以下の文章は、電子フロンティア財団の「30 Years Since Tiananmen Square: The State of Chinese Censorship and Digital Surveillance」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

30年前の今日、中国共産党は数千人の大学生による平和的な民主化デモを武力で鎮圧した。数百人(一説には数千人とさえ言われる)の罪のない抗議者が殺害された。毎年、世界中の人々が犠牲者を追悼している。しかし奇妙なことに、中国国内では沈黙が続いている。

天安門事件は、中国で最も厳しく検閲される話題の1つである。中国政府のネットワーク/ソーシャルメディア検閲は、単に隅々まで行き渡っているだけではない。ずさんで、過剰で、不正確で、常に疑わしきは削除するという方針をとっている。中国政府は毎年、天安門事件の記念日に先立ち、VPNの閉鎖、活動家の逮捕、デジタル監視、ソーシャルメディアの検閲を強化している。それは今年も同じであった。だが、30周年を迎える今年は、これまでになく厳しい規制が敷かれている。

ソーシャルメディア、メッセンジャーのキーワードフィルタリング

多くの中国人にとって、ソーシャルメディアやメッセンジャーがキーワードフィルタリング、最近では画像マッチングを使用して密かにコンテンツを削除していることは周知の事実である。2013年6月、シチズン・ラボは、天安門事件の記念日に関連してソーシャルメディアから検閲された単語のリストを文書化したが、その中には「今日(today)」や「明日(tomorrow)」という単語さえ含まれていた。

それ以来、香港大学の研究者たちは、WeiboとWechatでの検閲の範囲と歴史を記録するために、リアルタイムの検閲監視・透明性プロジェクトとして「WeiboScope」と「WechatScope」を開発した。その数カ月後、この透明性プロジェクトに取り組む傅景華博士は、2012年以降に天安門事件の記念日に関連して検閲された1200以上のWeibo画像投稿のアーカイブを公開した。また、NetAlertも同様に、これまで検閲された画像のアーカイブを公開している。

ソーシャルメディアプラットフォームを横断した「システム保守」に伴う同時サービス停止

天安門事件20周年と同じように、今年も記念日の1週間前に、ソーシャルメディアが一斉に「インターネットの保守」を理由にサービスを一部停止している。5つの人気ビデオ/ライブストリーミングプラットフォームが、「システムアップグレードと保守」のため6月6日まですべてのコメントを中断。中国のソーシャルネットワークサービス「Douban(豆瓣)」も「システム保守」を理由に、6月29日まで複数の大規模ニュースグループでの議論をロックした。人気メッセンジャーのWeChatも最近、同様の理由でステータスメッセージ、プロフィール写真、ニックネームの変更を禁止した

音楽とアプリを検閲するApple

Appleは2017年以降、中国本土のアプリストアからVPNを排除している。VPNアプリの禁止は現在も続いており、悪化の一途をたどっている。GreatFireによる検閲透明性プロジェクト「AppleCensorship.com」では、米国では提供されていて中国では提供されていないアプリを調べることができる。VPN以外にも、中国のAppleアプリストアは、New York Times、Radio Free Asia、Tibetan News、Voice of Tibetや、中国の人権問題を扱うパブリッシャのアプリも検閲している。さらに、TorやPsiphonなどの検閲回避ツールも削除している。

またApple Musicは天安門事件30周年を前に、ストリーミングサービスから、天安門広場を題材にしたジャッキー・チュンの1990年の歌や、香港・雨傘運動に参加した民主活動家の歌などを削除している

Twitterの浄化作戦に巻き込まれた活動家アカウント

5月31日、著名な活動家、人権弁護士、ジャーナリスト、その他反体制派ら、中国に関係する多数のツイッターアカウントが一時停止された。活動たちはこの措置が6月4日に向けて進められるさらなる検閲に備えたものであることを恐れた。その後、いくつかの著名アカウントは復旧したが、多くは停止されたままとなっている。Twitterの発表によると、これらのアカウントは中国当局から報告されたものではなく、大規模なスパム対策に巻き込まれただけだという。

Twitter側の透明性の欠如、タイミングの悪さ、そして大量の誤検出(false positive)が、中国のアクティビズム界に真の恐怖と不確実性をもたらしている。

天安門事件を越えて:2019年の中国の検閲と監視

新疆:広域監視と社会統制に向けた中国のグラウンド・ゼロ

ヒューマン・ライツ・ウォッチ、セキュリティ研究者、そして勇敢な調査員やジャーナリストたちのおかげで、過去2年間に新疆の社会統制・デジタル統制が急速に進展していることが明らかになっている。その萎縮効果は現実のものとなっている――ラマダーンが終わりに近づきつつあるのに、モスクに人影はなく、ウイグル人の国外留学生や国外滞在者たちは、すでに家族の多くが理由もなく拘束され、帰国を恐れている

