以下の文章は、Access Nowの「What does Musk’s “free speech” look like for the rest of us?」という記事を翻訳したものである。

Access Now

デジタル権威主義の下で暮らす活動家、ジャーナリスト、反体制派にとって、オンライン空間は極めて狭いものになりつつある。だが、イーロン・マスクは我々の救世主ではない。

この世界有数の大富豪は、「事実上の街角広場」を検閲やコンテンツモデレーションの病から救いだしてくれる「表現の自由絶対主義者」として自らを演出している。だが、表現の自由に対するマスク氏の安直な考えは、Twitterプラットフォームを、有害な空間から最悪な空間へをと変えてしまうかもしれない。とりわけ、オンライン言論を監視・検閲する権威主義体制下のTwitterユーザにとってはそうなってしまうだろう。

億万長者の言論の自由ブランディング

長い間、ソーシャルメディア・プラットフォームにおける表現の自由は、ビッグテックと上位1%の人たちに委ねられてきた。彼らはプラットフォーム上で何が許され、何が許されないかについて、米国中心主義のレンズを通じて一方的に定義してきた。実際、それは偏見を伴い、差別的で、世界中の地方や地域のニュアンスやニーズをまったく無視したコンテンツ・モデレーション構造へと変換され、同時に硬直したグローバルなパワーダイナミクスを強化することにもなった。

アラブ革命をきっかけに急成長を遂げたプラットフォームが、いまや批判的な言論を検閲している。たとえばTwitterは2019年末にシシ政権への抗議デモが発生した直後に反体制派のアカウントを一斉に凍結し、2018年にトレンド入りしたエジプト大統領の退陣を求めるハッシュタグがなぜか消滅したりしている。こうした不透明でドラスティックな出来事は、決してたまたま起こったわけではなく、組織的に行われているのである。

現状はたしかに悲惨だ。だが、マスク氏の表現の自由の理解はもっと悲惨だ。最近、マスク氏は「『表現の自由』とは、法律との一致を意味する。法律をはるかに超えた検閲には反対だ」とツイートした。さて、それは誰にとっての法律なのだろうか?

マスク氏がTwitter運営における複雑で困難なエコシステムを理解できていないことは明白だ。政府はネット言論を統制し、プラットフォームのポリシーやルールを操作するための戦略を年を追うごとに巧妙化させてきた。エジプトやバーレーンなどの国々では、当局は法律の曖昧な定義を利用して犯罪を作り出し、不適切とみなしたあらゆる表現を検閲し、投稿者を起訴しているのである。

トルコイランをはじめ、インターネット主権法によってデジタル空間を侵害する政府が増えるにつれ、プラットフォームが当局の検閲・監視の要請に抵抗するのはますます難しくなってきている。

独裁者の思うツボ

マスク氏がTwitterに対して描いていると思われるビジョンの断片からも不穏さが感じられる。彼はTwitterを偽のボットやスパムアカウントから解放するために、「すべての本物の人間を認証」したいという。どうやってそれを実現するかは明かされていないが、プラットフォーム上の匿名性や仮名性に終止符を打てば、とりわけツイートを理由に投獄されてしまうような国々のユーザを深刻なリスクにさらすことになる。

もしマスク氏が実名制を強行するつもりなら、それは権威主義国家や狂信的な暴徒にTwitterユーザを差し出すことにほかならない。活動家、反体制派、女性、LGBTQ+らマイノリティの監視やハラスメントが、これまで以上に簡単に、効果的にできるようになるということだ。言うまでもないが、実名ポリシーなど実際にはほとんど機能しない。

また、ユーザに公的な身分証明書の登録を義務づければ、ユーザのプライバシーやデータ保護のリスクは悪化し、政府やハッカーにとって魅力的なハニーポットが作り出されることになる。政府はデータの自主的な開示を要請したり、法に基づいて強制したり、システムに侵入して盗み出すだろう。2014年にサウジアラビアがTwitterに2人のスパイを送り込み、匿名の反体制派の人物の正体を暴いたのと同じことが起こるのである。

ターゲットの1人となった、赤新月社(訳注:国際赤十字・赤新月社連盟のイスラム教国の組織)のサウジアラビア人支援者、アブドゥルラフマン・アル・サダンは、2018年3月に強制失踪させられた後、2021年に特別犯罪法廷に出廷した。彼は匿名で政府批判のパロディアカウントを運営していたとして、20年の禁固刑、さらに20年の移動禁止を言い渡された。もしマスク氏が「身元確認」するようになれば、どれほどの人が同じ運命をたどることになるのだろうか。

人より利益、再び

ソーシャルメディアにおける表現の自由の課題は、コンテンツ・モデレーションのルールだけでも、億万長者で白人のテック上級男性市民(tech bros)だけが解くべきなぞなぞだけでもない。政治的・商業的な決定――つまり、プラットフォームが自らの懐を満たし、収益を最大化するために、いつ、どこに注意と資源を注ぎ込むかを決定することもまた、重要な課題である。

Twitterのようなプラットフォームは、世界中のユーザの人権と安全を公平に、平等には守ってはいない。彼らは米国と西ヨーロッパの市場を大切に扱うが、それ以外の地域ではハラスメントやヘイトスピーチ、偽情報、オンライン暴力の問題は放置されているのである。

我々は市民社会として、ソーシャルメディアプラットフォームに軌道修正を求め、世界中のすべてのユーザを平等に扱い、人権、説明責任、透明性に投資するよう強く要請してきた。だが、マスク氏はそれとは別の計画を考えているようだ。従業員を減らし、コンテンツを生み出す「インフルエンサー」を招き入れ、Twitterの収益性を改善するサブスクリプションサービスを導入したいのだという。

また、テスラのCEOとして事業拡大を目論む国々から、反体制派の声を抑圧するよう求められた場合の利益相反の問題も懸念されている。取引を有利に進めるために人権コミットメントを怠ることは珍しいことではない。2021年、Googleはサウジアラビアの人権に関する悲惨な記録と侵入的な監視への警告が寄せられていたにもかかわらず、サウジアラビアに新たなクラウド・リージョンを構築すると発表している。

マスク氏の買収によって、Twitterがよりよい、またはより健全な空間になると信じるに足る理由はほとんどない。前任者のジャック・ドーシーは、マスク氏を「唯一の解決策」だと言う。だが、この問題の解決に必要なのは、もう1人の億万長者などではない。我々が必要としているのは、ボトムアップにデザインされた、人びとの、人々による、人びとのための民主的なデジタル空間である。

Author: Marwa Fatafta (@marwasf) / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: May 12, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Alexander Shatov