以下の文章は、電子フロンティア財団の「The Internet Is Not Facebook: Why Infrastructure Providers Should Stay Out of Content Policing」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

先日、CloudflareがKiwiFarms(トランスジェンダーへのハラスメントキャンペーンをユーザに行わせていることで悪名高いサイト)へのサービス提供を拒否したことを受けて、インフラ企業にオンラインの言論統制を求める声はさらに高まっていくのだろう。EFFはKiwiFarmsが失われたとしても残念に思うことはないだろうが(同サイトは執筆時点でオンラインである)、Cloudflareの決定は、誰がオンラインで発言でき、誰ができないかを形成する上でのインフラ企業の役割という、根源的かつ未だ答えのない厄介な問題を改めて突きつけている。

今回の追放劇は、Cloudflareのサービスから同サイトを排除するよう要請するキャンペーンに応えたものだった。当初、Cloudflareは要請には応じないことを明言していたが、そのわずか48時間後、同社はKiwifarmsへのサービス提供を停止し、その理由を説明する声明を公表した。

この一件は、インフラ企業によるコンテンツを理由とした介入の明確な事例ではあったが、これが初めてだったというわけでもない。

  • 2017年、GoDaddy、Google、Cloudflareは、ネオナチサイト「Daily Stormer」が、シャーロッツビル集会で殺害された女性ヘザー・ヘイヤーを侮辱する記事を掲載したことを受けて、サービス提供を停止した。この事件後、Cloudflareのマシュー・プリンスCEOは、有名な言葉を残した。「文字通り、私は憂鬱な気分で目覚め、インターネットにいてはならない人物を決定したのです。誰もそんな力を持つべきではないのに」
  • 2018年、Cloudflareは、セックスワーカーが安全にクライアントとつながり、吟味するための、セックスワーカーによる、セックスワーカーのための分散型プラットフォーム「Switter」へのサービス提供を停止したこの決定を批判されたCloudflareは、セックスワーカーやオンラインの性的コンテンツに広く影響を及ぼした人身売買防止法「FOSTA」を同社が「理解しようとした」ことが原因だったと釈明した。
  • 2020年、コロナ禍におけるロックダウンで対面型イベントが開催できなくなっていた時期、Zoomは3つの大学で開催される予定だったバーチャルイベントのサポートを拒否した。表向きの理由は、講演者の1人のライラ・カリドが、50年前の航空機ハイジャックに関与し、米国政府が「テロリスト」に指定する組織と関係があるためであった。同社は以前にも、天安門事件の記念式典に関して、中国法の遵守を理由に、中国と米国の活動家へのサービス提供をキャンセルしたことがある。
  • 2022年、ロシアによるウクライナ侵攻の直後、世界中の政府が自国のインターネットサービスプロバイダに対し、ロシア政府が関与する組織の国策コンテンツを遮断するよう圧力をかけた。またウクライナは、欧州・中東・中央アジアの一部を管轄する5つの地域レジストリの1つ、RIPEに対し、ロシアのIPアドレスを失効させるよう要請した

こうしたテイクダウンや要請は極めて難しい問題である。ある団体にサービスを提供することで別の団体に危害を及ぼすおそれがある場合はなおさらだ。果たして、国際人権基準が求める必要かつ適切な方法で介入できない場合、ましてやインターネットのおかげで情報を取得し組織化しているユーザに透明性を欠く――あるいは異議申し立てを受け付けない――ようにしか介入できない場合、プロバイダによる自主的な介入は許容されるべきではないのだろうか。あるいは、緊急避難を認める例外は必要なのだろうか。とりわけ、弱い立場にあるコミュニティへの巻き添え被害をどう見極め、軽減するのが最適なのか。国家権力が同様の介入を要請したとしたら、どう対応すべきなのか。

ネタバレ:本稿は、上記の疑問の全てに答えるものではない。だが、政治家たちは「プラットフォームの向こう側」で運営されている様々なサービスをほとんど理解しないまま、自分たちの考えだけで答えを出そうとしている。我々は少なくとも、その部分に対しては、今すぐにできることがある。

インターネットはFacebook(あるいはTwitterやDiscord)ではない

我々が知るインターネットは、さまざまなサービス、メカニズム、プロトコルから構成されている。中でも重要なのは、インフラストラクチャ、あるいはインフラストラクチャ・プロバイダだ。インフラサービスは、物理インフラと論理インフラの2つに大別できる。物理インフラは、海底ケーブル、ケーブル、サーバ、ルータ、IXP(インターネット・エクスチェンジ・ポイント)などで、(訳注:物理的に存在し、つながっているているため)比較的わかりやすい。これらはインターネットの有形のバックボーンを構成している。インターネットが物理的なものであることはついつい抜け落ちてしまいがちだが、非常に重要なポイントである。

