以下の文章は、電子フロンティア財団の「In 2020, Congress Threatened Our Speech and Security With the “EARN IT” Act」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

民主主義の利点は、少なくとも理論的には、私たちが自由に、個人的に発言するのに誰の許可も必要としないことである。オンラインでもオフラインでも、私たちの言論が政府の基準を満たしていることを証明する必要はない。私たちは言論の自由やプライバシーの権利を「与えられる(earn)」必要はないのである。

時代は変わりつつある。今日、米国の一部の上院議員は、オンラインの世界での言論は例外的なものでしかなく、ウェブサイトの所有者はその資格を「与えられ」なければならないと考えるようになった。2020年、2人の上院議員が、オンラインでの言論とセキュリティを制限する法案を提出した。

児童への犯罪を口実に、オンライン言論の不可欠な法的保護に風穴を開けるべく、リンジー・グラハム上院議員(R-SC)とリチャード・ブルメンタール上院議員(D-CT)は、この法案を共同提出した。当初のEARN IT法は、19名の政府委員会を設立して委員として法執行機関を招き、オンラインプラットフォームが従うべき「ベストプラクティス」の策定を行うというものだった(訳注:ベストプラクティスに関する邦訳記事)。だがその対象は、Facebookのような大規模なウェブサイトだけではなかった。新たな規制は、国内のニュースサイト、趣味のブログ、電子メールサービスなど、他のオンラインサービスにも適用されることになっていた。「ベストプラクティス」に従わなければ、重要な法的保護を失い、そのサービスの利用者の行動の責任を問われたり、起訴される可能性があった。

法執行機関が、インターネット企業やウェブホスティング事業者にさせようとしていることは明白である。ウィリアム・バー司法長官は、法執行機関は常に暗号化された通信にアクセスできなくてはならないと繰り返し述べてきた。だが、我々が何度も何度も繰り返し説明してきたように、「バックドア」を設けた暗号化は、脆弱な暗号化でしかない。暗号にアクセスする手段を「クラアント・サイド・スキャン」と呼ぼうが「エンドポイント・フィルタリング」と呼ぼうがその事実は変わらない。バックドアは善良な者だけが使うわけではない。権威主義政府や犯罪者は、常に他人のメッセージを盗み見る隙を狙っているのだ。

EARN IT法の構造は、インターネット上の表現を法執行機関が監視できるように設計されていた。この法律は、FBIから地方警察に至るまで、法執行機関がオンラインで送信された全てのメッセージをスキャンできるようにするのである。法執行機関にデジタルメッセージへの合法的なアクセスを提供しない企業は、法的措置の対象となり、刑事訴追される恐れもあった(委員会が義務づける「ベストプラクティス」になることは間違いない)。もしこのまま可決されていたら、法案はプライバシーと表現の自由の双方に壊滅的な影響を与えていただろう。免責の保護がなければ、ウェブサイトはユーザの言論を検閲・規制するか、あるいは特定カテゴリの言論を完全に排除してしまうことになるからだ。

幸いなことに、当初の法案は市民から強い反発を浴び、委員会を通過することすらできなかった。当初の法案があまりにも不評であったため、EARN IT法には政府委員会の権限を弱める修正がなされた。新たなEARN IT法案では、強い権限を持った法執行機関主導の委員会を設置するのではなく、単に「諮問」委員会を設置するとしている。その代わりに、法案ではインターネットを規制する権限を州議会に与えている。

このEARN IT法の修正案は、改善された点は1つもなく、むしろ複数の点でさらに改悪されたと言わざるを得ない。同法案は、全米50州すべてと準州の立法府に、子供のオンライン虐待を抑止することが表向きの目的である限り、好きなようにインターネットを規制する権限を与えている。一方、上院司法委員会は、エンド・ツー・エンド暗号化を州による侵害から保護することを目的とした修正案を通過させている。この監視法案に脅かされた暗号化保護への懸念に応えるものではあるが、決して十分とは言い難い。

モラルが醸成されるまで230条は非難され続けるだろう

暗号化以外に、もう1つ強い批判を集めたのが、ビッグテック企業に特別な保護を提供していると誤解されている法律、通信品位法230条である。実際には、230条はインターネットユーザの日常的な言論とセキュリティを保護する法律である

議会議員たちは2020年後半、真っ当な連邦法である230条を弱体化させるさまざまなアイデアを矢継ぎ早に打ち出していった。PACT法案は、巨大オンラインプラットフォームの優位性に対処するための取り組みと謳われているが、実際にはユーザの検閲を引き起こし、巨大プラットフォームの優位性を固定化するものになるだろう。2020年後半に提案されたもう1つの法案、オンラインコンテンツポリシーモデレーション法案は、違憲であるとしか言いようがない

同様の法案は、2021年にも提出されるだろう。ビッグテックへの批判は当然のことではあるが、それによって多くの政治家がオンライン言論を規制したり、警察にインターネットを管理・監視する強力な権限を与えるという見当違いの取り組みに着手し始めている。もし230条を廃止するという間違った提案が通過してしまえば、それによって生じる副作用は極めて深刻なものとなるだろう。

オンラインの世界には、偽情報、ヘイトスピーチ、プライバシーの侵食など、深刻な問題が存在していることを我々はみな知っている。概して、その大きな問題は、ユーザの言論を保護する230条とは無関係である。問題は、一握りのテクノロジー企業があまりにも大きな力を持っているために引き起こされているのだ。巨大テクノロジー企業はますます独占的な行動を取るようになってきている。そして、彼らのコンテンツモデレーションシステムは深刻な欠陥を抱えている

私たちは、これらの問題に新しい解決策を必要としている。反トラスト法(独占禁止法)の執行強化CFAAのような反競争法の改革、強力なプライバシー規制の創設、ユーザデータ・ポータビリティ競争的互換性の機会創出などを考えていかなくてはならない。

In 2020, Congress Threatened Our Speech and Security With the “EARN IT” Act | Electronic Frontier Foundation

Author: Joe Mullin (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: December 28, 2020
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: _dChris (CC BY 2.0)