欧州連合知的財産庁が公表した報告書によると、海賊行為はデジタル、フィジカル双方の音楽セールスを害するのだという。欧州加盟国における総損失額は年間収益のおよそ5%、1.7億ユーロに上る。さらに海賊行為は、政府や公共部門への二次的な損失を生み出す引き金にもなるという。
研究者たちはこの十数年、ネットにおける音楽の著作権侵害がレコード産業の収益におよぼす影響について検討してきた。しかし、その結果は一貫していない。
アーティストのタイプや音楽ジャンル、メディア、そのたさまざまな変数が加えられ、ポジティブ、ネガティブ双方の効果が報告されている。
とはいえ、多くの研究が、海賊行為は音楽セールス全体を害すると結論づけている。欧州知的財産庁(EUIPO)が公表した新たな報告書でもこの傾向が確認された。
この新たな研究では、海賊行為が音楽セールスに及ぼす影響を数量化するために複雑なモデルを使用し、2014年のEU全体で5.2%と見積もっている。つまり、海賊行為によるEU全域の損失は1.7億ユーロということになる。
デジタルセールスに与える影響がもっとも顕著で1.13億ユーロ、フィジカル製品に与える影響は5700万ユーロであった。
音楽産業への直接的な影響以外にも、他のセクターに1.16億ユーロの二次的な損害を生み出すとも述べられている。政府に対しては直接税・間接税合わせて6300万ユーロの損失となる。一方、メディアプレイヤーのセールス増加などのポジティブな影響については、この研究では言及されていない。
興味深いことに、海賊行為による推定損害額は、欧州全域で均等ではない。彼らはクリティカルな数字として、EU最大の音楽市場を持つ英国が、4860万ユーロの直接的な損害を被っていると強調している。
また、海賊行為の影響がもっとも顕著なのがスペインとギリシャで、それぞれ8.2%、8%の損失があるという。もっとも影響が小さいのがクロアチアとハンガリーで、いずれも4%未満である。
ここで報告されている損失は、“人びとが違法コピーが行わなかった”場合を仮定した予測的な追加収益であるという点も重要だ。つまり、すべての違法コピーを損失としてカウントしているわけでもないし、海賊行為が一切存在しない状況を想定した収益の可能性を推定しているわけでもない。
EUIPO事務局長のアントニオ・カンピーナスは、この結果は、議論が続く海賊行為論争に追加的な証拠を提供するものだとコメントしている。
「海賊行為がレコード音楽のセールスを減らすのか、増やすのかという問題は、多くの研究のテーマとなっており、それらの結果は一致を見ていない」と彼は言う。
「我々の研究結果は、現在優勢な議論に一致し、海賊行為はデジタル、フィジカル両方のフォーマットで、正規産業の収益を減らすことを明らかにした」
興味深いことに、今週公表されたこの研究は、オンライン海賊行為はデジタル音楽の収益を害しないとしたEUが以前に実施した研究と矛盾している。つまり、今週の研究が海賊行為の影響についての議論に終止符を打つかどうかは、まだまだわからないということだろう。
“Music Piracy Triggers Significant Losses, EU Study Shows – TorrentFreak”
Publication Date: May 25, 2016
Translation: heatwave_p2p
ここで言われているPiracyが何を指すのか、この記事からは読み取れなかったのだけれど、報告書の注釈には、「Piracy consists of making an unauthorised exact copy」とあるので、いわゆるデッドコピーの影響について、というところだろうか。
この報告書で用いられたモデルの妥当性についてはちょっとわからないのだけれど、違法コピー1つ1つを実際の市場価値に換算するような馬鹿げた算出方法ではなく、音楽セールスに影響を及ぼすであろう変数を投入し、実際の損失を推定しようとする試みであることは確かだ。
数値的には若干高いかなと思いつつも、こんなものかなという印象。コンテンツ産業が大騒ぎするほどに深刻ではないし、かと言って楽観視できるほど少なくもない、というくらいの。
フィジカルよりデジタルのセールスに大きな影響を及ぼしているのは、それぞれの持つ価値の違い、CDから配信へのシフトなどが影響しているのだろうか。違法コピーで手に入るものは、まさにデジタル配信で入手できるものであるので、競合してしまうというのは道理にあっている。ただ、サブスクリプション型の音楽ストリーミングサービスとなると、また別の価値がもたらされるので、買い切りの音楽配信とはまた別の影響があるかもしれない。