以下の文章は、電子フロンティア財団の「Abortion Information Is Coming Down Across Social Media. What Is Happening and What Next.」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation


ソーシャルメディアから中絶に関連した情報が削除されているとの報道が散見されている。残念なことに、このような事態は過去にも例がない。長きにわたって曖昧なコミュニティ・スタンダードを維持してきたFacebookやInstagramなどのプラットフォームは、有無をも言わさずコンテンツを削除し続けている。

何が起きているのか

Viceが報道し、Wiredがフォローアップしているように、中絶に関する投稿はオンラインで厳しい監視の目にさらされている。ある活動家はViceに対し、以前と異なるのは、投稿を削除された人が以前よりも増加していると語る。

Viceによると、「中絶薬は郵送できる」という事実に即した文章が、「非医薬品の売買や交換」に関するFacebookのルールに違反するとしてフラグが立てられているという。中絶の情報を求める人たちをつなぐFacebookグループの管理者は、グループが完全に削除されないように、投稿内容を注意深く監視しなければならなくなったとWiredに語る。

この管理者は、Facebookのコミュニティ・ガイドラインについて、我々が常々耳にしてきたような不満を話している。つまり、境界線が実際にどこで引かれているのかがわからず、事前の警告もなく突然状況が変化するということだ。

ソーシャルメディア・プラットフォームはCOVID-19パンデミックを受けて医療情報に関するルールの執行を強化し、自動システムと人間のレビュアーが真実を決定するようになった。そのルールでは、医薬品の売買や贈与も禁止されている(「中絶薬は郵送できる」という文章の投稿は、このルールに抵触するとされる)。

さらに、Facebookはパンデミックのさなか、各州の検事総長の要請に基づいて「制限対象の商品やサービスの宣伝・販売」に関連した投稿を削除している。これは中絶のケアや情報の文脈において、とりわけ危険な前例となる。

ほぼすべてのソーシャルメディア・プラットフォームが、「違法な」活動やその助長を禁止するルールを設けている。だが、最高裁が「ロー」判決を覆したことを受けて、そうしたルールが州ごとに適用されるようになるのかは依然として不透明だ。州ごとにブロッキングを実施できるのか、明らかに違憲・違法な法律であっても無効とされるまでは従うのか、中絶が違法な州の住民が違法でない州での中絶医療を求める場合の不確実性にどう対応するのか、まったくわからないのである。さまざまな点で不確実な状況にあるが、これまでソーシャルメディアはもっとマシな状況であっても明確なガイドラインを示せた試しがない。

また、この種のポリシーは、情報を共有し、コミュニティを支援しようとする人びとを黙らせたい人たちの棍棒としても振りかざされることになるだろう。集団で、あるいは数人が悪意を持って報告するだけで、投稿は削除され、アカウントは凍結される。たとえ最終的に復旧したとしても、削除・凍結されている間は、助けを求める人たちに情報を届けることができなくなる。

企業が取り組むべきこと

繰り返しになるが、企業は自社のポリシーに明確性・一貫性を持たせなければならない。曖昧で適用範囲が広すぎるコミュニティスタンダードでは、何が言えて何が言えないのかをユーザが真に理解することはできない。これは異議申し立て手続きが破綻している場合には特に顕著な問題となる。

ViceはFacebookに「中絶薬は郵送できる」と複数回にわたって投稿し、その警告に一方では「同意しない」、もう一方では「同意する」と回答した(これらはユーザに与えられた2つの選択肢である)。投稿は削除され、ユーザのアカウントは24時間に渡って凍結された。だが、Facebookの評価に「同意しない」と答えた投稿は最終的に復旧した。

問題は、ルール違反がないと判断されたにも関わらず、24時間にわたってアカウントにアクセスできなくなったことだ。これは武器として容易に悪用されうる。また、Facebookの場合、異議申し立てはボックスの「はい」か「いいえ」をクリックするだけで、人間が審査しているかどうかが不明であることも問題だ。

明確で一貫性のあるポリシーと、意味のある異議申し立て手続きがあれば、オンラインで情報を共有しようとする人々に多くのメリットをもたらす。だが、彼らにとって居心地の悪いのは、企業がユーザのために立ち上がってくれることを期待しなければならないということである。マスメディアの注目や政治的圧力に振り回される一貫性のないルール執行は、誰にも望ましい結果をもたらさない。

