TorrentFreak

ビデオエッセイを製作するYouTubeユーザが、スタンリー・キューブリックをテーマとした作品をYouTubeにアップロードしたことで訴訟を起こされた。Channel Criswellの運営者で英国在住のルイス・ボンドを訴えたのは、1971年の名作『時計じかけのオレンジ』のサウンドトラックの音楽出版社で、故意の侵害に対し莫大な損害賠償を求めている。

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ほとんどの著作権侵害裁判は、ファイル共有に関連して、米国で起こされている。必然的ではあるが、そのほとんどは、巨大なエンターテイメント企業が一般大衆に戦いを挑むという構図になっている。どうやらこのアリと巨人の戦いは、あなたの近くのYouTubeチャンネルにまで迫ってきているようだ。

先週金曜、TorrentFreakは、YouTubeのChannel Criswellに投稿されたビデオのリンクを受け取った。そのビデオでは、明らかにうろたえ、困惑する若者が、何とか冷静を保ちつつ、驚きの出来事を伝えている。


「数時間前、裁判所から召喚状が届いた。訴えられた理由は、2月にアップロードしたスタンリー・キューブリックのビデオだって。どうしたらいいか、わからないよ」とChannel Criswellのルイス・ボンドは話す。

「これはもうすべて終わったことだと思っていたし、訴えられるなんて思いもしなかった。でも、僕は著作権侵害で訴えられたみたいで、僕を訴えた人たちは、最大限の損害賠償、正確に言うと最高150,000ドル(約1600万円)を支払えと。もう、もう終わりだよ……」と彼は声をつまらせた。

この事件について理解するためには、ルイスの作品を検証しなくてはならない。以下にエンベッドしたビデオを数分見ただけも、彼の作品が大量の解説と批評にあふれたドキュメンタリーであることがわかる。ルイス・ボンドは才能ある人物である。


ボンドが自らの窮状について訴えている5分間のビデオのなかで、彼は訴訟を起こした人物の名前に言及することはなかった。しかし我々は、この裁判の原告が米国のSerendip LLCであることを突き止めた。彼らの申し立てはキューブリック自身とは無関係であった。

今年3月にニューヨーク地方裁判所に提出された訴状のなかで、Serendip LLCは作曲家ウェンディ・カルロスが作曲した音楽の著作権を所有していると説明する。カルロスは『機械じかけのオレンジ』(1971)、『シャイニング』(1980)のサウンドトラックを作曲・製作している。今回の提訴は前者に関するものだった。

「本件における問題の3篇の楽曲、映画『時計じかけのオレンジ』のサウンドトラックの『時計じかけのオレンジ・タイトルミュージック』、『時計じかけのオレンジ ~マーチ』『ウィリアム・テル序曲』が使用された」とSerendipは説明する。

「被告ルイス・ボンドは、Serendipへの通告、許諾、ライセンスなく、『Stanley Kubrick – The Cinematic Experience』なるビデオのサウンドトラックとして、ウェンディ・カルロスの音楽・録音作品の二次的著作物を製作した」

「被告は、2016年2月20日、あるいはその辺りに、自己の利益のため、とりわけこのビデオでのマネタイズを目的として、ユーザ名Channel Criswellを使用し、YouTube.comにこのビデオをアップロードし、YouTubeビデオへのリンクをTwitter.comおよびPatreon.comに掲載した」

Serendipはこのビデオ(上記にエンベッド)について、「スタンリー・キューブリックの映画から切りだされた12篇の短い断片」とともに「原告が指摘する3曲から取り出された約3分間の集合体」と評している。

この出版社は、ボンドが使用した音楽は「7分間のうちの18%から、2分20秒間のうちの45%まで」楽曲の「相当の分量」が使用されていると主張する。

幸せだったころのルイス
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Serendipが訴えた訴訟では、フェアユースについてまったく触れられていないが、その反論への予防線もしっかりと張られている。同社は、ボンドのキューブリック作品に関する解説が、音楽的な分析にまでは至っておらず、カルロスの作品は文脈に関係なく使用されていると主張する。

「5分間の『ウィリアム・テル序曲』を除き、楽曲は『時計じかけのオレンジ』のサウンドトラックと同様に映像と同期しておらず、キューブリックの映画やビデオから切り取られた無関係な断片映像の背景として使用されている。ビデオの解説は音楽について一切触れておらず、ビデオ内に表示される文脈とも無関係である」と訴状にはある。

Serendipによると、彼らは2月にYouTubeに削除通知を送付し、それを受けてYouTubeはビデオの公開を停止した。しかし、ボンドは反対通知を申し立て、YouTubeは「Serendipは10営業日以内に連邦裁判所に裁判を起こさなくてはならない。さもなくば、YouTubeはこのビデオをYouTube.comに回復する」として、それを受け入れた。

この時点でボンドはSerendipが度を越していると感じており、Serendipによると、彼はこうした懸念を感じていることを複数回にわたって書き込んでいたという。Serendipはこのユーチューバーを訴えることを当然の帰結と考えているようで、彼の行為を「意図的、意識的、目的的であり、Serendipの権利に無関心で、軽視している」と表現している。

この出版社は、差止命令に加え、1侵害につき最高150,000ドルの法廷損害賠償と弁護士費用の支払いを求めてもいる。

この裁判がどのような結末に至るかはいまだ不明だが、容易なソフトターゲットをいたぶることによって、Serendipはインターネットの大衆からの不評を買うかもしれない。アレックスはルドヴィコ療法によって、彼が敬愛するベートベンを聞くたびに猛烈な吐き気をもよおすようになった。悲しいことに、この裁判は、名作『時計じかけのオレンジ』のファンを、アレックスと同じようにしてしまうかもしれない。

“YouTuber Sued Over Stanley Kubrick Movies Analysis – TorrentFreak”

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: June 06, 2016
Translation: heatwave_p2p
Header image: Fiona Makkink CC BY-SA 3.0

映画ではアレックスはルドヴィコ療法から回復し、ふたたび悪の道へと身を堕とすであろう含みを持って終幕するのだけれど、この裁判ではどうなるのだろうか。

このビデオにおけるBGM使用がフェアユースとしては認められないだろうというのは、個人的にも同意ではある。動画のBGM使用くらいで非常に大げさだなぁとは思うものの、かといってSerendipがやり過ぎかと言われると、彼ら自身も手を尽くし、選択肢は見逃すか、訴えるかしかない状態に追い込まれた末のアクションであるとも思う。おそらく裁判で争うのではなく、法廷外での解決に至ることを見越しての訴訟なのだろう。

個人的には著作物の使用は、非営利かつ元作品の市場価値を直接損なわない限り、自由であるべきだとは考えている。ただ、今回のケースが本当に非営利かどうかはわからないので、なんとも言えないところではある。広告を掲載しているからただちに営利的であるとは思わないが、それなりの収益を得ていたのであれば、営利目的と指摘されても仕方がない。

全体として、このユーチューバーも脇が甘いなとは思うし、Serendipも現在の制度上は間違ったことはしていないのだけれど、もう少しソフトランディングというか、ゆるやかに解決できる経路があっても良いとは思う。それをうまくつくるというのがまだ非常に難しいのだろうけれども。