以下の文章は、電子フロンティア財団の「Indonesia’s Proposed Online Intermediary Regulation May be the Most Repressive Yet」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

インドネシア政府は、ソーシャルメディア・プラットフォーム、アプリなどのオンラインサービスプロバイダに対し、コンテンツやユーザのデータポリシー、慣行に関して同国の管轄権に従うよう強制する法的枠組みを提案している。だがこの提案は、多くの点で人権を脅かす危険性を孕んでいる。

政府によるプラットフォーム規制ラッシュは、2017年のドイツ「NetzDG」法に端を発する。インターネットプラットフォームに裁判所の命令なしにコンテンツの削除・遮断を強要し、その国独自のコンテンツ削除ルールを積極的に導入しない企業には制裁的な罰金を科すというものだ。ドイツ・NetzDGの施行以来、ベネズエラ、オーストラリア、ロシア、インド、ケニア、フィリピン、マレーシアが追随し、独自の法律を制定したり、検討を進めている。

NetzDGとその類似法のいくつかは、200万人以上のユーザを抱えるソーシャルメディア・プラットフォームに、公的機関からのコンテンツ削除要請/政府からのデータアクセス要請の窓口として、現地代表者の任命を求めている。また、NetzDGは「明らかに違法」なコンテンツがプラットフォームに存在することが通知されてから24時間以内に当該コンテンツを削除・無効化するようプラットフォームに強制し、従わない企業には厳しい罰金が科される(さらに、サービス全体がブロッキングされる恐れもある)。これは表現の自由をも脅かすことになる。当然ながら、プラットフォームは処罰されるリスクを侵すよりも、グレーゾーンのコンテンツを削除することを選択するのだから。

MR5と呼ばれるインドネシア版NetzDGは、この一連の流れの最新版である。この法律は2020年11月に施行されたが、他の類似法と同様に、ドイツのNetzDG以上に極めて抑圧的な内容となっている。実際、インドネシア政府はより厳格で、より煩わしく、より透明性の低いインターネット規制を推進している。インドネシア通信情報技術省(Kominfo)が発行したMR5規則は、デジタルコンテンツとユーザデータに対する政府介入を強化しようとしているのだ。

困難な時期に持ち込まれたMR5

MR5規制は、インドネシア国内の紛争、暴力、人権侵害が深刻化するなかで導入された。2020年末、国連人権高等弁務官は、パプアおよび西パプアでの暴力のエスカレートに懸念を示し、「基本的自由の行使を擁護する人権活動家への脅迫・嫌がらせ、監視・犯罪化」について報告した。APCによると、インドネシア政府は、マイノリティや社会的弱者のグループを保護するためのヘイトスピーチ法を悪用し、反対意見や政府批判の声を上げる人々を黙らせているのだという。

東南アジア表現の自由ネットワーク(SAFEnet)の表現の自由部門責任者のイカ・ニンティアス氏によると、MR5は現在、そして将来のインドネシアの表現の自由の厳しい状況をさらに悪化させているという。彼女はEFFに次のように語った。

管轄省庁のKominfoは、コンテンツが適切か否かを判断・決定する権限を強化しています。MR5が反政府グループを黙らせるために悪用されていることに強い懸念を抱いています。このメカニズムから政府独立機関は排除されていて、規制の透明性や公正性は期待できません。他国、とりわけ東南アジア諸国がMR5を後追いする可能性もあります。それを阻止するためには、国内的、国際的な連帯が必要とされているのです。

企業は人権法を尊重する責任を負う。表現の自由に関する国連特別報告者は、すでに各国に対し、「法律、政策、法外の手段等に関わらず、表現の自由を不必要に、あるいは不釣り合いに妨害するような措置を講じるよう民間企業に要請したり、圧力をかけてはならない」と注意喚起している。特別報告者はさらに、オンラインコンテンツを削除するための措置は、有効に制定された法律に基づき、外部の独立監査の対象となり、ICCPR第19条3項(訳注:条文邦訳)が定める1つ以上の目的を達成するために必要かつ適当な手段であることを証明しなければならない、と指摘している。

