以下の文章は、コリイ・ドクトロウのPluralisticの「The sex industry isn’t technophilic」という記事を翻訳したものである。


セックス産業は、印刷機が登場してからというもの、ありとあらゆるコミュニケーションツールを開拓してきた。私自身が生を受けてからも、ビデオデッキ、DTP、BBS、デジタルテキスト、デジタル画像、デジタルビデオ、ライブストリーミング、暗号通貨、そしてVRをリードしてきた。セックスへの興味関心と、テクノロジーの魅了性との間に何らかの相関があると結論づけるのは容易い。

だが、それは間違いである。生得的にテクノロジーに魅力を感じるセックスワーカーやセックス産業の従事者はたくさんいるとしても、セックスへの興味がテクノロジーへの興味の予測因子であると考えるべき理由はない。にも関わらず、セックスワーカーはあらゆる技術革新の先陣を切っている。それはなぜなのか?

まずは、他の先駆者たちについて考えてみよう。つまり、セックスワーカー以外の常習的なアーリーアダプターにはどんな人たちがいるのか、だ。政治的急進派、子どもたち、麻薬常用者、そしてテロリスト。重なっている部分もあるが、これらグループに共通する顕著な特徴は、個人的なものではなく、排除されているという点だ。

子ども、麻薬常用者、政治的急進派、セックスワーカー、テロリストはみな、主流社会には歓迎されない。そして、彼らは主流社会のお金、コミュニケーションツール、メディアチャンネルを利用するのに苦労している。使おうものなら、個人的にリスクを負うばかりか、彼らの人間関係や取引が阻害されるおそれが高く、仕事を奪われたり、壊滅させられたり、遮断されたり、削除されてしまうのである。

新たな技術を使うにはコストがかかる。1979年のウォルト・ディズニー・ピクチャーズであれば、VTRに乗り出す必要はまったくなかった。既存のシステムはディズニーにとって最善であり、その観客にとっても最善だった。映画を上映してくれる映画館はどこにでもあったし、観客は映画館への配給を喜んだし、銀行は興行収入の預金を熱烈に歓迎した。

だが、もしあなたが卑猥な映画が好きだったなら、そんなことはありえない。8ミリフィルムを他の州に郵送するのですらリスクを伴う。押収されて焼却処分されるかもしれないし、郵便監査官が捜索令状を持ってあなたの玄関のドアをノックするかもれない。ほとんどの映画館はあなたの好きな映画を上映してくれないし、ほとんどの人は映画館でそんな映画を見たくもない。

こうした構造的な障壁を考えれば、たまたまセックス産業に携わっていたテクノフィリア(新技術の愛好家、テクノオタク)が――VTRを支持したことで社内でペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる外交官)の烙印を押された従来メディアの重役たちとは違って――同僚たちから一目置かれる存在になるのは合点がいく。つまり、テクノフィリアは、社会に許容されることをやるのであれば負債であるが、社会に嫌われることをやってこそ資産になるのである。

それゆえ、テロリストや子ども、セックスワーカー、麻薬常用者、政治的急進派たちの間では、テクノフィリアが重宝されるのである。FacebookからInstagramに移行した子どもたちは、なにも「次のビッグ・シング」を探していたのではなく、親や教師の目から逃れられるソーシャルメディアを探していたのだ。テクノフィリアの子どもたちがInstagramを発見し、他の子どもたちもそれに付き従ったのである。彼らは新しいサービスを学び、社会的なつながりを再構築する面倒さにも耐えた。少なくとも、その面倒さは、大人という権威に監視されるFacebookに留まる面倒さよりもマシだったのだ。

この現象の1つの帰結は、テクノフィリアのサークルには、社会的に好ましからざる人たちが一般的なサークルよりも多く存在しているということだ。あなたが新しいテクノロジーが好きなだけのリア充であるなら、あなたが探しているサービスやシステムには、過激派、子ども、麻薬常用者、テロリストだけでなく、セックスに携わる人たちが平均よりも多く存在しているだろう。

この現象のもう1つの帰結は、新たなテクノロジーの創始者たちは、常にこうした周縁化されたグループにアプローチすることからスタートし――つまり彼らを先駆者とし――やがて敵対するということだ。

セックスワーカーたちはこのストーリーをよく知っている。セックスワーカーのコンテンツや決済は、TumblrやInstagram、PayPal、Twitchが数十億ドル規模の大企業に成長するのに貢献したが、後にこれらの企業はセックスワーカーと敵対し、プラットフォームから追い出し、彼らの金を奪い、その過程で彼らのクリエイティブな仕事を破壊した。

このストーリーを最もよく知るのは、セックス・ポジティブでハイテク・フェミニストのパイオニアで、作家、評論家、教育者、パフォーマーのスージー・ブライトをおいて他にいるまい。ブライトは代表的なレズビアン雑誌『On Our Backs』の創刊を助け、ポルノビデオのシリアスな映画批評を実質的に発明し、多数の古典的な官能本を編集し、裁判で何度もセックス・ポジティブのための正義を勝ち取ってきた。

