以下の文章は、BoingBoingの「Political journalist Omoyele Sowore arrested and tortured under Nigeria’s overbroad “cyberstalking” law」という記事を翻訳したものである。
[オモエレ・ソウォレはナイジェリア人ジャーナリストで、独立メディア「サラハ・レポーターズ」のオーナーである。ブハリ現大統領の選出直後、ソウォレは「ナイジェリア連邦共和国大統領に対する侮辱、敵意、憎悪、悪意を引き出した」として同国サイバーストーカー規制法に基づいて逮捕された。彼は今も拘束されていて、拷問を受けてもいる。この事件は米国の上院議員から非難の声が上がり、国際ペンクラブも連帯を呼びかけている。EFFの同僚であるシンディ・コーンは、石油採掘事業を進めるために大量殺人に関与したとしてシェブロンが起訴されたBowoto事件に携わった際、ソウォレと面識がある。彼女は、曖昧でいいかげんなハラスメント/ストーカー対策法がいかにして武器として悪用されるかを明らかにする記事を綴っている。ここに転載する。――コリィ]
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EFFは長らく、サイバーストーカー規制法は慎重に起草され、厳格な制限が設けられなければ、政治的発言を犯罪化するために悪用されうるとの懸念を表明してきた。実際、今年始めには米ワシントン州連邦裁判所が、適用範囲の広すぎる同州サイバーストーカー規制法を違憲であると判断した。このケースでは、公職者を強い言葉でしつこく批判する抗議者を黙らせるためにサイバーストーカー法が持ち出されていたのだ。EFFは提出した法廷助言書のなかで、こうした法律は容易に悪用しうるとの意見を述べ、裁判所もそれに同意した。
現在、この問題はナイジェリアで政治事件を引き起こしている。今週、ナイジェリア政府は政治活動家で、著名なオンライン報道機関「サラハ・リポーターズ」の発行者でもあるオモエレ・ソウォレを「サイバーストーキング」の容疑で正式に起訴した。ソウォレはナイジェリア国内で#RevolutionNowというハッシュタグを用いて政治抗議活動を組織し、その主張を広めるためにメディアへのインタビューに答えていた。彼は、今年8月上旬から9月下旬までの間に、別の活動家とともに拘束された。彼は殴打され、家族との面会も拒否され、しばらくの間弁護士の接見も認められなかったという。
この起訴が、適用範囲の広すぎるサイバーストーカー規制法(2015年成立)の悪用であることは起訴状からも明らかである。起訴状によれば、ソウォレは「ナイジェリア連邦共和国大統領に対する侮辱、敵意、憎悪、悪意を喚起する目的で、『アライズ・テレビ』ネットワークで報道されることを知りながら、プレスインタビューで虚偽のメッセージを送った」ことによりサイバーストーキングを行ったのだという。
以上である。つまり検察側は、ソウォレがテレビに出演して、「侮辱」や「敵意」を引き出すことを目的として虚偽とみなされる発言をすれば、大統領を「サイバーストーキング」したことになると主張しているのである。だがこれは明らかに法の悪用であり、ナイジェリア法および国際法で保護される表現の自由と著しく矛盾している。ナイジェリア大統領は公人であり、その政策に対する批判は厳重に保護されねばならない。だが検察はそうは考えず、法のずさんさを巧みに政治利用した。まさに典型的な悪用事例だ。
また、ソウォレの抗議活動と「#RevolutionNow」というスローガンだけを根拠とする「反逆罪」の容疑にも同様の問題がある。さらに、ソウォレが自身の組織の銀行口座間で資金を移動していたことを理由とした「金融犯罪」での起訴も、同様に政治的意図があると言わざるを得ない。
表現の自由は尊重されねばならない国際的に認められた人権である。ナイジェリアは市民的及び政治的権利に関する国際規約の締結国であり、1999年憲法でも同規約第39条1項に基づいて表現の自由を権利として認めている。しかし表面的にはそうであっても、ナイジェリア憲法(第45条1項)には、慎重に解釈しない限り実質的にこの表現の自由の権利を無効化しうる様々な例外が認められている。こうした例外を、厳密にかつ慎重に解釈するのは裁判所と検察の責務であり、悪用しうる法律を可決しないことが立法府の責務である。
ナイジェリアの裁判官と検察官に対しては、このサイバーストーキング規制法を政治活動家の訴追に適用することがはらむ問題を認識することを望む。ナイジェリアには、平和的でありながら力強い政治的抗議活動という素晴らしい伝統があるはずだ。民主主義を機能させるためには、そうした批判活動が必要不可欠である。とりわけ表現が政治問題について大衆に呼びかけることを目的としている場合には、表現の自由の保護は現代の政府の義務とされねばならない。ナイジェリアが自らの伝統と、国際人権法上の義務を履行するつもりがあるのであれば、ソウォレとその共同被告への起訴を直ちに取り下げるべきである。
Original Publication Date: September 26, 2019
Repost Date: December 12, 2019
Translation: heatwave_p2p
Material of Header Image: personaldemocracy / (CC BY-SA 2.0)
ソウォレは、8月3日に逮捕されて以降、保釈を許可する裁判所命令が2度に渡って出されたにもかかわらず、ナイジェリアの情報機関「国家安全局(DDS)」が拘束されていた。12月6日になってようやく保釈されたが、その数時間後にすぐさま再逮捕されている。
その再逮捕も実に劇的で、DDSの武装秘密警察が首都アブジャの高等裁判所に強制侵入し、力ずくで連れ去ったのだという。裁判官も職員も逃げ出したというのだから「襲撃」としか言いようがない。
この再逮捕に対して、国内外から強い批判が集まったことを受けてか、アブバカル・マラミ法務相・法務長官が事態の収拾に乗り出し、ソウォレの事件をDDSから司法に移管することになったらしい。法相は、この措置が法の支配の不可侵性と、政府の人権保護の公約を反映したのものだと説明しているというが、どの口が言うかという気持ちにしかならない。