以下の文章は、電子フロンティア財団の記事「Victory! Second Circuit Affirms Dismissal of Latest Threat to Section 230」の翻訳である。事前にこちらの記事「出会い系アプリでなりすまし『ホントにあった生き地獄』(Wired.jp)を読んでおくと、背景(や問題の複雑さ)を理解しやすいと思う。

Electronic Frontier Foundation

インターネットの表現の自由に勝利がもたらされた。第二巡回区控訴審は、インターネットを現代生活に不可欠なツールたらしめている基盤を削り落としかねない危険な訴訟を棄却した。EFFは昨秋、本件Herrick v. Grindr裁判に法廷助言書を提出し、裁判官に正しい判断を下すよう求めた。法廷が我々の警告を受け止めてくれたことを喜ばしく思う。

本件原告のマシュー・ヘリックは、元カレからゲイ向け出会い系アプリ「Grindr」に複数のなりすましプロフィールを作成され、深刻な嫌がらせを受けたと主張している(訳註:日本語記事。ヘリックによると、なりすましプロフィールからセックスの誘いを受けたと見られる1000人以上の男性が、彼の自宅や職場に押しかけてきたという。ヘリックは、元カレが作成した偽のプロフィールによって引き起こされた被害の責任はGrindrにあると主張した。ヘリックへの嫌がらせは実に卑劣なものではあるが、その責任を問うべきは、オンラインスペースではなく、加害者本人であろう。もし原告の主張が認められれば、このHerrick v. Grindr裁判は、表現の自由とインターネットにおけるイノベーションを脅かすものとなりうる。

通信品位法第230条47 U.S.C. § 230は、ISPやソーシャルメディア、Grindrをはじめとする出会い系サイトなどの仲介者を、ユーザの言動による責任から保護している。これは、プラットフォームのための保護ではなく、ユーザのための保護である。議会が第230条を承認した際、法制度が仲介者に十分な保護を与えなければ、インターネットにおける表現の自由が損なわれてしまうことになると立法者たちは考えていた。

仲介プラットフォームは、今日のインターネットに不可欠なアーキテクチャであり、大多数の人々はそうしたプラットフォームを介して相互に関わっている。FacebookやTwitterなどの大手から、小規模コミュニティフォーラムや地域のニュースサイトに至るまで、仲介プラットフォームは利用者がコードを知らなくとも、大枚をはたかずとも、世界中の家族や友人たちとつながることを可能にしている。第230条におけるオンライン仲介者の法的保護をそぎ落とせば、プラットフォームはモデレーションを強化し、その過程で無辜の人々が沈黙させられることになる。ユーザを保護するために、仲介者が保護されているのである。

幸いなことに、第二巡回区控訴裁は、この仲介者保護の重要性を認識していた。原告は元カレの投稿内容ではなく、Grindrアプリのデザインや運営方法に問題があると主張して(訳註:つまり製造者責任を問うことで)第230条の保護の回避を試みていたが、法廷はこの主張を認めなかった。法廷は 、Grindrが「危険かつ不完全」であるとする原告の主張について、(訳註:原告の被害は)元カレが作成した情報によって引き起こされたものであり、したがって本件原告は1996年に第230条を承認した議会が意図していたとおり保護されるべきであると判断した。「被告をCDA(通信品位法)の保護から切り離すべく巧妙に本件を提起した原告の試みは失当である」と法廷は述べている。

法廷が第230条の保護を回避しようとする露骨な試みを棄却したことを歓迎したい。この保護を切り崩すべく次から次へと民事訴訟が起こされていることを考えれば、裁判所による第230条の保護の支持は、これまで以上に重要性を増している。第230条は、プラットフォームが、その利用者の発言によって訴えられ、その結果被る破滅的な訴訟費用を懸念することなく、膨大なコンテンツをホストすることを可能にしている。第230条がなければ、仲介者はサービスを利用できる人を制限し、史上類を見ないほどの規模で表現を検閲することになるだろう。また、そうした措置を講じ、裁判を争えるだけのリソースを持たない小規模プラットフォームは、既存の大企業と競合することができず、その結果、ユーザはインターネット上のコミュニケーションツールの選択肢を失うことになる。

第230条は、オンラインハラスメントの被害者に泣き寝入りを強いるものではない。多くの管轄区域で、侮辱的表現(abusive speech)に対する法律が制定されている。法執行機関は、オンライン・ハラスメントへの対応能力を向上して、危険に晒されている人々への保護を強化し、裁判所はハラスメントの加害者に対する被害者への法的救済が得られやすくしならなくてはならない。我々は、プラットフォームに責任を負わせることが答えではないとの第二巡回区控訴裁の判断を歓迎する。

Victory! Second Circuit Affirms Dismissal of Latest Threat to Section 230 | Electronic Frontier Foundation

Author: JAMIE WILLIAMS (EFF)/ CC BY 3.0 US
Publication Date: April 08, 2019
Translation: heatwave_p2p
Header Image: James