以下の文章は、電子フロンティア財団の「When Computer Crimes Are Used To Silence Journalists: Why EFF Stands Against the Prosecution of Glenn Greenwald」という記事を翻訳したものである。
今週、ブラジルの検察当局は、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルドを刑事告訴した。彼はNSAの大量監視を明らかにしたリーク文書を発表したことで世界的に知られる人物だ。グリーンウォルドの起訴は、政府の根深い腐敗を暴こうとした調査報道記者を、コンピュータ犯罪法を悪用して黙らせようとするものだ。残念ながら、こうした試みはこれまで何度も行われてきた。そして、ジャーナリズムを犯罪化する流れを止めなければ、再び繰り返されることにだろう。
グリーンウォルドは、ブラジル連邦判事が検察と共謀して左派のルラ・ダシルバ元大統領を有罪に追い込んだとする記事を公表した。それ以来、彼はブラジルで法的に危うい立場に立たされている。この有罪判決は、ダ・シルバは大統領選挙からの離脱を余儀なくされ、極右政党のヤール・ボルソナロ現大統領が権力の座に就く上で重要な役割を果たした。グリーンウォルドは、匿名の情報源から提供されたプライベート・チャット、録音テープ、ビデオ、写真、訴訟手続、その他の文書を公表し、検察と裁判官との共謀を暴いた。その裁判官は現在、ブラジルの法相を務めている。
この記事が発表されると、グリーンウォルドと彼の家族は、法的脅迫(グリーンウォルドを「刑務所に送れる」というボルソナロ大統領の発言を含む)や殺害予告、同性愛嫌悪に基づく迫害に晒されることになった。
残念なことに、刑事訴追や人格攻撃は、汚職を暴こうとする調査報道ジャーナリストを黙らせるためにしばしば用いられる手段だ。だが、その目的のためにサイバー犯罪法が利用されるようになったのはごく最近である。この訴追が国際的な注目を集めている理由の1つは、この容疑が、グリーンウォルドに対する捜査を裁判所が先んじて中止させた昨年のブラジル最高裁の決定に反していることだ。最高裁はジャーナリストが情報源と直接コミュニケーションをとる権利を支持し、公開された内容や政府への影響とは無関係に、憲法による保護を受けると述べていた。
この判断を回避するためか、起訴内容には「コンピュータ機器への侵入」が含まれている。
サイバー犯罪法は世界的にその曖昧さがよく知られている。その理由の1つは、適切なサイバー犯罪法の制定が難しいためだ。テクノロジーが急速に進化するなか、特定のデジタル活動を記述する言語が常に正確である保証はない。さらに立法者が後に法律をどのように解釈されるかを常に想定しているとも限らない。法律が曖昧である一方、罰則は厳しく、検察の手に危険な棍棒が委ねられることになる。検察官はこの断絶を利用して、コンピュータに侵入し脅迫や窃盗を行う犯罪者に対処するための法律を、無害な活動や研究、そして今回は情報源とやり取りするジャーナリストを起訴するために悪用している。
2018年、EFFはアメリカ大陸で、コンピュータ犯罪法を用いてセキュリティ研究を犯罪化した多数の事例をまとめた報告書を公表し、サイバー犯罪法が遵守すべき人権基準のガイドラインを提供した。サイバー犯罪法には、はじめから悪意ある意図が法律に組み込まれているものすらある(「刑法は、悪意または故意の定義を明確にし、一般的行為を厳格責任犯罪にしてはならない」)。南北アメリカのコンピュータ犯罪法を分析した結果、現行法の多くは危険なほどの曖昧さを有しており、無害な行為に悪用・過剰適用され、セキュリティ研究者を萎縮効果を及ぼしている可能性が示唆された。
グリーンウォルドが起訴されたことで、コンピュータ犯罪法の不適切な適用がジャーナリズムを萎縮させ、国民の知る権利を損なう可能性があることが明白となった。曖昧な法律と厳しい罰則が組み合わさることで、ジャーナリストをハッカーとして起訴し、我々の情報を守らんとする人びとを黙らせる強力な手段ともなりうる。
グリーンウォルドの起訴に関する詳細は確認できておらず、ブラジル法に違反したとされる刑事告訴にも詳細が記されていない。ジャーナリストは日常的に、情報源と密接にコミュニケーションを取っている。実際に、文書の真実性を担保するために必要となる作業だ。さらにブラジル最高裁は、すでにグリーンウォルドのリークメッセージの公表はブラジル憲法下で保護されることをはっきりさせている。
調査報道記者は、権力者の怒りを買おうとも不正を暴かねばならない。グリーンウォルドは政府の権力濫用を恐れることなく報道した、比類なきジャーナリストである。自由な社会は、有能なジャーナリストによる批判的な報道を許容できるのみならず、権力者を疑い、批判する記事が頻繁に公表されることで繁栄していくだろう。政府の腐敗の真実を報道した記者が訴追されるのであれば、それは圧政が敷かれているにほかならない。
EFFは、ブラジル及び世界中の数十の市民社会団体とともに、ブラジルが法の支配を支持し、グレン・グリーンウォルドへの政治的訴追を取り下げるよう要請する。
注記:私はグリーンウォルドとともに報道の自由財団の理事を務めており、EFFは同財団の顧問を務めている。また、グリーンウォルドは2013年のEFFパイオニア賞の受賞者でもある。
Publication Date: January 24, 2020
Translation: heatwave_p2p