以下の文章は、電子フロンティア財団の「Dangerous “Kids Online Safety Act” Does Not Belong in Must-Pass Legislation」という記事を翻訳したものである。米国の子どもオンライン安全法案の概要については、こちらのPDFがよくまとまっていてわかりやすい。

Electronic Frontier Foundation

毎年、議会は膨大かつ複雑な仕事をこなさなければならない。翌年の政府歳出についての合意だ。そして今年、一部の上院議員は、批判の的になっている違憲法案「子どもオンライン安全法(KOSA:Kids Online Safety Act)を必須法案に組み込もうとしている。間違いを犯してはいけない。KOSAは単独でも十分悪質だが、KOSAを「オムニバス・パッケージ」に盛り込むのはあってはならないことだ。

廃案以外にない

法案のスポンサーは懸念を払拭するために土壇場で法案に修正を加えたが、この修正によっても法案の本質的な問題を解決するには至っていない。我々はKOSAがもたらす害悪について長らく主張してきたが、現行の法案でもそれは変わっていない。

端的に言うと、KOSAの主要な規定は、オンラインサービスが「未成年者であることをプラットフォームが知っている、または知るべきユーザの最善の利益のために」、列挙されたさまざまな害を防止・抑制する「合理的措置」を講じるよう義務づけるという曖昧なものである。これらの害には、自殺の促進や助長、摂食障害、 物質使用障害などの精神衛生障害、身体的暴力やオンラインいじめ、未成年者へのハラスメント、性的搾取や虐待などが含まれる。

こうしたコンテンツがインターネット上に存在し、有害な影響を及ぼす可能性があることは間違いない。だがこれまで述べてきたように、たとえば摂食障害を悪化させるコンテンツと、ユーザが必要とする摂食障害に関する情報やアドバイスを提供するコンテンツを、プラットフォームが個別具体的に判断できるはずがない。そうなれば、サービスは若者たちを過剰検閲せざるを得なくなるし、どのユーザが未成年者であるかわからない場合には、すべてのユーザがそのトピックに関するコンテンツにアクセスできないようにするしかない。

この明らかな欠陥は、KOSAの最新版テキストにも引き継がれている。したがって、我々はこの法案を可決しないよう引き続き議会に要求する。また上院議員は、最大の変更点である新たな「制限」セクションの追加によって、法案が抱える問題が解消したと考えるべきではない。新たな文言は以下の通りである。

サブセクション(a)のいかなる記述も、対象となるプラットフォームに対し、未成年者が意図的かつ独立してコンテンツを検索したり、具体的に要求することを防止または排除するよう要求すると解釈されてはならない。

新たな「制限」セクションは、オンラインサービスに逃げ道を与えることで、KOSAの本質的な問題点を払拭することを意図している。だが、それによって法的な罠が作り出されている。なぜなら、もしサービス側がユーザが未成年者であることを認識している場合、あるいは条文にあるように知っているべきである場合には、サービスはユーザの「最善の利益」に反するコンテンツを提示したことに責任を負わなければならないからだ。この新しい文言は、新たな疑問を投げかけている。サイト側が未成年者の検索・閲覧するであろう情報を事前に把握ことなどできないのに、未成年者が「意図的かつ独立して」検索・発見した一般的な情報をどうやって提供できるというのか? 端的に言えば、「できない」。この文言は、本質的な問題を覆い隠そうとするためのものでしかない。

新たな「制限」セクションは、コンテンツを求めるユーザではなく、求めていない未成年ユーザにコンテンツを配信した場合にのみプラットフォームに責任が生じると解釈できるのかもしれない。たとえばYouTubeがレコメンドする動画など、「アルゴリズムによって提示された」コンテンツを標的とした繊細な方法なのだ、と。だが、法案はそれを明示してはいない。ここでいう「独立して(independently)」が何を意味するのか。それは何のためで、誰のためなのか? 未成年者が検索エンジンを通じてサイトを発見した場合、あるいは対象となるプラットフォームが未成年者向けのURLリストを提供した場合、それは「独立した」検索なのだろうか? 検索はできるのだからコンテンツ検閲ではないという法案が、サービス側にコンテンツ提供を禁止するというのだから、矛盾を抱えた欠陥法案と言うより他ない。

法案は最新版になっても、FTCと(法執行機関を介して)各州の司法長官に、子どもたちがオンラインで閲覧するものを適切か不適切かを決定する権限を与えたままである。これが成立してしまえば、インターネットから活気が失われ、多様性が損ねられ、正確な情報が失われることになるだろう。

