以下の文章は、電子フロンティア財団「The French Detention: Why We’re Watching the Telegram Situation Closely」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

EFFは、Telegramのパヴェル・ドゥロフがフランス当局に刑事犯罪で起訴された事態を注視している。罪状のほとんどがTelegramの運営に関連するものとみられる。この事態は、Telegramを利用する9億5000万人のユーザのセキュリティ、プライバシー、表現の自由に深刻な脅威をもたらすおそれがある。

8月24日、フランス当局はドゥロフの自家用機がフランスに着陸した際に彼を拘束した。フランス検察によると、この拘束は7月に開始された「匿名の人物」に対する捜査の一環だという。捜査内容には、Telegramを通じて行われたとされる犯罪への共犯、法執行機関からの通信傍受要請への非協力、さらにフランスの暗号技術輸入規制違反などが含まれている。8月28日、ドゥロフはこれらの罪状に加え、Telegramとは無関係の罪でも起訴された。その後、定期的な出頭とフランス国外への出国禁止を条件に保釈された。

Telegramに関連する罪状の詳細はほとんど明らかになっていない。そのため、この捜査がTelegramや他のオンラインサービスのプライバシー、セキュリティ、表現の自由にどれほどの脅威となりうるのかを現時点で判断するのは難しい。しかし、この一件が甚大な影響を及ぼしかねないことに鑑み、EFFは引き続き注視していくつもりだ。

Telegramに関連する罪状は、主に以下の3つにカテゴリが考えられる。

  • 1つ目は「権限を有する当局からの要請に基づき、法的に認められた傍受の実施と運用に必要な情報や文書の提供を拒否した」ことに基づく罪状である。フランス当局がTelegramに、プラットフォーム上の通信傍受への協力を求めたことを示唆している。
  • 2つ目の罪状群は、Telegram上またはTelegramを通じて何らかの形で行われた犯罪への「共犯」に関するものである。具体的には、「児童ポルノ的性質を持つ未成年者の画像の組織的配布、薬物取引、組織的詐欺、および犯罪または違法行為の共謀」、そして「組織的な犯罪または違法行為の資金洗浄」が含まれる。
  • 3つ目の罪状群は、暗号システムをフランスに輸入する者に求められる申告をTelegramが怠ったことに関するものである。

これらの罪状はすべて、「通信の提供拒否」に起因している可能性がある。つまり、Telegramがフランス当局の「法的に認められた傍受」への協力を拒否したため、ドゥロフが犯罪者の共犯者とみなされたのかもしれない。暗号化に関する申告義務違反も、おそらく「法的に認められた傍受」が暗号化されていたことに関連しているのだろう。フランス当局は長年、Telegramが暗号化に関する必要な申告を行っていないことを把握していたはずだが、これまで起訴には至っていなかった。

通信傍受の協力要請を拒否した場合、米国を含む多くの国で同様に起訴されるおそれがある。EFFはこうした要請やそれに関連する箝口令の妥当性に繰り返し異議を唱えてきた。また、サービス提供者に対しては、裁判所で争い、あらゆる上訴の手段を尽くすよう促してきた。ただし、裁判所が最終的に要請を有効と判断した場合は、それに従わざるを得ない。中国やサウジアラビアのように、司法制度が適切に機能していない国や、適正手続きが欠如している国では、さらに複雑な問題となる。

共犯の罪状については、違法な投稿の削除要請を無視したことや、そうした投稿の存在を認識しながら放置したことに関連している可能性もある。特に、「違法取引を容易にするオンラインプラットフォームの管理」や「児童ポルノ、薬物取引、組織的詐欺の助長」といった罪状は、問題のある投稿を削除しなかったことが原因と考えられる。実際、オンライン上の児童の安全を脅かす行為を調査するフランスの機関Ofminは、当初の声明で「モデレーションの不足」が捜査の焦点だと言及している。フランス法第323-3-2条によると、違法コンテンツの配布や違法サービスの提供を故意に許可すること、またはそれらの支払いを容易にすることは犯罪とされている。

この事態がTelegramユーザや類似サービスの提供者にどのような影響を及ぼすかは、まだ不透明だ。

特に注目すべきは、「モデレーションの不足」に関する責任の問題だ。もしドゥロフが単にサイト上の問題コンテンツを十分に削除しなかっただけで起訴されたのであれば、他のほとんどすべてのオンラインプラットフォームも同様のリスクにさらされることになる。特定の投稿やアカウントへの対処を明確に拒否したことが原因だとすれば、既存の法律の範囲内ではあるものの、依然として懸念がされるところである。ただし、これに関しては、ドゥロフ自身がTelegramを犯罪目的で使用する者と直接的に関与していたという証拠がある場合に限られる。フランス当局はドゥロフ個人がこれらの犯罪を犯したことを証明する必要があり、Telegram社や他の従業員の行為ではないことを示さなければならない。

EFFは以前から、ソーシャルメディアプラットフォームとしても、メッセージングアプリとしても、Telegramの行動に深い懸念を表明してきた。「安全なメッセンジャー」という評判とは裏腹に、Telegram上のメッセージのごく一部しか同社が内容を読めない仕組み(エンドツーエンド暗号化)になっていない。実際、エンドツーエンド暗号化が適用されるのは、「シークレットチャット」機能を使った1対1のメッセージのみだ。さらに、暗号技術の専門家たちはTelegramが独自に開発した暗号化技術の有効性に疑問を呈している

フランス政府の罪状が、これらのメッセージのモデレーションや傍受の拒否に関するものであるのなら、これまで世界中さまざまな国でエンドツーエンド暗号化への政府の干渉に反対してきたのと同様に、EFFはこの事件に対して最も強い言葉で反対する。

この事態がTelegramユーザや類似サービスの提供者に及ぼす影響は、現時点では不明確だ。フランス当局が、ユーザのセキュリティとプライバシーを脅かすような技術的措置を要求している可能性もある。ドゥロフとTelegramがそれに応じるかどうかも未知数だ。同様のサービスを運営している企業に直接的な影響はないかもしれないが、一方で、これらの罪状が、フランス当局によるメッセージングやソーシャルメディアプラットフォームへの監視強化の前触れである可能性も否定できない。現時点では情報が限られており、確実なことは言い難い状況だ。

Telegramのコンテンツモデレーションに対する消極的な姿勢が政府の制裁を招いたのは、今回が初めてではない。2022年には、違法コンテンツの報告システムを確立せず、公式連絡窓口となるドイツ国内の事業体を指定しなかったとして、ドイツで罰金を科された。2023年にはブラジルで、前大統領ジャイール・ボルソナロの支持者のアカウントを停止しなかったとして罰金を命じられている

しかし、今回のCEO逮捕は、これまでの制裁とは次元の異なる、国家当局による重大な圧力だと言える。EFFは引き続き、この状況を注意深く監視していくつもりだ。

The French Detention: Why We’re Watching the Telegram Situation Closely | Electronic Frontier Foundation

Author: David Greene and Eva Galperin / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: August 30, 2024
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Nikolett Emmert