Googleがインターネットの検閲の立ち向かい、中国の検索市場から撤退して8年が経つ。現在Googleは、大規模な検閲と監視を続ける中国との協力関係を秘密裏に再検討していたとの報道に失望している。今月始めのInterceptの記事によると、Googleは中国でリリースする検閲版の検索サービスの開発を進めているという。
2010年、EFFをはじめとする多数の団体が、中国市場へのアクセスを失ってでも自社のバリューを守るというGoogleの決断を称賛した。この動きの背景にあったのは、中国の著名人権活動家らの個人データを標的としたGoogleへのサイバー攻撃や、市民からの反発だった。Googleの中国撤退は、インターネット企業の打算において、短期的な経済的利益よりも基本的人権に対するコアバリューが優先される可能性を示した。
しかし、Googleはその道を逆行してしまったようだ。
Google以外にも、米国テクノロジー大手が中国進出・事業継続のためにバリューを捨て去る例は枚挙に暇がない。Facebookは検閲版の同社プラットフォームのパイロット版を稼働させているし、Appleも先日中国国内でホストされるサーバーに顧客データを移したり、中国リージョンで台湾国旗の絵文字を非表示にしたことで、批判に直面したばかりだ。
中国国内でGoogleの直接の競合となるBaiduは、不正医療広告問題や、Baiduサービスを優先する検索順位の操作、フィッシングサイトのプロモーション疑惑などをめぐり、社会的、規制的、経済的な強い反発に直面している。中国の検索エンジン市場において、競合への期待が高まっているには確かだ。
このような変化があるにしても、Googleは注意深く踏み出さなくてはならない。かつて中国市場からの撤退が相次いだころ、インターネット企業が人権侵害に加担しないよう、GoogleはMicrosoftやYahoo!とともに、Global Network Initiative(GNI)を設立し、人権意識が著しく低い国との協業に関するスタンダードとなる実施ガイドラインを策定している。EFFはGNIの創設メンバーではあったが、企業側が国家監視への関与について(機密環境においてでさえ)情報の提供を拒んだため、2013年に脱退した。
今回の合意が、このプロジェクトのスタンダードを満たしているかどうかは外部からは見えてこない。GNIの事務局長は、報道に対し「すべての加盟企業は、いかなる運用においてもGNIの原則を実行し、マルチステークホルダーの理事会が監督する独立した評価の対象となる」と述べているが、GNIとGoogleの両者が予め、その手続に従うことや、その評価の結果について公表していれば、Googleの従業員や批判者たちも安心できたことだろう。
しかし、Googleは中国再進出計画について公表せず、さらに自社の従業員にも秘密裏に進めることを選択している。
2006年から2018年へ:Googleと中国の双方がさらに強力な存在に
2006年時点の懸念は現在も変わらない。しかし、2018年現在、大手テクノロジー企業が抑圧的な国家と手を組むことによる弊害の大きさはより一層は高まっている。
2006年以降、Googleの権限は格段に大きくなっていった。上位100万サイトのうち75%にGoogleの追跡スクリプトが埋め込まれている時代を私たちは生きている。またGoogleのパーソナライズされた複数のオンラインサービスによるプロファイルは、「関連」検索結果や広告の提供に利用されている。
同時に、中国政府は自らの地位を固める強力な検閲体制を敷き、社会の隅々にまで浸透する監視法やテクノロジーを社会に組み込んできた。特に「Weibo」や「WeChat」のような中央集権化されたアプリケーションの爆発的な拡大は、コミュニケーションやトランザクションの常時監視・検閲を可能にし、最終的に中国のデジタル環境を書き換えてしまった。
2017年には、中国インターネット全体でデジタル監視の強化を目的とした取り締まりが頻発した。政府は匿名化やプライバシーのために用いられるツールの制限を開始し、国内VPNプロバイダを逮捕し、Whatsappなどのエンド・ツー・エンドのチャットアプリケーションを禁止し、インターネットプラットフォームにオフラインでの本人確認を徹底するよう要求している。中国のある地域では、ユーザがWhatsappやTelegramのような外国の暗号化アプリケーションを使用しようとした場合、ユーザの通信を遮断し、警察に通報するよう求められている。
Googleが計画するアプリが中国の新たな規制を遵守しているのかどうか、あるいは何らかの免除があるのかどうかは明らかではない。
この初期の段階において、私たちが最も懸念しているのは、透明性の欠如である。
Googleの透明性はどこへ行ったのか
Googleはかつて、秘密主義で知られるAppleのようなテック大手とは異なり、組織内部の透明性を誇っていた。しかし、国防総省の軍事プロジェクト「Project Maven」への参加を巡る問題のように、組織役員たちは、反発の可能性を察知してプロジェクトを秘密裏に進めようとしている。このイニシアチブは公表されておらず、従業員が内部ディスカッションフォーラムで取り上げたことから発覚した。
Googleが中国における同社サービスの品質と性質についてオープンであった(さらには謝罪した)2006年とは異なり、再進出計画は外部にも、内部にもほとんど知らせることなく進められてきた。The Interceptの報道によると、Googleの中国プロジェクトについて知っていたのは、「88,000人の従業員のうち、わずか数百人程度に制限されていた」という。Project Mavenも公表されていなかったが、この情報は少なくとも従業員にはアクセス可能ではあった。しかし今回は、この計画に関するメールがメディアにリークされたあとになってはじめて、大多数の従業員が中国プロジェクトの存在を知ったのである。
つまり、社会に対してだけでなく、Google自身のスタッフでさえ、疑問は解決されていないのだ。中国市場に参入するために、Googleは自らのサービス運用にどれほどの犠牲を支払うのか。中国内部の制限的な規制に準拠しなくてはならないのか。中国政府への屈服が中国以外で提供されるサービスにどのような影響を及ぼすのか。
一般ユーザも、Googleユーザも、Google従業員でさえも、同社が自らのバリューをどれほど犠牲にするのかを知らない。その犠牲は、中国や米国の市民のみならず、世界中のインターネットユーザの生活に大きな影響をもたらしかねないにもかかわらず。GoogleはGlobal Network Initiativeにおいて、新規市場に参入する際、人権を考慮するプロセスを遵守するという。果たして彼らはそれに従っているのか。
Googleは世界中のインターネットにおける支配的なゲートキーパーとなっている。無数の人がインターネットにアクセスする際のポータルとして利用し、Google自身は様々なプラットフォームを越えて、Googleユーザの情報を収集し続けている。Googleの内部・外部のすべての人たちが、Googleを絶えず警戒し、この巨大企業に説明責任を突きつけていかなくてはならない。たとえ社内の監視や批判を逃れたとしても、共犯的なサービスのローンチや、Googleの屈服が中国ユーザにもらたらす悪影響への批判を免れることはできない。被害がもたらされてからでは遅いのだ。今こそ、議論を深めなくてはならない。
Google Needs To Come Clean About Its Chinese Plans | Electronic Frontier Foundation