以下の文章は、電子フロンティア財団の「EFF at 30: Saving Encryption, with Technologist Bruce Schneier」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

オンラインの自由を守り続けてきたEFFの30周年を記念して、作家、セキュリティ・テクノロジストで、EFF理事でもあるブルース・シュナイアーを招き、「暗号戦争(Crypto Wars)」の未来について議論した。1990年代から続くこの壮大な戦いは、米国政府とプライバシーとセキュリティの擁護者たちの暗号化をめぐる壮絶な戦いであった。世界中の政府は、暗号化を脆弱化し、プライベート・デバイスやインターネット通信へのバックドア・アクセスを手に入れようと、ますます熱心になってきている。

EFFはソフトウェアソースコードが修正第1条で保護された表現であることを確立したバーンスタイン対米司法省事件の頃から、暗号化とその普及を頑として擁護してきた。このテクノロジーは、電子商取引、世界中の社会運動の高まり、そしてますますオンライン化が進む世界においてプライベートな会話を実現するための道を切り開いたのである。

暗号戦争は今日でも、EARN IT法というかたちで続いている。この法案は、暗号化のバックドアを作成させ、我々のプライベート・メッセージへの侵入を可能にする度を越した権限を捜査当局に与える。間違いなく、我々のデバイスとインターネットの基盤となるセキュリティが危機に瀕しているのだ。

そこでEFFはシュナイアーを招き、EFFエグゼクティブ・ディレクターのシンディ・コーン、シニアスタッフ弁護士のアンドリュー・クロッカー、シニアスタッフテクノロジストのエリカ・ポートノイと、EFF30 Fireside Chatイベントで、暗号化の未来の行く末を語ってもらった。

議論はまず、90年代に始まった「暗号戦争」の簡単な歴史から始まった。この戦争は今なお続いているが、シュナイアーはこの戦争には絶対に勝たなければならないという。「ありとあらゆる議会議員、世界的リーダー、裁判官、警察官、原発オペレーター、CEO、選挙当局者の手元に(スマートフォンやパソコンが)ある以上、通信とストレージのセキュリティを確保することが極めて重要になります。そして、それが勝利の鍵なのです」

30年が経過してもこの問題が消え去ることはない。「捜査当局は、飽くことなく権限を欲しがり続ける」とシュナイアーは言う。その解決策は、法執行の上位にある。「セキュリティおよび国家安全保障上の必要性は、法執行上の必要性に優先する。我々はそれを受け入れなくてはならないし、そのような制度でなくてはならない。これは以前にも増して重要になってきています」

犯罪捜査のために暗号化されたデバイスやメッセージ・サービスへの適法なアクセスが必要だという捜査当局の主張も、ありふれたものとなってきた。しかし、スタッフ弁護士のアンドリュー・クロッカーが指摘するように、こうした主張を支持する「信頼に足る数字や、逸話以上の何か」が示されることはない。シュナイアーは「捜査当局は優れたデジタル・フォレンジック能力を獲得しなければならない。…いまは捜査当局の教育が不十分なだけでね。だから、とにかく携帯電話を調べればいいという発想になってしまう。もし彼らがもっと洗練された捜査ツールを持っていたら、我々のデータや会話に必要なセキュリティを守りつつ、彼らが必要とするあらゆる犯罪捜査能力を手に入しているでしょう。実際、この2つが矛盾するものだとは思っていない」という。

暗号化がなければ、表現の自由は深刻な危機に晒されることになる。「セキュアなシステムがあればこそ、世界中の反体制派は自由に意見を発言できる」とシュナイアーは語る。そして、2019年にはジェームズ・ベイカー元FBI長官が、「米国とその同盟国が、実在するサイバーセキュリティの脅威から有効に身を守るために使用できる数少ないメカニズムの1つ」として、暗号化を捜査当局をはじめ政府当局が受け入れるべき時期に差し掛かっていると述べていたことを引用した。

捜査当局はしばしば、暗号化されたメッセージやデバイスへのバックドアを設けることで妥協できるはずだと主張する。捜査当局はこの考えを「妥協」と呼んでいるが、クロッカーはまったく妥協ではない、という。

1つには、シンディ・コーン事務局長が指摘するように、『妥協』のもとに行われるあらゆる試みは、政府によって「可能なことである」という認識として利用されることになるだろう。だが、可能ではないのだ。「私たちは、この問題を解決しようとする善意のテクノロジストの取り組みを見てきました。でも司法当局が本当に望んでいるのは、議会の前で『解決できる』と話すことだけなんですよね。善意から挑戦を思い立った人々が政治的な議論に利用されてきた。そんなふうに利用されてはならない。騙されてはいけない。彼らが興味を持っているのは、あなたの技術的な能力ではなく、話せる話題なのです」

暗号学者でもあるスタッフ技術者のエリカ・ポートノイも同意する。「挑戦すべきではありません。たとえ技術的なニュアンスや問題点をはっきりと説明しても、政府の役人は前のめりに『これは完璧だ! 今すぐ実装しよう』と言うでしょう。実際にはうまくいかない100の理由をあなたが理解していたとしても……彼らはうまくいくと言いたいだけなのですから」

対話は、EFF事務局長からのアクションの呼びかけで終了した。我々は、暗号化と言論の自由の両方を脅かすEARN IT法を、このパンデミックに乗じて成立させてはならない。「EARN IT法を阻止し、暗号化を守ることが、EFFアジェンダの最優先事項です」。

EFF at 30: Saving Encryption, with Technologist Bruce Schneier | Electronic Frontier Foundation

Author: Aaron Jue and Jason Kelly (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: December 09, 2020
Translation: heatwave_p2p