以下の文章は、電子フロンティア財団の「Visa and Mastercard are Trying to Dictate What You Can Watch on Pornhub」という2020年12月の記事を翻訳したものである。
Pornhubがユーザからアップロードされた膨大な動画を削除している。この措置は、Pornhubが未成年者や不同意女性の性的ビデオをホストしているとニューヨーク・タイムズ紙のコラムで批判された後に着手されたものだ。このタイムズ紙の記事を受けて、VisaとMastercardはPornhubとの関係を絶った。その結果、Pornhubは暗号通貨以外の決済方法を失うことになった。
性的搾取は、資源、教育、被害者支援、そして法の執行を必要とする社会的惨事である。だが、VisaとMastercardはこの問題に対応すべき当事者ではない。VisaとMastercardは、デジタルスピーチの複雑な問題を判断するスキルや専門知識を持ち合わせてはいないのだ。どのようなコンテンツがオンラインに存在すべきか、あるいはモデレーション・ポリシーが意図せず社会的弱者の声を罰してしまうことにはならないかというセンシティブな問題は、長年に渡って米国内外の法律家、人権活動家、立法者、裁判所が慎重に検討してきたのである。そこから見えてきた真実は、適法で価値ある無数の表現を排除することなく表現を規制するのは極めて難しいということだ。そして、VisaとMastercardがオンラインの表現を――どれほど乱暴であっても――取り締まる権力を持っていることは間違っているのである。
さらに重要なのは、我々は社会として、VisaとMastercardにオンライン表現事件を判断する権限を与えていないということである。両社はどの国のどの有権者からも、選出も選択もされてはいない。彼らは米国では採用されていない――そして採用されたならば修正第一条に違反する可能性が高い――表現のルールを強制しているのだ。残念なことに、これら企業の判断がオンライン表現を危険に晒すのはこれが初めてのことではない。
現在、VisaとMastercardが行動を共にすることで、オンライン決済のチョークポイント(要衝)が生み出されている。2社の恣意的なポリシーが、決済処理を必要とするすべてのウェブサイトに強制されるルールに変換されうるのである。VisaとMastercardに依存しない多様で堅牢なオンライン決済サービス市場が形成されない限り、この2社がオンラインで閲覧されてもよいモノ――今回は、見ても良いポルノ――を決定できるという事実に向き合わなければならない。
これはPornhubが搾取的であるか否かという議論ではない。決済事業者にどれほどの検閲権限を与えたいのかという問題である。皮肉なことに、Pornhubの今回の方針を最も強く批判しているのは、クレジットカード会社にサイトの申請を拒否され、日々もがいてきたセックスワーカーたちでもある。これら企業の力は今日、Pornhubに責任を負わせるための手段と考えることもできる。しかし一方で、その独占的な支配力は、独立したセックスワーカーやPornhubの競合サービスの経済的自由を奪うためにも振るわれているのである。
ポルノがさまざまな新興テクノロジーを推進する最初の原動力となっていることは周知の事実だ。一方で、ポルノは欧米の検閲者たちにその権力を振るわれやすい分野でもある。経済的な面以外でも、セックスサイトの検閲には世論の反発はほとんどなく、むしろ称賛されることさえある。道徳十字軍が非民主的な手助けを必要とするときには常に、言論の自由のチョークポイントが集中し続けることが正当化されるのである。このチョークポイントこそ、LGBTQの言論や、女性、マイノリティの権利の抑圧に常に利用されてきた。どのようなウェブサイトや個人であれ、VisaやMastercardの道徳的感覚に反したという理由で、オンラインでの支払いを受けられなくなることがある。Wikileaksもそうだった。キンキーなソーシャルネットワークのFetlifeもそうだった。独立系出版社のSmashwordsもそうだった。そして、無数のセックスワーカーがそうだった。
MastercardとVisaの行動を称賛する人々は、彼らの検閲が力が弱い立場の人々に振りかざされることが多いということを認識しなくてはならない。それは私たちすべてを脅かす構造の問題なのだ。MastercardとVisaの行動を称賛する人々には、彼らの権力を維持すべき正統性を与えるのではなく、オンラインの生活に対する決済事業者の権力を減じるために協力してくれることを切に願う。
Publication Date: DECEMBER 14, 2020
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Bob May (CC BY-NC-SA 2.0)