以下の文章は、Open Rights Groupの「ONLINE SAFETY BILL: WILL THE UPLOAD FILTER BAN IMAGES OF PROTEST?」という記事を翻訳したものである。

エリザベス2世の死後、警察が反王政派のデモ参加者を脅し、逮捕する事件があった。その写真がソーシャルメディアで広く拡散したことで、警察はデモが適法であったことを認めざるを得なくなった。

だが、「オンライン安全法」が施行されていたなら、この顛末はまったく別のものになっていたのだろうか。法案が街頭で抗議する人々の写真をソーシャルメディアで共有することを禁止することができるとしたら、どうなっていたのだろうか。

実際、オンライン安全法案にはそれを可能にする不可解な規定がある。ここではその理由を探っていきたい。

反王政派の抗議者たちは、スマートフォンで写真や動画を撮影され、それをソーシャルメディアにアップロードされた。ある者はただ抗議の言葉を叫び、ある者は手書きの横断幕を、またある者は白紙の紙を掲げていた。

警察は彼らを排除したり、言葉で脅し、さらに2人を逮捕した。あるケースでは公序良俗法第5条違反の容疑とされ、デモ参加者は手錠をかけられ警察車両に乗せられた。その後、彼は釈放され、自分に起こったことをソーシャルメディアで説明した。また別の人物は、紙に「私の王ではない」と書けば逮捕されるおそれがあると言われている。彼はその様子をビデオに撮影し、Twitterに投稿した。ここでも、公序良俗法がその根拠とされていた

こうした証言は、マスメディアで取り上げられた。法律の専門家や一部の政治家たちは言論の自由を脅かすものだと批判し、市民的自由団体もその危険性を訴えた。警察当局はその後、市民による路上での抗議は法律で認められており、プラカードを掲げることも(訳注:公序良俗法の)違反ではないと認めた。

現時点では、こうした写真や映像のネット上での流通は完全に適法である。言論の自由が法的に保護されているためだ。実際、国民が抗議行動について知る上で、ソーシャルメディアは重要な媒体になっている。オンラインプラットフォームは、民主的議論のためのパブリックスペースとなっているのである。

だが、こうしたソーシャルメディア上の画像から、オンライン安全法案の施行後の世界を少しばかり覗き見ることができる。法案は、公共空間での抗議活動の映像・画像の拡散を脅かす可能性を秘めている。

(訳注:抗議者排除の口実に)公序良俗法第5条が持ち出されたことは極めて示唆的である。なぜなら、オンライン安全法には、公序良俗に反する画像や動画、文章をソーシャルメディアプラットフォームから削除する規定が存在しているからだ。

もっと具体的に言えば、オンライン安全法案の違法コンテンツ条項の対象となる犯罪の一覧に、公序良俗法第5条が含まれている。すべてのオンラインサービスは、それらのコンテンツの制限を求める「安全義務」に従わなければならない。

オンライン安全法案では、コンテンツの違法性を判断するにあたり、ソーシャルメディアプロバイダ自身が準司法的判断を下すことを強く求めている。もちろん、プロバイダが証拠を示す必要はない。

プロバイダは、該当する投稿を「速やかに削除する」か、「ユーザに閲覧されるのを防ぐ」よう求められている。そのためには、アップロードフィルターを使って動画や画像を削除したり、ユーザ自身のアカウントにも他のユーザのタイムラインにも表示させないようにしなければならなくなるだろう。アップロードフィルターは、ユーザの投稿を既知の画像データベースと照合し、一致した場合にはそのコンテンツを削除してしまう。

未解決の問題は、オンラインプラットフォームがオンライン安全法を遵守する上で、どうやって犯罪性を判断すればよいかということである。プラットフォームが政府の期待どおりに振る舞わなければ罰金を科されるという文脈を踏まえれば、その答えは自ずと導かれる。プラットフォームは公正さや法の支配の遵守によってではなく、どれだけ違法なコンテンツを削除したかによってのみ判断されるのであろう。

したがって、プラカードを掲げる人々の写真や映像が、1986年公序良俗法第5条に基づく違反と認定され、アップロードが完了する前に削除される可能性は十分にある。プロバイダがこの法律を遵守しようとすれば、こうした画像が事実上禁止される可能性があるのだ。

とりわけ、オンライン安全法案が、公序良俗に反する犯罪をハラスメントやストーキング等の犯罪と同一に扱っていることが不思議でならない。実際、法案の条項は「公序良俗、犯罪、ハラスメント、ストーキング、暴力の脅しや誘発」との見出しが用いられている。公序良俗法は、ネット上のハラスメントやストーキングに対処するための立法なのだろうか。オンライン安全法案が解決しようとしているプライベートで個人的で家庭内の犯罪の解決に、公序良俗法が役立つとは到底思えない。

それとも、政府は抗議者を弾圧するために、あえてオンライン安全法案にミスリーディングな公序良俗規定を盛り込んでいるのだろうか。

表現の自由という英国の基本的価値観を重んじている人なら誰もが懸念している。だが、オンライン安全法案は、それをまったく別の次元へと押し上げてしまう。逮捕者の写真が検閲され、抗議活動も、警察の対応も、一般にはまったく知られなくなってしまう可能性があるのだ。企業が政府の命令を受けて、まったく明かされていない基準に従って、秘密裏に制裁を課す――オンライン安全法案はそうした社会を生み出す可能性を秘めているのである。このようなことは民主主義国家にあっては許されない。

Online Safety Bill: Will the upload filter ban images of protest? | Open Rights Group
Author: Dr Monica Horten / Open Rights Group (CC BY-SA 3.0)
Publication Date: September 29, 2022
Translation: heatwave_p2p
Header image: Alisdare Hickson (CC BY 2.0)