以下の文章は、電子フロンティア財団の「X’s Last-Minute Update to the Kids Online Safety Act Still Fails to Protect Kids—or Adults—Online」という記事を翻訳したものである。
先週末、上院は子どもオンライン安全法(KOSA:Kids Online Safety Act)の最新版を公開した。この法案は、X社のCEOリンダ・ヤッカリーノの助言を受けて作成されたとされるが、表現の自由に関わる本質的な問題は依然として解消していない。この最終修正案も、根本的には違憲のの検閲法案であり、インターネットユーザ全体の表現の自由とプライバシーを脅かすものとなっている。
表現の自由の保護も、プラットフォームの保護も、子どもの保護も実現できない修正案
法案の推進者たちは、今回の修正で表現の自由への影響が最小限に抑えられたと強調する。だが、これまで指摘してきた通り、KOSAの最大の問題点は「注意義務」条項にある。この条項により、さまざまなオンラインサービスが、投稿内容に基づいて運営ポリシーを変更しなくてはならなくなる。推進者たちは、KOSAはプラットフォームの設計だけを規制し、表現内容には触れないと主張するが、これは事実に反する。摂食障害や依存症、自殺行為などの法案が列挙する問題は、プラットフォームの設計によって引き起こされているのではない。
推進者たちは、個人の表現を保護することと、KOSAによってプラットフォームに課される責任からプラットフォームを守ることの間にある決定的な違いを見落としている。
皮肉なことに、KOSAは依存症や摂食障害、いじめなどに関する有益な情報リソースへのアクセスが制限し、子どもたちのリスクを増大させることにつながりかねない。サービス提供者は年齢確認と厳格なコンテンツ規制を導入せざるを得なくなり、その結果、未成年者が支援してくれるオンラインコミュニティを見つけることも、参加することも難しくなる。こうした理由から、私たちは2022年の法案提出時から一貫して反対の立場を取ってきた。
今回の修正は、「注意義務」条項に以下の文言が追加されただけである。「本条のいかなる規定も、政府機関が米国憲法修正第1条で保護された表現や情報に基づいて、(a)項(注意義務)を執行することを認めるものと解釈してはならない」。しかし、ユーザの表現はそもそもKOSAの注意義務の対象ではなかった。注意義務はプラットフォームに課される義務であり、ユーザに課されるものではない。問題は、プラットフォームがユーザの意見を共有できなくなることだ。ユーザの表現への責任を問わないという文言を追加しても、法案の解釈や執行の実態は何も変わらない。このような文言が追加されたところで、公正取引委員会(FTC)はプラットフォーム上の表現内容を理由に、運営者の責任を問うことができる。
例を挙げよう。redditで摂食障害からの回復を支援するフォーラムがユーザによって作成・運営されているとする。そこでの議論が完全に合法で、多くの場合有益、時には命を救うような情報であっても、FTCはそうした情報を未成年者に見せたことを理由に、redditに注意義務違反の責任を問うことができる。LGBTQをテーマにしたFacebookグループや、Xのアルゴリズムが表示した薬物使用に関する投稿でも同様の事態が起こり得る。プラットフォーム側が「これは憲法で保護された表現だ」と主張しても、FTCは「個別の意見表明を問題にしているのではなく、サブレディットやFacebookグループ、アルゴリズムといった設計機能を通じて、そうした表現を未成年者に届けたことが問題だ」と反論できる。追加された条項は、KOSAがそもそも規制対象としていなかったユーザの表現を保護するという、見せかけだけの免責規定にすぎない。プラットフォームは依然として、そうした表現を配信した責任を問われることになる。
この文言の作成にX社――おそらく法律の対象となるプラットフォーム――の経営陣が関わっていたことを考えると、甚だ残念だ。彼らは、個人の表現の保護と、KOSAによって自社に課される責任からの保護が、まったく異なる問題であることを理解していない。
「強迫的使用」の定義は法案の適用範囲を限定しない
KOSAの問題の1つには、曖昧な有害リストの問題もある。プラットフォーム側には、どこまでが許容され、どこからが違反になるのか、明確な基準が示されていない。今回の修正では、「うつ病性障害と不安障害」について、「強迫的使用に関連する、客観的に検証可能で臨床的に診断可能な症状」という条件が加えられた。しかし、「強迫的使用」の定義自体が曖昧なままだ。「社交、睡眠、食事、学習、読書、集中力、コミュニケーション、仕事など、一つ以上の主要な生活活動に重大な影響を与える、持続的かつ反復的なプラットフォームの利用」とされているが、これでは範囲を狭めたことにはならない。
法案は、それがネガティブな影響を与えるものだけに限定することすらしていない。
そもそも、オンラインサービスの「強迫的使用」に関する臨床的な定義は存在しない。KOSAの過去のバージョンと同様、この定義も医学用語や法律用語を寄せ集めてもっともらしく見せているにすぎない。実際には具体的な法的意味を持たず、危険なほどに曖昧をはらんだものになっている。
ソーシャルメディアを継続的に利用すれば、ユーザの社交やコミュニケーションの仕方は、当然変化するだろう。しかも法案は、その変化が悪影響であることすら要件としていない。好きな相手のInstagramへのコメントで数日眠れなくなることもあれば、YouTube動画で仕事が手につかなくなることもある。10代の少女がSnapchatを始めれば、友だちとの連絡手段も大きく変わるだろう。しかし、それが「強迫的」で必然的に有害だということにはならない。
それでもFTCは、KOSAを武器化して、うつ病や不安を引き起こす可能性があると判断したコンテンツを未成年者に見せたという理由で、プラットフォームに責任を問うことができる。そのコンテンツによって誰かの睡眠が妨げられたり、あるいは単に誰かの社交やコミュニケーションの仕方が変わったりしたと主張できれば、それで十分なのだ。こうした「害悪」の定義では、中絶へのアクセスやジェンダーアファーマティブ・ケアから、薬物使用、学校での銃撃事件、タックルフットボールに至るまで、完全に合法で有益な情報の大半が規制対象となりかねない。
危険な検閲法をマストパス法案に紛れ込ませるな
最新のKOSA草案は、FTC委員長候補のアンドリュー・ファーガソンが「トランスジェンダーのアジェンダに対抗する」ことで表現の自由を守ると表明した直後に公開された。私たちは何年にもわたって(そして法案のあらゆるバージョンについて指摘してきたように)、KOSAは現在および将来の政権のFTCに、未成年者に見せてはいけないコンテンツを決定する広範な裁量権を与えることになる。KOSAが可決されれば、たとえそれが執行されなくても、プラットフォームは憲法で保護された表現を削除し、年齢確認を義務づけるようになるだろう。FTCは単に、子どもに有害だと考えるコンテンツの種類を示唆するだけで、執行の脅しを使ってプラットフォームに従わせることができる。
どの議員も、この論争を呼ぶ違憲の法案を継続決議に含めることを検討すべきではない。事実に基づくオンラインコンテンツの検閲をプラットフォームに強制する法律を、マストパス法案に紛れ込ませるべきではない。
Must-Pass Legislation
Author: Jason Kelley and Molly Buckley / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 12, 2024
Translation: heatwave_p2p