我々はSAFEnetとともにインドネシア政府に対し、同法を国際的な表現の自由の基準に準拠させるよう要求する。

以下にMR5の極めて有害な規定をいくつか紹介しよう。

インドネシアの強制ID登録

MR5はすべての「民間電子システム運営者(民間ESO)」に対し、インドネシア市民にサービスやコンテンツ提供を開始する前に、登録および同省が発行するID証明書の取得を義務づけている。民間ESOには、インドネシア国内でユーザ向けの「電子システム」を運営する個人、事業者、コミュニティが含まれ、運営者が国外で法人化されていたとしてもその対象となる。具体的には、インドネシア国内でデジタルマーケットプレイス、金融サービス、ソーシャルメディア、コンテンツ共有プラットフォーム、クラウドサービスプロバイダ、検索エンジン、インスタントメッセージング、電子メール、ビデオ、アニメーション、音楽、映画、ゲーム、電子商取引のためのユーザデータの収集・処理・分析を行う個人や事業者が対象となる。

登録は2021年5月中旬までに済ませなくてはならない。MR5の制度下では、Kominfoは非登録者をブロッキングする制裁権限が与えられている。また登録を済ませた民間ESOは、「監視と法執行プロセス」の有効性を担保するために、「システム」とデータへのアクセスを可能にする情報を提供しなければならない。たとえば、登録された民間ESOがシステムへの「直接アクセス」(第7条(c))を提供しないためにMR5に違反した場合、最初の警告であっても、一時的なブロッキング、全面的なブロッキング、登録の取り消しなど、ありとあらゆるレベルで罰せられる可能性がある。サイトの一時的・全面的ブロッキングは、サイト全体の一般禁止であり、本質的に不釣り合いな措置であることから、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第19条3項で容認できない制限とされている。一般ブロッキングに関していえば、欧州評議会は、公的機関が全面的なブロッキング措置を用いて、国境を超えて一般市民によるインターネットの情報へのアクセスを拒否すべきでないと勧告している国連と表現の自由に関する3つの特別委員会は、「ウェブサイト全体、IPアドレス、ポート、ネットワークプロトコル、あるいは使用手段(たとえばソーシャル・ネットワーキングなど)の強制的ブロッキングは、新聞や放送の禁止と同等の行き過ぎた措置であり、たとえば性的虐待から子供を保護するために必要な場合など、国際的な基準に従った場合にのみ正当化しうる」と説明している。

民間ESOプラットフォームの一般禁止は、個人が「文化的生活に参加する権利』と「科学的進歩とその応用の利益を享受する権利」を有するとした国連の経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)第15条3項にも適合しないだろう。国連は、「文化的生活に参加・参与するk練の相互に関連した主要な構成要素」として、(a) 文化的生活への参加、(b)文化的生活へのアクセス、(c) 文化的生活への貢献を挙げている。さらに、文化的生活へのアクセスには「情報や通信のあらゆる技術的媒体を通じた表現や普及の形態について学ぶ権利」も含まれると説明している。

さらに、締結国は表現の自由に制限を課すことはできるが、一般禁止のように、制限が権利そのものを危険に晒すものであってはならない。国連人権委員会は「権利と制限、規範と例外の関係を逆転させてはならない」と述べている。またICCPR第5条第1項は「本規約のいかなる規定も、本規約で認められた権利および自由の破壊を目的とする活動ないし行為を行う権利を国家に与えうると解してはならない」と明言している。

現地窓口担当者の強制的任命

テクノロジー企業は、現地法を回避・無視したり、現地の文脈を理解することなく米国流に活動することによって、ますます批判を浴びるようになってきた。その意味では、現地窓口の開設はポジティブな側面もあるかもしれない。しかし、現地窓口を強制的に任命させることは複雑さをはらんでいる。過去に起きた現地窓口担当者の逮捕や刑事告発などのように、現地担当者の存在は、プラットフォームが恣意的な命令に抵抗することを極めて難しくし、企業を現地の法的措置に対して脆弱にしてしまう可能性がある。MR5は、インドネシア国内で使用・アクセス可能なデジタルコンテンツを提供するすべての対象に、インドネシアに拠点を置き、コンテンツの削除や個人データへのアクセス命令に対応する現地窓口責任者の設置を義務づけている。

「政府が禁止している」と判断しうるコンテンツや文書の削除を義務づける規制

MR5第13条では、民間ESO(クラウドプロバイダを除く)に対し、禁止された情報や文書の削除を強制している。第9条3項では、禁止情報・コンテンツは、インドネシアの法令のいずれかの条項に違反するもの、または「コミュニティの不安」や「公の秩序の混乱」を引き起こすものと定義されている。第9条4項は、この「共同体の不安」と「公の秩序の混乱」という曖昧な概念を定義するにあたり、非独立機関である同省に自由な裁量権を与えている。また、これら禁止文書への「アクセスを提供する、またはその方法を伝達する」可能性のあるすべてものを民間ESOに削除させることが可能になる。