中国が新疆に監視技術を大規模投入していることは、人権にとってまさに悪夢である。ニューヨーク・タイムズ紙は、「政府が人種プロファイリングのために人工知能を意図的に使用した最初の事例」とさえ評している。また研究者たちは、ウイグル人の顔を識別するためのコンピュータビジョン論文が中国から多数寄せられていることを発見した。

中国は長年に渡って安全保障分野の達人であり、デジタル行動、社会行動への「萎縮効果」を強化するために自国の監視能力を誇張し、過剰に機能させてきた。それがいま、かつてないほどの規模で行われている。中国政府は完全自動化され、効果的なシステムだと主張しているが、政府が使用する最高の顔認識システムであっても、その精度は20%にも満たず間違いが頻発し、数百人の作業員がカメラをモニターして結果を確認しなくてはならない。こうしたまやかしの「疑似AI」は、AIスタートアップ業界でもよく見られる光景だが、多くの「自動化」テクノロジーは実用の域には達していないのである。

リソースや技術的な制約が中国政府を止めることはない。2017年以降の安全保障関連支出からもわかるように、中国政府はコスト度外視でパプティノコン建設を進めている。新疆における広域監視システムの構築には莫大な費用がかかっており、新疆の地方政府は、監視国家への投資を続けるうちに数億(米ドル)もの「無形債務」を抱えることになった。そして、そのコストの大部分は人件費だ。エイドリアン・ゼンツはニューヨーク・タイムズ紙の記事で「このハイテク国家が多くの人員を必要とし続けていることを過小評価している危険性もある」と指摘している。

クライアント側でブロッキングされるGithubでの労働運動

996」は最近、中国のホワイトカラーのテクノロジーワーカーが起こした労働運動だ。週6日、午後9時から午後9時までの労働という違法でありながら一般的になっていた「996」スケジュールで働く彼らは、規則通りの40時間労働を求めている。この運動は、他の労組運動と同様に、ソーシャルメディアのキーワード検閲の対象となったが、彼らはGithub上で組織的活動を継続した。

Github自体は、中国の検閲の影響は比較的受けてはいないHTTPS普及に伴い、中国のネットワーク事業者は、ウェブサイト全体を検閲するか、まったくブロッキングしないかのいずれかしかできなくなった。Githubは2013年に一時的にブロッキングされたが国内開発者から強烈な反発を受け、その後すぐに解除された。中国のテクノロジーセクターであっても、外の世界と同様、Githubでホストされるオープンソースプロジェクトに依存している。しかし、Githubはネットワークレベルでは検閲されてはいないものの、中国製ブラウザやWechatのウェブビューアが、996のGithubのレポジトリを含む特定URLのブラックリスト化を開始している。

Googleの眠れるDragonfly

昨年末、我々はヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナルを中心とする70超の人権団体と連帯して、「Dragonfly」のコードネームで呼ばれる検閲済みの中国語検索エンジンを構築する内部機密プロジェクトを終了するようGoogleに呼びかけた。Googleの従業員からも、このプロジェクトに文書をまとめたり、抗議の退職をしたり、あるいは透明性を要求したりする動きもあった。

今年3月、Googleの従業員は、Dragonflyのコードベースに変更が加えられていることに気づいた。Googleはまだこのプロジェクトの終了を公式には明言しておらず、一時的な中断に過ぎないと見る向きも強い。

どう対抗すべきか?

世界に新疆の状況がニュースとして伝わることはほとんどなく、中国はその状態を維持すべく、ジャーナリストのビザを拒否し、その親族を拘束し、現地ジャーナリストを逮捕している。状況を明らかにしようという取り組みは、いずれも非常に価値がある。我々は今年始め、中国・監視国家の内部構造を明らかにしようと取り組むヒューマンライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナルを始めとする人権団体、ほかにもインディペンデントの研究者ジャーナリストらの功績について記した

WechatScopeWeiboScope、TorのOONIGreatFireのAppleCensorshipのような検閲の透明性プロジェクトや、現在進められているシチズン・ラボGreatFireなどの組織による検閲研究は、中国の大規模検閲の手法とその意図を明かし続けている。

もちろん、中国内外の人々や活動家の声を届けるべく戦い続けている人たちもいる。VPNの取り締まりが強化され続けている一方で、中国ウェブユーザのVPN利用は増え続けている2019年第1四半期には、ウェブユーザの35%がVPNを利用しており、音楽やTV番組へのアクセスのみならず、ブロッキングされているソーシャルネットワークやニュースサイトへのアクセスにも利用されている。

人権団体、セキュリティ研究者、ジャーナリスト、現地の活動家たちは、大きな犠牲を払いつつ、中国の開放を目指し戦い続けている。

30 Years Since Tiananmen Square: The State of Chinese Censorship and Digital Surveillance | Electronic Frontier Foundation

Author: Threat Lab (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: June 05, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: Xiquinho Silva / CC BY 2.0