英国のインターネット・サービス・プロバイダの業界団体が、『今年のインターネットの敵(Internet Villain of the Year)』大賞に悪名高き著作権トロールをノミネートした。大手ISPやGoogleをメンバーに持つISPAは、TCYK LLCがインターネット加入者に対して「憶測に基づく請求」キャンペーンを展開したとして最終候補者にした。
1995年に英国で設立されたインターネット・サービス・プロバイダ協会(ISPA)は、同国初のISP業界団体である。ISPAは、児童虐待を防止するインターネット監視財団の設立に尽力したほか、競争やイノベーションの促進や、業界の自主規制を担っている。
ISPAは現在、国内最大手のISPであるBT、Virgin、Skyなどの代表を含む10名の評議会に率いられている。ISPAには134団体が加盟し、AOL、AT&T、EEなどの通信事業者や、Google、Microsoftなどのテクノロジー企業も含まれている。
ISPAは毎年、ISPAアワードを開催している。ISPAが、インターネットの安心・安全に貢献した人物・団体を称える式典だ。
今年の候補者が公表され、例年通り、監視やプライバシーが主要なテーマとなっている。たとえば、Appleは暗号化やプライバシーへの関わりから『インターネットのヒーロー』としてノミネートされる一方、FBIはセキュリティを侵そうとしたとして、『インターネットの敵』にノミネートされている。
残念なことに、今年の『インターネットの敵』は強豪揃いだ。ドナルド・トランプは「インターネットを一部閉鎖しろ」と言い放ったことでノミネートされ、モサック・フォンセカはその貧弱なサイバー・セキュリティによってノミネートされている。
しかし、TF読者にとっては、あの悪名高き著作権トロールがついに「2016年のインターネットの敵」大賞にノミネートされたことに注目するだろう。
TorrentFreakはこれまで、TCYK LLCの活動について数多くの記事でお伝えしてきた。同社はロバート・レッドフォードの『ランナウェイ/逃亡者』の製作者らを代表し、英国のインターネット加入者に対し、ファイル共有を行ったとして和解金を請求する書面を送付している。
「TCYK LLPは、著作権侵害をしたとみられるユーザを標的にした『憶測にもとづく請求』キャンペーンを展開し、ある国会議員から『馬鹿げている』とまで言われたことを持ちまして、ノミネートされました」とISPAは今週アナウンスしている。
しかし、ISPAがこの辛辣な年間大賞に著作権トロールをノミネートしたのはこれが初めてではない。2011年、ACS:Lawのオーナー、アンドリュー・クロスリーがノミネートされ、「インターネットの敵」大賞を受賞した。
クロスリーは最終的に破産し、事務弁護士としての活動を禁止されたが、この賞の受賞が、TCYK LLCの活動を阻止できるかは難しいところだ。TCYK LLCとそのパートナーたちは、クロスリーの失敗を念頭に十分に対策を練っており、それが彼らを打たれ強くしている。しかし、流れが変わり、TCYKが厳しい状況に陥れば、彼らは英国から立ち去るかもしれない。
その意味では、TCYKが今年のインターネットの敵としてノミネートされてたことは実に喜ばしい。しかし、ISPAが消費者を守るために、この胡散臭い著作権トロールに立ち向かってくれれば、さらに効果的かもしれない。そうなるまで、消費者は著作権トロールにいびられ続けることになるだろう。
ISPAアワードの受賞者は2016年7月7日、ロンドン市のブリュワリーで発表される。
“ISP Association Nominates Copyright Troll As ‘Internet Villain’ – TorrentFreak”
Publication Date: June 15, 2016
Translation: heatwave_p2p
Header Image: EFF Photos / CC BY 2.0
「インターネットの敵」部門は確かに強豪揃いなのだが、個人的に気になったのは、「インターネットのヒーロー」としてノミネートされているニコラ・ブラックウッド下院議員。暗号化禁止法とも呼ばれた調査権限法案(IP bill: Investigatory Powers Bill)の是非をめぐり、彼女が科学・テクノロジー委員会委員長として提出したレポートで、英国のテクノロジー産業を害すると報告したことを評してノミネートされている。
調査権限法案は現在も審議が続いており、英政府は暗号化規制について大きく譲歩したものの、いまだインターネットユーザの安全やプライバシーを脅かすものとして危惧されている。