や著作権保護期間の短縮は、米国に大打撃を与えることは間違いない。が、そこまで考えているとも思えず、ただのポピュリスティックなパフォーマンスなんだろう。

著作権保護期間の短縮には大賛成ではあるのだが、本来的な著作権のあり方よりも、誰かの意見や態度を変えさせることを主眼とした懲罰的な著作権法改正(というより立法)というのは、民主主義にとってあまりに危険な「火遊び」である。