以下の文章は、Access Nowの「FAQ: how the EU plans to protect media freedom」という記事を翻訳したものである。

Access Now

民主主義国家の責任を問うためには、自由で独立した多様な報道が不可欠である。メディアが公共の番人として、正確かつ信頼できる情報を独立して提供する力は、国民が政治指導者を精査し、十分に情報を得た上で政治的選択を行い、基本的権利と自由を行使するために必要とされている。だが、メディアの自由は世界中でますます制限され、国家の干渉を受けるようになっている。

この憂慮すべきトレンドに対処すべく、欧州委員会は2022年9月に「欧州メディア自由法(EMFA)」を提案した。このFAQでは、なぜこのような提案が必要なのか、それはどのようにメディアの独立性を強化し、多元性を守るのか、そしてどのような影響をもたらすのかを掘り下げて解説したい。

Q:なぜEUでメディアの自由と多元性を守る法律が必要なのか?

A:最近まで、各加盟国のメディア政策はEU機関から独立して管理される問題だった。だが、法の支配、ハンガリーやポーランドなどで見られている国家による干渉、政府によるプロパガンダの拡散、パブリックな情報・コンテンツのゲートキーピングなどについての懸念がますます高まりつつある。今年の「メディア多元主義モニター(Media Pluralism Monitor)」は、編集の独立性を守る有効なメカニズムを有する欧州諸国が非常に少ないことを警告し、EU加盟国5カ国におけるメディアの自由と多元性は、国家の干渉からの政治的独立に関して「高リスク」であることを指摘している。

欧州委員会のメディア規制の取り組みには賛否があり、EU加盟国ごとにさまざまな見方がある。ドイツのように、新たな規制が国内法の基準を引き下げたり、制限を弱めるのではないかと懸念する国もあれば、ハンガリーのように、EUに規制や調査の権限を握られることで、メディアへの不当な干渉や操作が露見するかもしれないという理由から反対する国もある。

Q:欧州メディア自由法(EMFA)とはなにか?

A:EMFAは法的拘束力を持った規則である。EMFAは「メディアサービスプロバイダ」という包括的な用語によって定義された幅広いメディア関係者の権利と義務を確立する。さらに、編集の独立性とメディアの所有権の透明性に関する自主的措置についての一連の勧告が付されている。EMFAは民主主義を支えるメディアの重要な役割を以下のように保護しようとしている。

  • メディアの編集の自由へのあらゆる妨害から保護する
  • ジャーナリストとその家族に対するスパイウェアの使用を阻止する
  • メディアの所有権に関する透明性を要求する
  • 公共メディアの安定した資金調達を確保する
  • 国家による広告に関して新たな透明性確保の義務を定める

EMFAはさらに、EUのコンテンツモデレーション規制のデジタルサービス法(DSA)で定義された「メディアサービスプロバイダ」と「VLOP(大規模オンラインプラットフォーム)」の関係にも対応し、この2つの規則の相互関係を強調している。

Q:EMFAは誰を、どのように保護するのか?

この法律の中心には、すべての個人が多様なニュースやコンテンツを受け取る権利がある。その実現は、政府や関連機関がメディアサービスプロバイダの編集の自由を尊重し、メディアのポリシーや決定に干渉したり影響を与えようとしないことが前提となる。さらに具体的には、個人が自分の興味や好みに基づいて見るものをカスタマイズできるようにしなければならないことも意味している。

編集の独立性を保護するためには、加盟国はメディアのポリシーと決定にいかなる形であれ干渉しないこと・影響を与えないことによって、編集の自由を尊重しなければならない。EMFAはメディサービスプロバイダと加盟国の双方にさまざまなセーフガードと義務を提案している。以下に主要なものを取り上げる。

  • 政府によるメディアサービスプロバイダの監視の禁止(第4条)

加盟国は、メディアサービスプロバイダに対するいかなる形態の監視も禁止される。たとえば、メディア企業の敷地内の捜索、ジャーナリストへのスパイウェアのデプロイが明示的に禁止される。NSO Groupのスパイウェア「Pegasus」がジャーナリストに頻繁に使用されていたことを考えれば、画期的な措置と言える。国家安全保障の理由からスパイウェアを使用しなければならない場合でも、EMFAは法的拘束力のあるEU憲章に規定された基本的権利の保護措置を提供する。

  • メディアの所有権と資金調達に関する透明性の義務づけ(第6条)

EMFAの下では、時事問題を報道しニュース価値のあるコンテンツを提供するメディアは、編集上の決定に影響を及ぼしうる直接的・間接的・受益的な所有権に関する情報を開示しなければならない。この措置は、潜在的な利益相反を明らかにし、公共の議論への参加や意見・世論の形成に資する客観的な報道を保護することを目的としている。

  • プラットフォームによるメディアコンテンツの特権的扱い(第17条)

EMFAでは、VLOPのメディアコンテンツの扱い方についても言及されている。まず、メディアプロバイダが編集の独立性を証明する自己申告を提出できるシステムの構築がVLOPに義務づけられる。次に、VLOPが十分な根拠なく頻繁にコンテンツを削除する場合、メディサービスプロバイダはVLOPとの「友好的解決」を見出すための対話を求めることができる。

いささか懸念されるのは、この規定はDSA交渉でも提案され、我々が反対してきた(最終的に取り下げられた)「メディアの免責」に類似したものであることだ。FMFAではよりニュアンスを含んだものにはなっているが、それでも懸念せざるをえない。第一に、現時点でVLOPがユーザ生成コンテンツ以上にメディアコンテンツを削除しているという証拠はない。第二に、DSAはすでに、基本的権利にシステミックリスクをもたらす不透明なコンテンツモデレーションポリシーと不透明なアルゴリズムに対処している。同じ目的のために、メディア免責規定を追加する必要はない。

  • メディア市場の集中に対する抑制と均衡(第21条)

EMFAは、EUにおけるメディア市場の集中に関する通則を初めて定めるものとなる。メディア部門への経済的資源の集中により意見の多様性が著しく損なわれるおそれがある場合に、その影響に対処することを目的としている。EMFAの下では、加盟国は「メディア多元性テスト」と呼ばれる新たな評価基準を用いて、メディア市場の集中度を評価しなければならない。メディアの多元性や編集の独立性に影響を与える可能性のある買収・合併は、この新たな基準に照らして評価されなければならない。この基準は、EUの合併管理規則に基づく競争法の評価といった古典的な競争法の措置とは異なるものとなる。

Q:これからどうなる?

EMFAは、EUにおけるメディアの自由の縮小トレンドを逆転させることを約束している。欧州の立法者たちは、来年に提案の詳細について交渉を開始する予定になっているが、加盟国、メディサービスプロバイダ、メディアの自由擁護者のさまざまな利害を考えると、困難な交渉になるだろう。

立法プロセスが開始される中、Access Nowはオンラインプラットフォームとメディサービスプロバイダの関係を精査し、ジャーナリストらメディア関係者に対するスパイウェアの使用に反対し続けることで、オンラインでの基本的権利を引き続き養護していくつもりである。

FAQ: how the EU plans to protect media freedom – Access Now

Author: Eliska Pirkova / Access Now (CC BY 4.0)
Publication Date: December 1, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: The Climate Reality Project