以下の文章は、電子フロンティア財団の「Monetization, Not Human Rights or Vulnerable Communities, Matter Most at Twitter Under Musk」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

億万長者のイーロン・マスクは、Twitterが「世界にとってとんでもなく価値のあるサービス」、つまりアイデアや議論が盛んに交わされるグローバル・フォーラムになりうるという。だが、同社を買収してからの行動は、その目的を達成する方法をまったく理解していないこと、自らの決定がユーザ、とりわけ最も弱い立場の人々に与える影響を理解していない、あるいは気にかけていないことを示唆している。

信頼・安全責任者とコンテンツ・モデレーション人員の解雇、8ドルのブルーチェックプログラムの惨憺たる展開・ロールバックにいたるまで、イーロン・マスクによるTwitterの支配は、段階的に偽情報、ハラスメント、検閲へと続くレールを敷き、ユーザ、とりわけ危機的状況の中で表現手段を求めてTwitterに集う世界中の人々のリスクをすでに増大させている。

イーロン・マスクによると、ヘイトスピーチはプラットフォーム上からなくならないものの、「最大限抑制される(max deboosted)」という。おそらくTwitterのアルゴリズムによってフィード上に表示されにくくなるということなのだろうが、それがどのように実施され、どのような言論がヘイトに分類されるのかは明かされていない。

The Vergeが入手したTwitter社内のSlack投稿によると、同社プライバシーチームの弁護士は「イーロンがTwitterユーザの収益化しか考えていないのは明らかだ」と述べている。「彼が人権活動家、反体制派、収益化できない地域のユーザ、そして私たち全員が愛するTwitterをグローバルな街の広場にしてきたすべてのユーザを気にかけているとは思えない」。

安全、セキュリティ、言論、アクセシビリティの保護の最前線に立つTwitter幹部が続々とその仕事を離れている。ある者は解雇され、ある者は退職した。すでに信頼・安全責任者のヨエル・ロス、最高情報セキュリティ責任者のリー・キスナー、最高プライバシー責任者のダミアン・キーラン、最高コンプライアンス責任者のマリアン・フォガティ、人権顧問のラジ・シン、アクセシビリティ担当エンジニアリングマネージャーのジェラルド・K・コーエンが去った。7500人いたTwitterの従業員は、半数が解雇され、信頼・安全部門が最も打撃を受けた。グローバルな人員削減の第二波では、4000人以上の契約社員が解雇されたと報じられている。その多くは、米国や国外でプラットフォーム上の偽情報と戦うコンテンツモデレーターたちだ。そして先週末、マスクが従業員に残留か退社かの決断を迫り、1200人もの従業員がTwitterを去った

イーロン・マスクはその過程で、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の遵守を担ってきた人権チーム全員を解雇した。人権チームは、有害コンテンツ、プラットフォームの操作、エチオピア、アフガニスタン、ウクライナなどの紛争地域で活動する著名ユーザを標的にした攻撃に対抗する上で極めて重要な役割を担っていた。彼らは人権基準に沿わない権威主義国家からの検閲要求にも抵抗してきた。こうした要求は近年増加傾向にあり、同社が2021年下半期に削除を要請された適法コンテンツは、過去最高の5万件に上っている。

さらに悪いことに、「Twitterが運営されている国の法律に厳密に従う」というイーロン・マスクの宣言は、同社がこれまで抵抗してきた検閲やユーザデータの開示要求に応じることを意味するかもしれない。

たとえば、イーロン・マスクが資金援助を受けているカタールは、「国益を損なう、世論を混乱させる、または国家の社会システムや公共システムを毀損する意図を持って、国内外の虚偽または偏向した噂、発言、ニュース、扇動的プロパガンダを放送、出版、再公表した者」に懲役・罰金刑を科す法律を定めている。アムネスティ・インターナショナルは、この曖昧な法律は(訳注:政府に)悪用されやすく、言論を萎縮させる環境を作り出していると非難している

また、Twitterのモデレーション・ポリシーは完璧とは言い難いものの、しばしばユーザの側に立って戦ってきた。たとえば、インド当局は活動家、ジャーナリスト、政治家など、政府を批判するアカウントを凍結するようTwitterに圧力をかけつづけてきたが、同社は39のツイートとアカウントの削除を求める政府の要請を拒否して訴訟を起こすなど、反撃に出てもいた。だが今月始め、イーロン・マスクがインドのTwitterスタッフ200人のうち90%を解雇したことを考えれば、この訴訟が維持されるかどうかは不明だ。