実に気がかりな条文である。民間ESOに禁止情報・文書の「提供の方法」や「アクセスの提供」をしないよう強制することは、民間ESOプラットフォーム/サイトのユーザが、禁止情報・コンテンツにアクセスしうる方法の解説を公開した場合(たとえば、アクセス遮断を回避するためにVPNを使用する方法を説明することによって)、そうした解説自体を禁止情報とみなすという解釈も可能になる(通信大臣はインドネシアのインターネットユーザに対して、仮想プレイベートネットワークの利用を止めるよう述べている。その理由として、ユーザが当局の目を逃れると、ユーザデータが危険にさらされるからだという)。

公の秩序の維持は状況によっては妥当なのかもしれないが、そのような規制は表現の自由の制限を正当化するためにも利用される。公の秩序の名のもとに行われるあらゆる制限は、法によって規定され、必要かつ比例したものでなければならず、その正当な目的を実現するための最小限度の制限でなければならない。さらに、人権委員会が述べているように、表現の自由の行使に対する国家の制限は、「権利そのものを危険に晒す」ものであってはならない。「法によって定められた」という要件を満たすためには、個人が自らの行動が規制されうることが明確に理解できる文言でなければならないというだけでなく、国民がアクセスできるものでなくてはならない。また、表現の自由を制限するための自由な裁量を、その執行を担当する者に与えてもならない。

第9条3項は、「禁止されたコンテンツと情報」の中に、インドネシアの法律と規則に違反するあらゆる表現を含むとしている。MR5よりも上位の規制であるGR71と、電子情報・取引に関する2008年法律第11号は、いずれもMR5以上の定義や明快さを提供することなく、同様に曖昧な用語を用いている。たとえば、2008年法律第11号の「禁止行為」には、良識に反すると考えられるもの、ギャンブルを助長するもの、侮辱や中傷をするもの、恐喝をするもの、電子取引で消費者が損失を被るような虚偽のニュースを流布するもの、民族・宗教・人種・集団に基づく憎悪を引き起こすもの、暴力の脅迫を含むものなどを、権限のない者が故意に配布、送信、アクセス可能にすることと定義している。「共同体の不安」や「公の秩序」の定義も同様の体系的問題をはらんでおり、ICCPR第19条3項の要件を満たしてはいない。

さらに、インドネシア刑法は「冒涜」を犯罪とみなしている。「冒涜」行為の違法化は国際人権法に反している。国連人権委員会は、宗教その他の信念体系に対する敬意を欠く表示(displays)を禁止する冒涜法などの法律が、ICCPRと相容れないことを明確にしている。名誉毀損法についていえば、国際人権委員会は表現の自由を阻害しないよう注意を払って法律を策定すべきだとしている。法律は真実の擁護を認めるべきであり、検証の対象とならない他の表現に適用されるべきではない。同様に国際人権委員会は「歴史的事実に関する意見表明を罰する法律は、ICCPRが意見および表現の自由の権利を尊重するために締結国に課している義務と相容れない」としている。刑事名誉毀損法は、国連表現の自由に関する特別報告者らから広く批判されてきた。しかし、この新法の下では、インドネシアの法律に違反する言説は全面的に禁止されると考えられる。

民間企業に対する積極的監視の強制

MR5はまた、民間ESO(クラウドプロバイダを除く)に対して、そのサービス、ウェブサイト、プラットフォームが、禁止された情報や文書の流布を行わず、助長しないことを保証するよう義務づけている。つまり、民間ESOは、そのシステムにおいて禁止情報が流通しないようにしなくてはならない。現実的には、一般監視義務(general monitoring obligation)とコンテンツフィルターの導入は不可避である。第9条6項は、システムに禁止コンテンツ・情報が存在しないことを保証できなかった場合に、システムの一般遮断措置を含む、不相応な制裁を課すことを定めている。

こうした規定は、インドネシア人の表現の自由に対する深刻な脅威であるのみならず、民間ESOにとってもコンプライアンス上の大きな課題となる。もし同省がどのような情報が「禁止」されているかを決定することになった場合、民間ESOは特定の削除が行われる前であっても、その情報がシステム内に存在しないことを積極的に確認したり、拡散を困難にするよう強い負担を負うことになる。

東アジア表現の自由ネットワーク(SAFEnet)表現の自由部門責任者のイカ・ニンティアス氏は、公共政策への批判、LGBTの権利や活動、現在進行中のパプア紛争に関する議論などの検閲は、同省に判断を委ねることで可能になるという。

禁止事項を誰が決めるのか?