こうしたコンテンツの削除は、決して“起こりうる”問題ではない。現実に“起こっている”問題である。今この瞬間にも、医療機関のウェブサイトでは、政治的・法的圧力から、ジェンダーアファーマティブ医療に関する真実の情報が削除されている(12)。図書館ではLGBTQの書籍が撤去されている(123)。一部の州司法長官が、オンラインサービスやジェンダーアファーマティブ医療を求める子どもたちに敵意を剥き出しにしていることを考えれば、彼らに新たな権限を与えることが何をもたらすかは明らかだ。彼らが身体的暴力や精神障害を助長すると解釈したコンテンツをオンラインサービスに厳格に制限させ、その執行を連邦取引委員会や州司法長官に委ねることは、最も弱い人々に不当に影響を及ぼし、情報にアクセスする上で家族・社会・経済的なサポートを持たない子どもたちに害をもたらす。

修正第1条に関する懸念

憲法修正第1条は、「政府は、直接規制できない言論を間接的に規制することは許されない」ことを基本原則としている。議会は子どもが摂食障害に関する情報にアクセスすることを法的に禁止することはできないし、子どもへの可視性を制限する手段として、その言論をホストするサービスに責任を課すことはできない。修正案においても、KOSAは同法案が列挙する害(自殺、摂食障害など)として定義された適法なコンテンツをホストしたことに責任を負わせ、子どもがそうした情報にさらされるのを防止・抑止するために必要なあらゆる(基準が曖昧な)「合理的措置」を講じないサービスに、FTCと州司法長官による取り締まりを許可している。これは憲法違反だ。

KOSAは、若者がオンラインで真実かつ有用な情報を見つけられなくするだけでなく、全市民の情報を受け取る権利をも阻害する。多くのサービスは、利用者が子どもか成人かを把握してはいない。それゆえ、サービス側が未成年者だけを情報制限の対象にすることはできず、すべてのユーザのアクセスを制限せざるを得なくなる。

これは容易に解決できる問題ではない。とりわけソーシャルメディア以外のコンテンツ配信サービスでは、ユーザの年齢を把握してないことのほうが多い(Redditのようにユーザのプライバシーを尊重して登録時に年齢等の個人情報を求めないサービスも多い)。そうしたサービスまで(訳注:ユーザの年齢を)知っている、あるいは知るべきだと仮定することは、これらのサービスがどのように運営されているかを全く理解できていない。KOSAは、サービスがユーザの年齢を把握して、その知識を持って法廷で弁護できるようにするか、違反の可能性のあるコンテンツを削除するかのいずれかを要求する。繰り返しになるが、どのコンテンツが不適切な行動を助長し、どのコンテンツがそのような行動に悩む人々に必要な健康情報やアドバイスを提供するかについて、聡明で完全な決定を下すことを合理的に期待できるプラットフォームは存在しない。むしろ、ほとんどのプラットフォームは慎重な対応を取り、こうしたコンテンツを完全に削除してしまうだろう。

加えて、オンラインの匿名性とプライバシーの利点にも目を向けなければならない。とりわけ、マイノリティや社会的弱者、リプロダクティブ・ライツやLGBTQのトピックなど、センシティブな情報を調べようとするすべての人が匿名性とプライバシーを必要としている。特に若者は、ネットでの活動に匿名性を必要とする場合があり、KOSAの「保護者の監視」規定が問題となる理由の1つである。

もっと良い選択肢がある

最新のKOSA修正案は、議会にオムニバス歳出法案との抱き合せを許して良いものではない。ウェブブラウザ、電子メールアプリ、VPNソフトウェア、そしてRedditやFacebookのようなプラットフォームに膨大な真実のコンテンツを検閲させる法律を、十分な審議もなく通過必須の法案に含めるなど、あってはならないことだ。

年末までにオンラインで子どもたちを守るためになにかインパクトのあることをしたいという議会の意向は理解できるが、KOSAは間違った選択肢だ。議会は、オンラインサービスへの抜本的な制限を通過必須の歳出法案にねじ込むのではなく、時間をかけて、未成年者だけでなくすべての人のためのプライバシーセーフガードの策定に注力し、強力な執行手段を備えた厳格かつ包括的なプライバシー保護法を可決すべきである。

Dangerous “Kids Online Safety Act” Does Not Belong in Must-Pass Legislation | Electronic Frontier Foundation

Author: Jason Kelley and Aaron Mackey / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 15, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Victoria Calligo y Solivella / (CC BY-NC-SA 2.0)