以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Wellness surveillance makes workers unwell」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

「全国的な対話」という言葉は、意味のないありきたりなフレーズに聞こえる――それを実際に経験するまでは。私が実際に積極的に参加した最初の対話は、スノーデン事件後のプライバシーに関する国家的な対話、というより世界的な対話だった。

この出来事は私の娘が5歳の時に起こった。妻とニュースについて話していると、当然ながら娘が興味を示した。私は文字通り「5歳児にもわかるように」世界規模の大量監視について説明しなければならなかった。

https://locusmag.com/2014/05/cory-doctorow-how-to-talk-to-your-children-about-mass-surveillance/

しかし、子育ては双方向の営みである。私が子どもに監視について説明する一方で、子育ての経験は私自身の監視に対する考え方も変えた。もちろん、監視がもたらす数々の害悪については知っていた。だが子育てを通じて、監視について最も重要でありながらあまり議論されていない側面、つまり監視が本来の自分らしさを損なうという側面を、身をもって理解することができた。

https://www.theguardian.com/technology/blog/2014/may/09/cybersecurity-begins-with-integrity-not-surveillance

当時、私はこう書いた。

「娘が自分の能力の限界に挑戦しているとき、つまり絵を描いたり、踊ったり、文字を書いたり、歌ったり、何かを作ったりしているときに、私が見ていることに気づくと、恥ずかしさと苛立ちが入り混じった表情を浮かべ、より習熟しているタスクに切り替えてしまう。小さな子どもでさえ、他人の前で愚かには見られたくないのだ」

学び、成長、そして自己実現には、プライバシーが守られた領域が必要だ。つまり、誰にも観察されない時間と場所を必要とするのである。権力者による継続的で細かな監視は、我々に説明責任を持たせるどころか、成長がほぼ不可能な、窮屈で不本意な生き方を強いることになる。右翼の文化戦争における監視の役割について指摘する声もある。「武装した社会は礼儀正しい社会である」というのは、「存在するだけで私に居心地の悪い思いをさせる人々は、本来の自分を隠さざるを得ないほど恐怖を感じるべきだ」という意味の婉曲的表現に過ぎない。「ゲイと言うな法」や反トランスジェンダー法案の目的は、ジェンダーノンコンフォーミティー1訳注:社会的・文化的に期待されるジェンダー規範に異議を唱えたり、抗う人や、その行動や表現、考え方などを指す言葉を排除することではない。それを隠蔽するためのものなのだ。

これらすべてを踏まえれば、「ウェルネス」の名の下に職場で監視される労働者が、その結果として不健康になるのも当然である。

https://www.ifow.org/publications/what-impact-does-exposure-to-workplace-technologies-have-on-workers-quality-of-life-briefing-paper

Future of Work Instituteの調査によると、同僚とのコラボレーションやコミュニケーションを容易にするようなシステムは、労働者のウェルビーイング(幸福度)を向上させる。しかしウェアラブルデバイスやAIツールは、労働者の気分を著しく悪化させる。

https://assets-global.website-files.com/64d5f73a7fc5e8a240310c4d/65eef23e188fb988d1f19e58_Tech%20Exposure%20and%20Worker%20Wellbeing%20-%20Full%20WP%20-%20Final.pdf

これらのネガティブな感情を報告した労働者たちは、これらのツールによって「監視されている」と感じていた。そりゃそうだ。こうしたツールは名目上、仕事の効率を上げるためのものだが、明らかにボスが部下をいつでも追跡できるように設計されている。ブランドン・ヴィグリアロロがThe Registerで指摘するように、これらは投資家に対して、AIを導入して労働者をクビにする計画を豪語してきたボスたちと同じなのだ。

https://www.theregister.com/2024/03/14/advanced_workplace_tech_study

「ボスウェア(Bossware)」は「規律テクノロジー」というクソ色の虹の代表例であり、ユーザの監視とコントロールを容易にすることで人間の主体性を奪うツールである。

https://pluralistic.net/2020/07/01/bossware/#bossware

ボスウェアは「クソテクノロジー採用曲線」の一段階である。これは、虐待的で悲惨なテクノロジーが階級の勾配を上っていくプロセスであり、その推進者たちはディストピア的なテクノロジーを洗練し、正常化することで、社会の幅広い層に押し付けていこうとする。

https://pluralistic.net/2021/02/24/gwb-rumsfeld-monsters/#bossware

ボスウェアが収集する指標は、労働者にとって有用かもしれない。ただし、そのデータをいつ、誰と、どのように共有するかを労働者自身が決定できる場合に限られる。Microsoft Officeは辞書に登録されていない単語に下線を引くことでタイプミスを発見するのに役立つ。一方、クラウドベースで「AIを搭載した」Office365は、あなたが部署内で11番目にスペルミスの多い社員であることをボスに報告し、「感情分析」を使ってトラブルを起こす可能性を予測する。

https://pluralistic.net/2022/08/21/great-taylors-ghost/#solidarity-or-bust邦訳記事

200年前、ラッダイトたちは機械に対して蜂起した。よく聞く歴史的な中傷とは異なり、ラッダイトたちは機械に怒りや恐怖を感じていたわけではない――彼らは機械の所有者に怒っていたのだ。彼らは正しく理解していた。「子どもでも使える」機械の目的は、熟練した成人労働者を解雇して、ナポレオン戦争で誘拐・孤児となった年季奉公の子どもたちに置き換えることだった。孤児たちが仕事中に怪我をしても、あるいは死んだとしても、何のお咎めもなかった。

https://pluralistic.net/2023/03/12/gig-work-is-the-opposite-of-steampunk/

100年前、「テイラー主義者」たちは工場主たちの足跡に続いた。疑似科学的な手法で労働者の動きを細部に至るまで振付けし、ボスを喜ばせるロボットのような効率性という、ある種のカブキをプロデュースしたのだ。AIを基盤とする新しいテイラー主義はさらにその先を行く。ギグワーカーがスト破りを拒否すれば自動的にブラックリストに載せられ、「自営業者」のコールセンターオペレータは自宅で監視され、Amazonの配送ドライバーは目の動きまで監視される。

https://pluralistic.net/2023/04/12/algorithmic-wage-discrimination/#fishers-of-men

AIベースの監視テクノロジーは、労働者の賃金を差し引き、一時停職にし、さらには解雇まで行う。労働者が異議を申し立てても、「コンピュータはノーと言っている」という究極形態のチャットボットと議論するしかない。

https://pluralistic.net/2024/01/11/robots-stole-my-jerb/#computer-says-no

AIが労働者を「拡張」し、生産性の向上に貢献したという研究は数多くあり、私は自動化が仕事の効率化に役立たないとは決して思わない。

https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/en-us/report/augmented-workforce

しかし、AIが階級闘争をどのように拡張するのか――ミクロマネジメントに執着するクソボスのサディスティックな妄想をも超えるスケール、スピード、粒度で労働者を規律化するのか――を理解しなければ、これらの研究は無意味である。

ボスたちは「ウェルネス」を向上し「バーンアウト」を防ぐために監視を課すという。皮肉なことに、継続的に監視され判断されることほど、人を疲弊させ、惨めにし、怒らせるものはないのである。

(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)

Pluralistic: Wellness surveillance makes workers unwell (15 Mar 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: 15 March, 2024
Translation: heatwave_p2p

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