MR5は、「アクセスブロッキング大臣」というオーウェリアンな肩書の役職に、禁止情報のブロッキングを調整する権限を与えている。ブロッキング要請は、インドネシアの法執行機関、裁判所、情報省、あるいは懸念を持った個人が提出できることになっている(裁判所はアクセスブロッキング大臣に「指示」を出すことができ、他の政府機関は大臣に審査を要請することができる。個人からの要請は、ポルノやギャンブルに関するものであれば直接アクセスブロッキング大臣に提出できるが、その他の問題に関する要請は情報省が受け付ける)。大臣はその後、特定の情報を遮断するための命令をプラットフォームの運営者にメールで通達し、運営者は24時間以内に対応しなければならない。また、テロリズム、児童ポルノ、「国民を不安にさせるような状況や公の秩序を乱すような」コンテンツに関する「緊急」命令の場合は、4時間以内に対応しなければならない。民間ESO(クラウドプロバイダを除く)が遵守しなかった場合、たとえ禁止情報が国際人権法に照らせば適法であるべきものであっても、警告や罰金、あるいはインドネシア国内でのサービス提供がブロッキングされる可能性がある。

運営者がコンテンツを削除するにあたっては、現地の文脈や事件の複雑さを理解し、政府の命令を評価するための時間が必要となる。特に慎重な評価が必要とされるのは、著作権や名誉毀損、冒涜、あるいはMR5が有害とみなす条項・行為といったクレームが引き起こされるに至った文脈に関わりなく、マイノリティ集団や運動に関連するコンテンツに向けられた場合である。法律は、どのような表現が適切に制限され、どのような表現が該当しないのかを確認できるように、実施担当者に十分なガイダンスを提供しなくてはならない。

同国が反対意見を検閲するためにの棍棒として著作権法を振りかざすことは、もはや仮定の話ではない。グーグルの透明性レポートの「政府からの要請」には次のようにある。

インドネシア総領事から著作権クレーム提出プロセスを通じて、6本のYouTbe動画を削除するよう要請を受けた。結果、領事館を批判しているとみられる動画は削除しなかった。

政府執行機関になることを強制されるユーザ生成コンテンツプラットフォーム

MR5第11条、第16条11項、第16条12項は、ユーザ生成コンテンツプラットフォーム(YouTube、Twitter、TikTok、あるいはユーザ生成コンテンツの投稿を受け付ける国内サービス)に対し、インドネシア政府が指定するさまざまな方法で通信内容を監視することに同意しない限り、そのユーザの表現(投稿したコンテンツ)への法的責任を負わせると脅している。つまり、プラットフォームを執行機関にしようとしているのだ。第11条では、ユーザ生成コンテンツ民間ESOは、禁止情報・文書がサービスを通じて電子的に送信・配布されないようにしなければならず、また行政機関(貿易庁)や法執行機関に当該情報のアップロード者の身元情報の開示や、禁止コンテンツに対するアクセス遮断(削除)が義務づけられている。

ユーザ生成コンテンツ民間ESOが禁止情報・文書の削除を怠った場合は、非課税国家歳入(第16条11項)に関連した法令の規定により行政処分の対象となる。

大臣はISPにソーシャルメディア民間ESOへのアクセス・ブロッキングを命令でき、24時間ないし4時間おきに、最大3回まで累積的に罰金を科すこともできる。たとえば、緊急性が高いテロコンテンツの場合には4時間以内の対応が義務づけられているため、罰金は最大3回、つまり12時間(3回×4時間)で上限に達する。その他の「通常」のケースでは72時間(3回×24時間)となる。その結果、12時間ないし72時間以内に対応が行われなかった場合、民間ESOは規定の罰金の3倍の額を支払うことに加えて、サービス全体が遮断されてしまうことになる。

MR5規制は廃止されねばならない

SAFENetは、MR5が表現の自由に関する国際的な法令およびスタンダードを満たしていないとして、インドネシア政府にMR5の廃止を求めている。我々もこれに賛同する。企業は許容限度テスト(訳注:ICCPR第19条のテスト)をクリアしないコンテンツを削除すべきではない。制裁措置としての一般ブロッキング措置は、常にICCPR第19条に違反すると我々は考えている。企業はこのような一般ブロッキング命令に法的に異議を申し立てるべきである。また、インドネシア政府からの圧力に対しては、戦略的に反撃しなくてはならない。

Indonesia’s Proposed Online Intermediary Regulation May be the Most Repressive Yet | Electronic Frontier Foundation

Author: KATITZA RODRIGUEZ (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: February 16, 2021
Translation: heatwave_p2p