また、企業の透明性レポートは、国別だけでなく、州法によって違いが生じる州別でも公表すべきだ。そうすることで、どの州の司法長官・法執行機関が、企業に中絶に関する照会を行っているかを把握できる。上記のFacebookの例では、どの州の司法長官がFacebookに資料の削除を要請したのかが不明である。この情報は公開すべきものだ。

「地域の法律(local law)」に基づく制限に関する透明性レポートやポリシーというものは確かに存在しているが、国別データ以上に詳細な情報が提供されているのを見たことはない。

Facebookだけの問題ではない

このようなポリシーの問題は、Facebook、Instagram、Twitterなどのソーシャルメディア以外でも生じうる。それがインフラに関わるものである場合には、さらに危険性を増す。

たとえばCloudflareのようなサービスは、中絶に関する情報が掲載されたウェブサイトへのアクセスを遮断するよう圧力をかけられる可能性がある。ISPが情報を提供するアカウントのインターネットアクセスを遮断するよう圧力をかけられることもありうるだろう。決済事業者は、中絶の医療費を支払うのを阻止するよう求められるかもしれない。表現や言論へのアクセスに対する重大な影響だけでなく、技術的スタックが進めば進むほど、更に甚大な影響がもたらされることになる。

問題は投稿の削除だけではない。中絶に関係したアカウントそのもの、あるいはウェブサイト全体が危険にさらされるおそれもある。インターネットアクセスが遮断されてしまえば、中絶についての意見を公表できなくなるだけでなく、その人、そしてその家族全員が、在宅勤務や遠隔授業、家族とのつながりを奪われてしまう。

AmazonのAWS(ウェブサイト・ホスティングで支配的なクラウドコンピューティングサービス)は、「違法な」コンテンツや「適用法、司法、規則、その他の政府命令や要請」に基づく凍結を容認するポリシーを定めており、政府機関が中絶情報を提供するウェブサイトを停止させる幅広い権限を持っている。

同様に、GoogleはGoogle Docsのユーザが「違法な活動に従事したり、人や動物に深刻かつ直接的な危害を加える活動、商品、サービス、情報を助長すること」を禁じている。多くの人が、研究や情報を収集し、そのリンクをコミュニティ内で共有する場としてGoogle Docsを使用している。中絶に関連してGoogle Docsを使用すると、ユーザはGoogleアカウントの喪失、つまりGoogleに預けていたあらゆるもの――メール、写真、ビデオなどのすべて――が失われるリスクを負うことになってしまう。

さらに、Googleがあなたを当局に通報するおそれもある。

ユーザである我々は、インターネットアクセス、ホスティング、リソースの共有、そしてコミュニケーションにおいて、ますます一握りの企業に依存していることに気付かされる。ある企業から追い出されてしまえば、その代わりとなる企業はほとんど存在しない。多くの米国人は、インターネット・サービス・プロバイダを選択することすらできない。地元のISPを追い出されるということは、インターネットアクセスを失うことを意味する。Googleから追放されれば、同社が提供するさまざまなサービスを失い、壊滅的な打撃を受けることになるだろう。AWSは多くのウェブサイトをインターネットから追放する力を持っている。

我々は常に選択肢を持たなければない。我々の価値観を共有し、政府の不当な要求に立ち向かってくれるソーシャルメディア、ISP、ウェブホスティングを選択できなければならない。だが、一握りの企業のルールのもとで何が許されているのかを考えなければならないのが現実だ。それゆえ、我々のために立ち上がるよう圧力をかけなければならないのである。情報、ユーザ、グループを削除せよという政府の圧力に対抗するために。我々が情報を共有し、アクセスできるようにルールを明確化するために。彼らの顧客である我々に奉仕させるために。

Abortion Information Is Coming Down Across Social Media. What Is Happening and What Next. | Electronic Frontier Foundation

Author: KATHARINE TRENDACOSTA / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: JULY 28, 2022
Translation: heatwave_p2p
Header image: Zuza Gałczyńska