大規模レイオフを前に、コンテンツ・モデレーションやポリシー執行に使用される内部コントロールへのアクセスが遮断されていたことが報じられており、11月8日の米国中間選挙を前にモデレーターが誤情報・偽情報に対応できていたかどうかも疑問視されている。イーロン・マスクによる440億ドルの買収後、最初の数日で同プラットフォームに人種差別的な中傷が急増したことは偶然ではない。

もう1つの問題は、月額7.99ドルで青いチェックマークと新機能への早期アクセスが提供されるサブスクリプションサービス「Twitter Blue」だ。青いチェックマークは、Twitterが当該アカウントが著名人やジャーナリスト、活動家やアーティストのアカウントであることを独自に確認したことを示すものだった。このブルーマークは、偽アカウント・偽情報対策として、プラットフォームの信頼性を高めるものだった。だが、イーロン・マスクは、お金さえ払えば誰にでも表示できるようにしたいと考えている。

新生Twitter Blueは、個人や政府、企業が好き放題に他人になりすませる手段として爆発的に普及した。たとえば、航空会社のカスタマーサポートを騙る偽アカウントが、ホンモノの航空会社にサポートを求めるTwitterユーザを誘い込もうとしていた。

Twitterはそうしたなりすましアカウントの多くを凍結したが、反トランス・トロール、極右過激主義者、陰謀論者、さらには過去にヘイトコンテンツや偽情報でTwitterから追放された者たちがブルーチェックを購入し、再び舞い戻ってきている。悪用が相次いだことで、Twitter Blueへの加入は一時停止された。

Twitter Blueの有料化は、たとえ悪用されなかったとしても、年間96ドルを支払えない人々や団体に不釣り合いな影響を与え、彼らの発信力を削ぐことになるだろう。ブルーチェックはジャーナリスト、人権擁護者、活動家の信頼の証となっていて、とりわけTwitterが貴重な情報源・コミュニケーション源となっていた権威主義の国々では重要な役割を果たしていた。さらに、イーロン・マスクによると、お金を支払わない人たちはプラットフォームで見つけにくくなるという。有料アカウントは優先的に表示され、検索・返信・メンションで最初に表示されるようになる。

また「幅広く、多様な声」を代表するコンテンツモデレーション協議会を設置する予定だという。11月上旬、イーロン・マスクは全米有色人種地位向上協議会カラー・オブ・チェンジ名誉毀損防止同盟などの公民権団体の関係者と会談し、ロックアウトしていたコンテンツモデレーションツールへのアクセスの復旧を約束し、協議会への参加を呼びかけた。だが、米国外の疎外されたコミュニティも、自分たちの声を届けるためにTwitterを利用してきた。果たして、協議会のメンバーに彼らの声を代弁できる専門知識と信頼性を持った人物はいるのだろうか。

イーロン・マスクは10月下旬、評議会が設置されるまでは、大きなコンテンツモデレーションの決定やアカウントの凍結解除は行わないことを明言した。だが11月20日、いまだ評議会の設置を発表していないにもかからわず、ヘイトスピーチや偽情報を理由にプラットフォームから追放された著名アカウント――投票によって呼び戻されたドナルド・トランプ元大統領、カニエ・ウェスト、トランス差別コメントで凍結されていたバビロンビー――を復活させた。

世界中のTwitterユーザが混乱に陥っているなか、1つだけ明るい兆候がある。イーロン・マスクは、Twitterのダイレクトメッセージをエンドツーエンドで暗号化するという約束を実行に移すかもしれないいうことだ。Twitterのダイレクトメッセージが暗号化されれば、ユーザはTwitter上で安全なコミュニケーションを実施できる。

だが、DMの暗号化はTwitterの最も脆弱なユーザが被る害悪を覆い隠すものでも、凌駕するものでもない。収益化を優先させることで、収益化できない地域にいる数百万ものTwitterユーザは取り残され、彼らの声がフィードの最下部に追いやられ、誰に目にも触れられなくなることは不可避であろう。

Monetization, Not Human Rights or Vulnerable Communities, Matter Most at Twitter Under Musk | Electronic Frontier Foundation

Author: Karen Gullo / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: November 21, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Gareth David