以下の文章は、Access Nowの「#KeepItOn: How to stop internet shutdowns in Ukraine」という記事を翻訳したものである。Access Nowは、高リスク地域におけるデジタルライツの保護・拡張のために活動する国際デジタルライツ団体である。
ロシアによるウクライナへの全面侵攻には、ウェブサイトへのDDoS攻撃、モバイル接続の遮断といった意図的な妨害行為などの幅広いサイバー攻撃も含まれている。Access Nowと#KeepItOnの連帯は、こうした攻撃を記録しており、その一部はインターネット遮断や検閲に相当する。こうした攻撃は、世界の他の地域のインターネット遮断で見られているのと同様に、ウクライナの人道危機を悪化させている。
ロシアなどの政府がインターネットアクセスに干渉したり、通信プラットフォームをブロッキングしたりすると、人権擁護者、ジャーナリスト、活動家、一般市民が情報にアクセスしたり、現地で起こっている出来事を報告できなくなる。こうした試みは、代替ニュースソースへのアクセスを封じることで、人権侵害や残虐行為を隠蔽し、国家プロパガンダを増幅させることを意図していることが多い。国連機関、テクノロジー企業、通信事業者、その他関連団体を含む国際コミュニティは、ウクライナの通信インフラを保護・維持し、それを害する者に説明責任を負わせるために今すぐ行動しなければならない。
ウクライナにおけるインターネットの混乱
ロシアは、ウクライナへの攻撃をエスカレートさせる一環として、インターネット封鎖を行っている。ロシア軍はマウリポリの住民を意図的に世界から断絶させるため、この地域の最後の携帯電話基地局を砲撃した。そのため、水道も電気も暖房も失った人々は、互いに連絡を取り合い、緊急支援を求めるためのツールすら奪われたことになる。また、占領されたブチャやイルペンなどの都市も暗闇に包まれている。
ウクライナ当局と住民によると、ベルジャンスク市とエネルゴダール市、ドネツク州とルハンスク州でボーダフォンの携帯電話とインターネットサービスが途絶しているという。ウクライナの大手通信事業者Ukrtelecomは、通信速度の低下はインフラの損傷によるものであると加入者に繰り返し説明している。報道によると、別の大手プロバイダのTriolanも3月10日にサイバー攻撃を受け、大規模なサービス障害を起こしているが、現在も完全には復旧していない。ザポリッジャ、ヘルソン、ミコライウ、チェルニヒウ、キエフの各地域でも、断続的にインターネット接続が途絶している。
ウクライナの人々は接続性の回復に努めている。ウクライナ国家特別通信・情報保護局は、ロシア軍の攻撃を受けたメリトポリ、チェルニヒフ、スームィの通信インフラについて、復旧作業が進んでいることを発表した。だが残念なことに、それから数日後の3月12日と14日、IODAのデータによると、ロシア軍の激しい爆撃を受けているスームィでは、インターネット接続が激減していることが明らかになっている。
ウクライナでは、標的型ネットワーク遮断の影響を軽減するため、ウクライナ・デジタルトランスフォーメーション省が携帯電話事業者のKyivstar、Vodafone Ukraine、Lifecellと協力して、自社ネットワークに接続できない加入者が他社ネットワークに切り替えられるように、国内ローミングを開始する。ロシアの違法な軍事侵攻が続く最中の#KeepItOnの措置として、このイノベーションに称賛を送りたい。
接続性の喪失:巻き添え被害か、それともロシアの軍事戦略の一環か
重要な通信インフラへの攻撃が偶発的なものであるとは考えにくい。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は最近の声明で、マウリポリなどの都市に誤情報を流そうとする戦略の一環として通信網の遮断が行われている可能性があるとの見解を示している。実際ロシアは、キエフ、コロステン、リシチャンスク、ハリコフ、リブネのテレビ塔を攻撃の標的にしており、ローカルニュースの発信を阻止する意図は明確である。メリトポリやケルソンでは、ロシア軍はすでにウクライナのテレビ・ラジオ放送を停止し、ロシアの放送に置き換えている。ロシアの占領地で人権を監視するパートナー団体も、当局が日常的に携帯電話ネットワークを遮断する一方、テレビ局はクレムリンのプロパガンダばかりを放送していると報告している。
こうした戦略は今に始まったものではない。だからといって、危険度が低いわけではない。インターネットアクセスが遮断されれば、人道回廊の情報を得ることもできないし、愛する人の安否を確認するために連絡を取ることもできない。Googleの空襲警報アプリなどのインターネットアクセスに依存するツールも使えなくなってしまう。
ウクライナのインターネット遮断を止めるために私たちができること
紛争中に軍事力がインターネットや通信インフラを標的にし、通信の遮断を引き起こした場合には、国際機関および関係機関は人権を守るために断固とした対応を取らなければならない。
国連機関・団体への要請
- 国連人権理事会が新たに設置したウクライナに関する独立国際調査委員会が、インターネットの遮断、検閲、監視を含むデジタルライツの侵害について調査し、報告すること。
- ウクライナ領内のインフラ再建のための技術的支援、サポート、援助を行うともに、国際電気通信連合(ITU)の権限内で電気通信機器の供給を確保すること。
- 国際刑事裁判所やその他関連裁判所が、オンラインやデジタル、サイバー活動を通じて行われた犯罪を含め、ウクライナで行われた戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドの罪について信頼できるすべての申立を調査するようにすること。
- 目撃者や被害者の支援、デジタル・エビデンスの収集と保存を含め、市民社会に調査への協力を求めること。
ウクライナ国外の通信事業者への要請
- ウクライナとの通話、テキスト、データ等の送受信にかかるすべての通信について無料化すること。最低限、ローミング料金はすべて免除すること。
- ウクライナからEUに入国する人々のSIM登録やその他本人確認要件を解除することで、家族や当局と連絡を取りあえるようにし、行政手続きの遅延を生じさせないようにすること。
- 国境検問所付近等の重要地点に移動基地局を配備し、ネットワークキャパシティを増強すること。
テック企業への要請
- メッシュネットワークや衛生インターネットなど、従来の通信インフラに代わる安全な接続技術の輸出、輸送、稼働を、安全かつ適切な方法で、現地関係者と連携しながら促進すること。
- ウクライナで働く従業員およびバリューチェーン事業が行われているコミュニティを保護するため、可能な限りの措置を講じること。
- ウクライナユーザのアカウントとデータをハッキング、監視、検閲、その他のオンラインの脅威からさらに保護するための措置を講じること。
- 制裁措置の過剰遵守(over compliance)を避け、ロシア占領地域のウクライナ住民などの最も脆弱なユーザの権利を不用意に損なわないよう、自社の決定が人権に及ぼす影響を十分に理解すること。
- 紛争の影響を受けた地域や高リスク地域に内在する人権リスクの高まりを特定、評価、対処するためのポリシーとプラクティスを採用すること。
Author: Anastasiya Zhyrmont (@AZhyrmont) / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: March 17, 2022
Translation: heatwave_p2p