80年以上の長い人生を歩んできたご老人には、穏やかな日常を過ごしてもらいたいと願うのが人情であろう。しかし、英国在住のPatricia Drewの穏やかな日常は、著作権トロールによって打ち砕かれた。彼女のもとに、インターネット上で著作権侵害を行ったとして、600ポンドの支払いを求める請求書が送りつけられた。
2014年9月、われわれは英国でTCYK LLPとインターネット・サービス・プロバイダSkyとの裁判についてお伝えした。TCYKは、ロバート・レッドフォード監督主演映画『The Company You Keep(邦題:ランナウェイ/逃亡者)』の代理人である。
TCYK LLPは裁判の末、無断でこの映画をダウンロードしたとされる加入者の情報を開示するようSkyに命じる判決を得た。そして2015年3月、Skyは加入者の情報を開示したことを明らかにした。
昨年夏、Skyの加入者のもとに、インターネット著作権侵害に対し数百ポンドの補償を求める請求書が郵送で送りつけられた。
TCYKは送付した文書のなかで、請求書の受取人(個人情報を入手できた個人のみ)に対し、特定の人物が侵害に関与したという証拠は持っていないことをほのめかしている。しかし、たとえ受取人自身が何らやましいことをしていなかったとしても、自分がやったと認めるべきだとTCYKは主張する。
こうした絨毯爆撃アプローチを採るほかの会社と同じように、事態はTCYKにいささか不都合なほうに動き出した。BBCが、彼らのターゲットにされた人物を取り上げたのだ。
ウェストミッドランドの中心にあり、かつて工業地たちとして栄えたブラック・カントリーに住むPatricia Drew。彼女は82歳の年金生活者だ。TCYKは、彼女のインターネット接続から『The Company You Keep』がダウンロードされたと主張し、600ポンドを支払うよう迫っている。
2015年11月、TCYKが最初にPatriciaに送った文書によると、著作権侵害は2013年4月25日に行われたという。若者ですら2年半前のことを思い出すのは難しいのに、81歳の彼女にはなおさら困難であろう。
それでも、TCYKは彼女が著作権侵害をしたという主張を曲げず、2通目の請求書を送付した。彼女はTCYK側の主張を認めてはいない。
「見に覚えのないことで責められて困惑しています……。ほかにもどれだけの人が、同じ目にあっているのでしょうか?」と彼女はBBCに語った。
TCYKがこうした悪評を未然に防ぐ礼節や常識を備えているかどうかは定かではない。しかし、サウザンプトン Lawdit Solicitorsの事務弁護士Michael Coyleは、この手の申し立ては今に始まったことではないという。
昨晩、Coyleがわれわれに語ったところによると、この種の申し立ては「詐欺の典型」であり、その結果、Patriciaのように自分を守らなくてはならない人たちが、彼のもとに殺到しているのだという。
数カ月前、Coyleはチャリティへの寄付をお願いする代わりに、ターゲットにされた人たちの弁護を無料で開始した。しかし現在は、100ポンド以下の料金で引き受けているという。
「チャリティに20000ポンドをファンドレイズすることができました。クライアントは350〜400人くらいだったのですが、その倍の人が寄付してくれたんですよ」とCoyleはTorrentFreakに教えてくれた。
「実費として75ポンド(プラス付加価値税)をいただくことにしましたが、それでもよそではありえない料金だと思います」
Coyleはいわゆる「投機的請求(speculative Invoicing)」を行う会社を批判しつつ、このような手法を可能にした裁判所命令にも問題の一端があると言う。
「後の祭りかもしれませんが、膨大なIPアドレスに情報開示命令が出されたために、こうした有害かつ広範囲におよぶ濫用が行われたと言わざるを得ません」とCoyleは言う。
しかし現在のところ、英国内にはびこる著作権トロールの活動を、裁判所が制止するような兆しは全く見られていない。ターゲットにされた人びとにできる最大限のことは、支払いを拒否することによって、この「投機的請求」ビジネスモデルを崩壊に追い込むことである。そのためにはターゲットにされた人たちが力を合わせる必要があるのだが、トロールはそれを許さないほどに脅迫的である。
“82-Year-Old Great-Grandmother is a Pirate, Trolls Say – TorrentFreak”
Publication Date: February 12, 2016
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: EFF Photos / CC BY 2.0
ターゲットにされたPatricia Drewの義理の娘さんによると、著作権侵害が行われたとされる日に自宅にいたのはPatriciaだけであったという。しかし、彼女がファイル共有の仕方など知る由もなく、著作権侵害の訴えなど「馬鹿げている」と話す。
BBCの記事にあるように、Wi-Fiタダ乗りされたとかその類だと思うけれども。