以下の文章は、電子フロンティア財団の「Unveiling Venezuela’s Repression: Surveillance and Censorship Following July’s Presidential Election | Electronic Frontier Foundation」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

本稿は学習とデジタルライツの独立研究者、ラウラ・ビダル(博士)による寄稿である。

本稿はシリーズの第1部である。ベネズエラにおける国家監視の歴史を扱った第2部はこちら

数千人のベネズエラ国民が、7月の大統領選挙結果の透明性を求め、全国各地でデモを行った。これに対し、政府はかつてないほどに厳しい弾圧で応じた。特筆すべきは、この弾圧においてテクノロジーが重要な役割を果たしたことだ。

ベネズエラの大統領選挙は、同国の長引く政治危機に新たな一章を加えることとなった。7月28日以降、治安部隊がデモ参加者を徹底的に取り締まり20人の命が奪われた。政府発表ではニコラス・マドゥロ大統領の再選が決まったとされているが、この結果に対しては国内の野党勢力だけでなく、米州機構(OAS)近隣諸国の政府からも強い異議が唱えられている。

選挙直後、エドムンド・ゴンサレス・ウルティアとマリア・コリナ・マチャドを中心とする野党勢力は、全国選挙評議会(CNE)によるマドゥロ大統領の当選宣言に異議を申し立てた。彼らは選挙プロセスの透明性向上を訴え、特に選挙結果の検証に不可欠な元の集計用紙の公開を強く求めた。しかし、これらの集計用紙は今もなお公開されていない。

公式データが示されない中、「コマンド・コン・ベネズエラ」と呼ばれる野党連合が7月29日夜、野党の立会人が入手した集計用紙を公開した。これらの情報は「大統領選挙結果2024」という独立ポータルサイトで公開され、ベネズエラの身分証明書を持つ者なら誰でもアクセスできるようになっている。

これに対する政府の対応は容赦ないものだった。テクノロジーを駆使した抑圧と暴力で応じ、監視と統制のシステムはこれまで以上に強化された。その1つが、VenAppという監視アプリの大規模な展開だ。このアプリは元々2022年12月に公共サービスの不具合を報告するために作られたものだが、マドゥロ大統領は市民に対し、アプリを通じて隣人の「怪しい」行動を通報するよう呼びかけた。VenAppは国家の統制システムの一部となり、市民同士の相互監視文化はさらに強まることとなった。

さらに、ドローンの使用が国内各地で確認されている。空港での拘束や捜索も増加しており、特に人権活動家やジャーナリスト、その他の弱者層が標的となっている。これに加え、パスポートの無効化などの脅迫も行われ、多くの人々が身動きが取れず、声を上げることすら恐れる状況に追い込まれている。

こうした一連の戦術により、目立たないようにすることが最も安全だという空気が広がっている。多くのNGOがソーシャルメディア上でのメンバーの露出を控えるようになり、個人もインタビューを拒否するようになっている。人権侵害の報告を匿名で行うケースも増え、ジャーナリストの中にはAIで生成したアバターを使用する者も現れている。ソーシャルメディアのプロフィールを非公開にしたり、顔写真を別のものに変更したりする人も増えている。また、報復を恐れ、国内の状況を海外のネットワーク経由で出す動きも広がっている。

目立つ行動は往々にして不当な逮捕につながる。治安部隊は逮捕者を戦利品のように見せしめにし、ソーシャルメディアの投稿や密告を根拠にその行動を正当化している。これらの戦術が市民への脅迫を意図していることは明白で、多くの人々が沈黙させられている。デジタル空間での弾圧に加え、野党支持者の家に印をつけるといった現実世界での嫌がらせも行われ、社会を取り巻く恐怖がいっそう色濃くなっている。

だが、こうしたデジタル弾圧は決して突然始まったものではない。今回の一連の出来事は、ベネズエラ国民を統制し、監視し、孤立させるための長年の取り組みの集大成と言える。この戦略は国内で生み出された手法と他国の権威主義体制の手法の双方を取り入れたものだ。

しかし、ベネズエラの市民社会は抵抗を続けている。8月には、EFFを含む150以上の組織と個人が、ベネズエラにおけるテクノロジーを利用した政治的暴力を非難する公開書簡に署名した。ベネズエラにおける監視の歴史と市民社会の抵抗については、このシリーズの第2部で詳しく解説する。こちらからご覧いただきたい。

Unveiling Venezuela’s Repression: Surveillance and Censorship Following July’s Presidential Election | Electronic Frontier Foundation

Author: Laura Vidal and Jillian C. York / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: September 16, 2024
Translation: heatwave_p2p