以下の文章は、EDRiの「Everyone is on Mastodon now, but why?」という記事を翻訳したものである。
イーロン・マスクがTwitterというおもちゃを購入したことに、多くの人が懸念を抱き始めた。地球上で最も裕福な男性は、Twitter社を買収することで政治的発言や公共の議論の最も強力なオンラインプラットフォームの1つを好き勝手に支配できるようになった。
Twitterはユーザ数だけで成り立っているわけではない。実際、月間アクティブユーザ数は4億人ほどで、Facebookの30億人、YouTubeの26億人に比べれば遥かに小さい。
Twitterの影響力は、そこにいる人々に由来する。政治家、記者、研究者、億万長者の投資家、著名人、活動家(EDRiやメンバー組織を含む)たちが集い、混在する場だからだ。
その中には数百万のフォロワーを持つアカウントもある。抗議者、兵士、支援関係者は、紛争地域や災害地域の最新情報をリアルタイムで共有する。報道機関にとっても、Twitterは貴重なメガホンであり、ほとんど代わりのない生の情報源でもある。
なのに、なぜTwitterからの離脱が相次ぐ?
イーロン・マスクがTwitterの指揮を執った瞬間、彼は我々の知るプラットフォームを大混乱に陥れた。彼は従業員の半数を解雇し、コンテンツモデレーションのエキスパートの大半、そして人権チーム全員が同社を去ることになった。
Twitterのアカウント認証システムを、ろくすっぽ理解しないまま見切り発車のプランでメチャクチャにした。さらに、同社の利用規約に違反したことで凍結されていた大量のアカウントを復活させた。その多くは、ヘイトや偽情報を拡散してきた人たちだ。欧州でさえ、デジタルサービス法をはじめとするEU法の義務を遵守するようTwitterに釘を刺している。
買収から数日と経たずに、#TwitterMigrationと#JoinMastodonがトレンドにあがった。MastodonはTwitterと何が違うのか、その特徴を見てみることにしよう。
Mastodonはプラットフォームではなく、ネットワークである
Twitterはサンフランシスコに本社を置くTwitter社が所有・運営する中央集権的なプラットフォームである。一方、Mastodonは個々のプラットフォーム(「インスタンス」と呼ばれる)のネットワーク全体を指す。そのネットワーク内の各インスタンスは、互換性のある他のすべてのインスタンスと接続でき、どのインスタンスのMastodonユーザであっても原則として他のインスタンスのMastodonユーザとコミュニケーションしたりフォローしたりできる。
Mastodonはソーシャルメディアに特化した電子メールのようなものと言っても良いのかもしれない。たとえばGmailでもYahooでも、あるいは会社のメールアカウントでも、誰もが他のメールプロバイダを利用する人にメールを送ることができるし、誰も「メールそのものを買収」することはできない。さらに、電子メールは分散型であるためレジリエンスが非常に高い。
あるメールプロバイダがオフラインになっても、ユーザがメールを送信できなくなることはない。Mastodonもそれと同じように、mastodon.socialのような最大規模のインスタンスだろうと、home.socialのような小規模なコミュニティ運営インスタンスであろうと、どのインスタンスでアカウントを開設するかはさして重要ではない。ユーザは原則として常にネットワーク全体にアクセスできる。
Mastodonはドイツのソフトウェア開発者のオイゲン・ロッコによって2016年に設立され、数十万人の小さいながらも忠実なファンベースを獲得してきた。だが、マスクのTwitter買収後、8500ほどのインスタンスのアカウント数は約800万(月間アクティブユーザ数の250万を大きく上回る)にまで爆発的に増え、現在も増加し続けている。
だが、それだけではない。Mastodonは「ActivityPub」というフリー/オープンソースプロトコルを用いて、インスタンス間の相互接続を可能にしている。InstagramのオルタナティブであるPixelFed、YouTubeのオルタナティブであるPeerTube、PodcastプラットフォームのFunkWhale、FacebookのオルタナティブであるFriendicaがある。いずれもActivityPubを用いるため、それぞれのユーザは、あちこちにアカウントを開設しなくても、他のサービスのユーザをフォローできる。
フェディバースはデジタルライツを祝福する
相互に接続されたオープンソースのオンラインサービスのエコシステム全体は「フェディバース(Fediverse)」と呼ばれる。これは「フェデレーション(連合)」と「ユニバース」の合成語だ。
各サービスはそれぞれにビッグテックの支配的なサービスのオルタナティブとなる可能性を秘めている。それぞれのサービスはすべての人にソーシャルメディアサービスを提供することができるが、これまでのように公共空間がごく一握りの強力な企業に支配されることも、企業利益のために歪められることもない。
