最近、米国やブラジルなどアメリカ大陸で実施された選挙では、「フェイクニュース」の影響が大きく懸念された。EFFは2月はじめ、同地域における虚偽情報の規模や影響に関する調査を進める米州機構(OAS)に意見書を提出した。我々は既知のリスクを認めつつも、オンラインの脅威に対する過剰反応が、同地域の表現の自由を犠牲にしかねない危険性を指摘した。
これは過剰反応が起こるかもしれないという仮定の話ではない。2018年の1年間に、17の政府が、インターネット上の情報操作対策を理由に、オンラインメディアを制限する法律を承認、または提案している。そして少なくとも10カ国で、「フェイクニュース」を広めたとして、市民が起訴、刑事訴追されている。虚偽情報の拡散は新しい現象ではなく、「フェイクニュース」とレッテル貼りをしてあらゆる批判を根拠のないプロパガンダとして攻撃するすることも今に始まったことではない。この用語が明確に定義されておらず、複数の矛盾した意味で用いられていることも、この問題を悪化させている。虚偽情報や情報操作への正当な懸念も、幾度となく、既存勢力の声を強化し、反対意見を排除するための口実として利用されてきた。EFFの提案は、こうした落とし穴を克服するための勧告であり、すでに米州システムの人権基準が、表現の自由をはじめとする基本的人権を損なうことなく虚偽情報に対処するための事実上のガイドラインを提供していることを指摘している。
米州人権条約等の米州人権基準では、表現の自由に対する制限は、(1)法により明確かつ正確に定義され、(2)米州条約で認められた止むを得ない事由が存在し、(3)求める目的を達成するにあたって、民主主義社会において必要かつ適切な範囲で、意図した目的に厳格に比例した措置でなくてはならないとされている。「フェイクニュース」といった曖昧な言葉でインターネット上の情報発信を禁止するという法律では、上記の3要件を満たすことはできない。また「社会秩序」の維持という漠然とした主張による表現の自由の制限も、これらの要件を満たすものではない。
さらに米州人権条約は、表現の自由は間接的な手段や措置によっても制限してはならないとしている。インターネットの通信の大半は、ISPやソーシャルメディアプラットフォームなどの仲介者を介して行われており、そうした仲介者を対象とした過剰かつ不均衡な措置は、表現の自由や情報アクセスの権利を過度に制限する危険性を恒常的にはらむことになる。政府によるモバイルネットワークの停止やソーシャルメディアの遮断命令、通知から24時間以内のコンテンツ削除や自動コンテンフィルターの導入を仲介者に義務づける法律など、「フェイクニュース」対策の名のもとに行われるあらゆる規制が、言論の自由や情報アクセスに害をなす過剰なアプローチという形態をとっている。インターネットの仲介者に、第三者のコンテンツへの責任を負わせることは、プラットフォームによる自己検閲を促進し、イノベーションを阻害することにもつながる。
政府が公正な選挙のために虚偽情報に対処するというのであれば、民主主義と表現の自由との密接な関係を損ねるようなやり方であってはならない。社会と政府の先行きについての議論が最も激しくなるのは選挙期間中であり、その時期にこそ国民の関与は最大化する。表現の自由の悪用があったとしても、その表現を行った者が民事上の責任を問われるのが筋であって、企業を言論警察にすべき理由にはなりえない。経験則としても、こうしたやり方が賢明でないことは証明されている。民間プラットフォームは間違いを犯しやすく、力なき人々ほど不当に検閲される傾向にあるのだ。インターネットの仲介者たちが、プラットフォーム上の規約やルールを確立するにあたっては、透明性基準、適正手続き、説明責任を遵守しつつ、表現の自由や情報アクセス、差別的扱いの禁止といった人権原則も考慮に入れなくてはならない。
では、どうすればよいのか。我々は、選挙期間中の虚偽情報対策を実施するにあたってのガイドラインを提案している。
- コンテンツモデレーションにおける透明性と説明責任の促進。サンタクララ原則が提唱しているように、プラットフォームはユーザへの通知、適正手続き、コンテンツの制限およびアカウントの凍結に関するデータの開示に関して、よりよいプラクティスが必要となる。
- ユーザのためのよりよいツールの実装。ユーザによるフィードや検索アルゴリズムのカスタマイズ可能な範囲を広げ、選挙広告の透明性を向上させることなどが含まれる。
- ユーザのプライバシーを損ねかねない措置の回避。ここには暗号化の脆弱化も含まれる。ユーザのセキュリティを否定することは、虚偽情報対策の答えではない。
- ネットワーク中立性やプラットフォーム間の競争への注目。ゼロ・レーティングは、ユーザが別の情報源の探したり、ニュース記事そのものを閲覧することさえ妨げる可能性がある。一方、データポータビリティや相互運用性は、より多くのプレイヤーや情報源を生み出すことに繋がる。
EFFの意見書で強調されたように、デジタル社会が実現した膨大な情報流通それ自体を問題視すべきではない。しかし、適切な人権基準を遵守しない限り、「フェイクニュース」現象に対する反応は、情報流通を悪としてしまうことになるだろう。
Publication Date: February 28, 2019
Translation: heatwave_p2pMaterial of Header Image: Byam Shaw