ブライトはテクノフィリアでもある。彼女とは1990年代はじめ、初期オンラインサービスの「The WELL」で出会った。当時、彼女はすでにDTPのパイオニアだった(『On Our Backs』はPagemakerでレイアウトされた最初の雑誌だった)。それ以来、ブライトはセックスワーカーのためのあらゆる技術開発、人権闘争の最前線に立ち続けている。

今年の春、ブライトと仲間たちは、コーネル大学図書館で「ラディカル・デザイア:『On Our Backs』誌の制作」という講義シリーズを開催した。

https://rmc.library.cornell.edu/radicaldesire/events.php

コーネル大学は、他のオープンアクセス教材と同じように、ブライトたちの服を着た講師による講義をYouTubeにアップロードした。するとYouTubeは、コーネル大学図書館のチャンネル全体、つまり「高等数学とプレートテクトニクス、ファッションデザイン、ヒューマン・エコロジー、古典ギリシャ語、MBAのベストプラクティスの講義」を削除してしまった。

https://susiebright.substack.com/p/terminated

これはいまや当たり前のことらしい。Facebookはブライトが今後の講義シリーズの告知を投稿しただけでBANしたくらいなのだから。

ブライトは「1986年にモデムを初めて手に入れて以来、こうしたクソみたいな追放/凍結/削除トロールがまとわりついてくる」と語っている。セックス・ポジティブな資料を探し出しては大量に通報する純血主義の偏執狂にテック企業は弱いのだと彼女はという。

だが、ブライトは泣き寝入りすることはなかった(コホン)。彼女は公共圏におけるセックス・ポジティブの問題を最高裁まで戦い抜いたのだ。

「Apple、Amazon、FB、Twitter、Microsoft、AOL」から一度は追い出されたブライトだが、彼女は未だに大きなプラットフォームを持っており、コーネル大学図書館のYouTubeチャンネルを復旧させるためにそれを大いに利用した。

だがブライトのストーリーは、我々が直面している問題の教訓でもある。少数の企業によって我々のデジタルライフが支配されてしまえば、誰に発言を許すかという彼らの決定が重要性を持つことになる。彼らの間違った決定は、数百万、数十億というユーザに影響を及ぼす。

また、YouTubeはポルノを排除できているのだから、他のプラットフォームも「悪いコンテンツ」――たとえばハラスメントや陰謀論などを削除できるはずだと無邪気に主張する人たちがいるが、セックスワーカーや周縁化されたユーザたちがコンテンツ・モデレーションというマグロの巻き網にかかったイルカであることをまったく理解していない。YouTubeがポルノフリーなのは、アイビーリーグ大学の学術資料の公開アーカイブ全体を誤って削除したとしても、セックス戦争の止む終えない犠牲(collateral damage)だとして許容しているからなのである。

さて、ブライトのストーリーが示すように、世論の圧力で大企業のコンテンツモデレーション・ポリシーを変えることは可能だが、これはまったく当てにならない。現在、最も支持を集めている代替案は、大企業が削除したいコンテンツの削除を禁止する法案だ(右派のお気に入りの提案で、トランプやアレックス・ジョーンズをビッグテック・プラットフォームに連れ戻すための方法と考えている)。

これはまったくひどいアイデアである。確かに、ビッグテック・プラットフォームは検閲のペンを振るっている。「政府によってのみ検閲は行われる」という衒学的なエクスキューズは、政府の無策もたらす表現への影響を無視している。政府が数社の企業に表現フォーラム市場を独占させたのだとしたら、その民間企業の行動は確実に、国が特定の表現を禁止・強制するのと同程度に、我々の公論に影響をおよぼすのである。

https://locusmag.com/2020/01/cory-doctorow-inaction-is-a-form-of-action/

プラットフォームによる我々の表現の統制方法には、改善の余地が大いにある。サンタクララ原則などの重要なドキュメントには、この点を改善のための実施可能な要請が示されている。

https://santaclaraprinciples.org/

だが、ビッグテック・プラットフォームをより良く機能させるだけでは限界がある。もっと重要なのは、うまく失敗させることだ。プラットフォームが反競争的なM&Aで手に入れた表現への責任なき権力を誰にも行使させないために。

https://www.eff.org/deeplinks/2021/07/right-or-left-you-should-be-worried-about-big-tech-censorship

セックスワーカーにアプローチし、そして裏切るテック企業は、公の場で恥をかかされて当然である。だが、セックスワーカーが決済やコミュニケーションを維持するために、厚顔無恥なテック企業の恥の感覚に頼らなければならないというのもおかしな話だ。だからこそ、より良いプラットフォームだけでなく、より多様なプラットフォームが必要なのである。

(Image: Come As You Are Co-operative, CC BY 2.0)

Author: Cory Doctorow / PluralisticCC BY 4.0
Publication Date: July 21, 2022
Translation: heatwave_p2p