それどころか、フェディバースとMastdonのあり方は、ユーザのデジタルライツをこれまで以上の尊重し、EDRiとそのメンバー組織が長年にわたって提唱してきたエシカルなソーシャルメディアのための条件を数多く満たしている。
- フェディバースのほとんどは(すべてではないにせよ)フリー/オープンソースのソフトウェアである:誰もがそのソフトウェアを自由に使用し、理解し、採用し、共有する権利を持つ。ソフトウェアをフリー/オープンソースにすることは、それを通じて企業による囲い込みやプライバシー侵害から我々自身を守るための最善の戦略である。
- フェディバースは非中央集権:いかなる個人・団体もフェディバースを買収することはできない。ActivityPubプロトコルなどの基礎技術やその他のソフトウェアは、自由ソフトウェアライセンスで公開されており、誰もがそのソフトウェアを入手し、改変し、開発を継続できる権利を与えられている。フェディバースはコモンズの一部なのである。
- フェディバースは相互運用が可能:フェディバースは自由に利用できるActivityPubプロトコルの上に構築されているため、Mastodonなどのサービスは同じプロトコルを用いるすべてのオンラインサービスと自動的に相互運用が可能である。
- フェディバースには商業的監視/広告が組み込まれていない:現在、フェディバースに属するどのサービスも、ビジネスモデルとしてプロファイリングや個人データ収集を行ってはおらず、たとえばトラッキング広告などを表示することはない。だからといってMastodonインスタンスを営利事業として運営できないというわけではないが、中央集権化とユーザ数の最大化を必要とする監視ベースのビジネスモデルをフェディバースで実現するのは極めて難しいだろう。
- フェディバースには有毒なレコメンドアルゴリズムがない:Mastodonのようなサービス間で共有されるコンテンツは、字形例によってのみランク付けされる。ユーザにスクロールを促し、たくさんの広告を表示させられるように中毒にするためのアルゴリズムはなく、ユーザが見ることを選択したコンテンツに干渉してくることはない。
- コンテンツモデレーションが、全権力を握った1人の人物にコントロールされることはない:すべては人々の手に委ねられている。各インスタンスは、独自のコンテンツモデレーションルールを設定・実施するが、そのルールはそのインスタンスのみ適用される。もしルールがユーザにとって好ましく、正しく執行されていれば、ユーザはそのインスタンスに留まり、楽しむことになるだろう。もしルールやその執行が適切でないと感じたなら、ユーザはもっと良いインスタンスに移動できる。コンテンツモデレーションが機能していなかったり、まったく行われていない場合には、そのインスタンスは他のインスタンスから切断(de-federated)されることになるだろう。そうしたインスタンスと関わりたいというユーザはほとんどいないのだから(訳注:関わりたければ、他のインスタンスからではなく、そのインスタンスにアカウントを作れば良い)。
さて、我々はどこへ向かうのか、何をすべきか
Mastodonは現在、アネット・ディッテやアダム・デビッドソンといった著名なジャーナリストや、欧州委員会のティエリー・ブルトン、ドイツ社会民主党党首サスキア・エスケン、欧州議会議員のアレクサンドラ・ギースといった政治家も惹きつけている。非常に良いことだ。
なぜ“良い”かといえば、まず彼らの存在は、Mastodonやフェディバースに参加してみようと思わせる誘因になる。だが、それだけではない。影響力のある人たちが、自由/オープンソース・ソフトウェアや相互運用性といった概念をよく理解することにもつながるのだ。Mastodonやフェディバースに参加することで、これまでとは異なる、人を中心としたソーシャルウェブを作り出せること、そしてそれが既に存在していることを示すことができる。
政治家、ジャーナリストなど影響力のある人々がフェディバースを知り、利用することで、欧州市民のデータ保護、より強固なサイバーレジリエンス、欧州のデジタル主権といったEUの政治課題に、フェディバースが果たしうる役割を認識させることができるかもしれない。
EDRiとそのメンバーは、ビッグテックの中央集権型ソーシャルメディア広告プラットフォームに代わるより良いオルタナティブとして、フェディバース・ソーシャルメディアの開発・展開・普及を引き続き推進・支援していく。もちろん、立法においても分散型、フリー/オープンソース、コミュニティが運営するソフトウェアやサービスを考慮に入れ、不必要かつ不適切な法的リスクをもたらさないよう求める戦いも続けていく。
だが、我々の成功はあなたにかかっている。フェディバースを、人々が参加する活気あふれる場にし、包括的で万人に開かれたオンラインの公共の議論を育めるかにかかっているのだ。
Why everyone is on Mastodon? – European Digital Rights (EDRi)
Author: Jan Penfrat / EDRi (CC BY-SA 4.0)
Publication Date: December 14, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Battenhall