インターネットの論理インフラはいささか理解しづらいかもしれない。ただ、インターネットプロトコル(HTTP/S、DNS、IPなど)、インターネットサービスプロバイダ(ISP)、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)、認証局(CA)などが、いずれも不可欠なインフラサービスであることに異論を唱える人はまずいないだろう。ISPはインターネットの物理層へのアクセスを提供し、インターネットプロトコルはインターネット上で効率的に通信するためのルールを提供し、CDNとCAはウェブサイトがユーザから利用してもらえるようにコンテンツ配信と証明を提供する。いずれも、プラットフォームが存在し、ユーザがオンラインで交流するために不可欠な存在である。つまり、オンラインの表現の自由にとって不可欠な存在であり、法律に規定されていること以上に、オンラインで存在して良いもの、悪いものを判断する編集権限を与えるべきではない。

インターネットを機能させているのはこれだけではなく、他にもたくさんのサービスが舞台裏で働いている。たとえば、決済処理、分析プラグイン、行動追跡メカニズム、サイバーセキュリティツールなどは、プラットフォームの経済活動を支える。だが、これらをインフラとみなするかどうかは人によって判断が分かれるだろう。ここにある種のグレーゾーンが横たわっていると言える。こうしたサービスを拒否されたサイトのプラットフォームへの影響はさまざまである。決済処理は、ほぼすべてのウェブサイトにとって、ビジネスや組織を維持するための資金を集めるために不可欠なものだし、行動追跡メカニズムや広告トラッカーであっても、競争市場において企業の経済活動を支えていると主張することもできなくはない。もちろん、我々はトラッキングツールがインフラだと言うつもりは毛頭ない。

だが、リバースプロキシサーバによるDDoS保護(CloudflareがKiwiFarmsに提供していたサービス)のようなサイバーセキュリティツールとなると、話はさらにややこしくなる。DDoS保護の仕組みは、サイトの存在を左右するものではなく、起こりうる攻撃からサイトを保護するものである。また、ISPやCA、プロトコルとは異なり、この種のサイバーセキュリティツールは、権威ある団体によって厳密に定義されたサービスでもない。技術的な専門知識さえあれば(優秀なプログラマを雇う権利を保障されたプラットフォームは存在しないが)、誰にでも実現可能である。たとえばKiwiFarmsは、DDoSやボットによる攻撃からサイトを守るために、FLOSSロードバランサのフォークを使用するようになった

プラットフォームを越えた介入がもたらす結果

インフラプロバイダが、国際人権基準で定められたコンテンツモデレーションの要件を満たすポリシーを策定することは難しい。とりわけ個々の権利が互いに相反しているようにみえる場合には、それに対応するポリシーや監視するシステムの構築は、極めて困難だ。そして、その決定がもたらす影響も著しく大きなものにもなりうる。

たとえば、SESTA/FOSTAがセックスワーカーに及ぼした有害な影響がそうだった。CloudflareがSwitterへのサービス停止を決定した際、ほとんどのテック系メディアはこのことを報じなかったが、最も影響を受けるのは、こうした社会から排除されがちな、見向きもされないサイト群なのだ。グローバル・ノース(北半球の先進国)以外のプラットフォームや、周縁化されたコミュニティが利用するプラットフォームは、米国や欧州のオンラインスペースほどの選択肢を持ち合わせていない。そうしたプラットフォームを利用するユーザにとっては、ほとんど介入されず、企業上層部の気まぐれでコミュニケーションを阻害されたりしないポリシーのほうが、権力に対して真実を語る上では望ましいと言える。

オンラインでの行動は、現実世界に危害をもたらし、多方面に影響を及ぼす。だが、インフラプロバイダがその被害を評価すべき状況はほとんどない。また、事業を展開する国のルールや価値観に基づき、相反する要件や要請に直面することもある。Cloudflareは、以前に介入したことで、政府からの削除要請が増加したことを指摘している。

我々は、こうした複雑な問題への単純なソリューションを持ち合わせてはいない。だが、ここで提案をしたい。こうした圧力、それがもたらす厄介な問題、企業上層部の気まぐれに左右されずにユーザが発言・表現できることの重要性を考えれば、こうした問題に一貫した答えを持たないプロバイダは、それに振り回されるのではなく、自らのコアミッションに忠実であることに全力を傾けるべきだ。つまり、信頼性の高いサービスを提供し、改善することで、人々がそれを基盤として議論し、主張し、組織化できるようにする、ということだ。そして政治家たちは、インターネット政策がプライバシー、表現、人権を確立するものとなるよう注力しなくてはならない。

The Internet Is Not Facebook: Why Infrastructure Providers Should Stay Out of Content Policing | Electronic Frontier Foundation

Author: Corynne McSherry and Jillian C. York / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: October 13, 2022
Translation: heatwave_p2p
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