以下の文章は、電子フロンティア財団の「Unveiling Venezuela’s Repression: A Legacy of State Surveillance and Control」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

本稿は学習とデジタルライツの独立研究者、ラウラ・ビダル(博士)による寄稿である。

本稿はシリーズの第2部である。7月の大統領選挙をめぐる監視と統制に関する第1部はこちら

この10年間、ベネズエラ政府は監視と抑圧の体制を着々と構築してきた。その実態は国内の市民社会やデジタルライツ擁護者たちによって度々告発されている。この抑圧体制は、情報アクセスの制限、検閲、ジャーナリストへのハラスメント、そしてメディアの閉鎖を基盤としている。加えて、監視技術を組織的に用いた複雑な統制網も張り巡らされている。

治安部隊は市民監視のためのデジタルツールへの依存を強めている。路上で人々を止めて携帯電話の中身をチェックすることが日常茶飯事となっており、反政府的な内容が見つかれば即座に拘束される。2016年に導入された国家デジタルIDシステム「Carnet de la Patria」と「Sistema Patria」も、国民を縛る鎖として機能している。このIDシステムは社会福祉プログラムと連動しており、基本的なサービスへのアクセスを与党への忠誠と引き換えにするという、まさに国民を人質に取った手法だ。

先の選挙期間に際し、ベネズエラにおける検閲とインターネットフィルタリングはいっそう強化された。政府はメディア、人権団体、さらにはVPNへのアクセスまでをも遮断し、重要な情報へのアクセスを徹底的に制限した。X(旧Twitter)やWhatsAppといったSNSプラットフォームも標的にされ規制の網がかけられようとしている。政府は、これらのプラットフォームが「ファシスト的クーデター」を企てる野党勢力を支援し、「内戦」を煽り「憎悪」を拡散しているとと非難している。

こうしたプラットフォームの遮断は表現の自由を奪うだけでなく、ベネズエラ国民を、世界から、そして約900万人にも上るディアスポラ(国外離散)コミュニティから孤立させる役割も果たしている。反体制的な意見を「サイバーファシズム」や「テロリズム」と呼ぶ政府の言説は、これらの抑圧的な措置を正当化するナラティブの一部であり、検閲の脅威を常に国民に突きつけることで、さらなる反対意見の封じ込めを図っている。

懸念されるのは、路上での抗議活動が制御不能になった場合、政府がSNSや通信プラットフォームの完全遮断にまでエスカレートすることだ。これは、政権が権力維持のためにどこまでも手段を選ばない姿勢を如実に示している。

恐怖もまた、政府の統制を強化する強力な武器となっている。オンラインでライブ配信される大量逮捕や、拘束者を晒し者にするといった行為は、国民を萎縮させ、社会の結束を破壊する効果がある。経済的圧力と広範な監視が相まって、不信と孤立が助長されていることで、ベネズエラ国民が情報を共有し、団結するためのコミュニケーション/信頼のネットワークが崩壊してしまった。

この戦略は、反対勢力を抑圧するだけでなく、市民が情報を共有し、抗議行動を組織するための結びつきそのものの破壊を目的としている。デジタル抑圧の全容が見えにくいことも相まって、人々の間に恐怖が広がり、自己検閲と孤立が深まっている。こうした状況下では、人権擁護や政府の権威主義的な慣行に対する国際的な支援を得ることがますます困難になっている。

市民社会の抵抗

こうした抑圧的な環境にもかかわらず、ベネズエラの市民社会は粘り強く抵抗を続けている。Noticias Sin FiltroEl Bus TVといった取り組みは、検閲を巧みにかわし、市民に情報を届け続ける創意工夫の賜物だ。これらの活動は、デジタルセキュリティに関する啓発キャンペーンや、AIを駆使した信頼できる情報の拡散などの取り組みと相まって、権威主義に屈しないベネズエラ国民の強靭さを示している。しかし、彼らが直面する課題は依然として山積みだ。

米州人権委員会(IACHR)とその表現の自由特別報告者(SRFOE)は、ベネズエラで横行する制度的暴力を国家テロリズムとして厳しく非難している。この危機の全容を理解するには、この抑圧が単なる散発的な行為ではなく、15年以上にわたって緻密に構築されてきた総合的かつ組織的な取り組みであることを認識する必要がある。それは、必要最低限のサービスしか提供しないインフラ、独立メディアの遮断、徹底した監視、恐怖政治、孤立化、そして市民の自由を奪う法制化など、様々な要素が絡み合って成り立っている。非政府組織の活動を厳しく制限する法律が最近可決されたことで、ベネズエラの市民社会はかつてない危機に直面している。

この抑圧が広範な人権侵害と同時に進行していることを考えると、政府の次の一手がさらに厳しい弾圧になる可能性は十分に考えられる。政府のプロパガンダ活動はベネズエラ国内にとどまらず海外の批判的な声まで封じ込めようとし、同国を国際社会から孤立させようとしている。

ベネズエラの現状は深刻だ。テクノロジーを悪用した政治的暴力は、人権と民主主義の根幹を揺るがす重大な脅威となっている。政府による締め付けが一層強まる中、国際社会はこうした人権侵害に対して声を上げ、デジタルライツと自由を守る取り組みを支援する必要がある。ベネズエラの事例は一国の問題にとどまらず、デジタル時代における無制限の国家権力がもたらす危険性を如実に示すグローバルな問題だ。

しかし、この事例は同時に、世界が学ぶべき貴重な教訓も提供している。デジタル権威主義の危険性や、政府間で抑圧的な戦略が連鎖的に強化されていく過程を浮き彫りにしているからだ。一方で、幾多の困難に直面しながらも、粘り強く組織化された市民社会の重要性や、国内外の活動家ネットワークの力強さも明らかにしている。

これらの集合的な取り組みは、抑圧に抵抗し、知識を共有し、国境を越えた連帯を築く可能性を示している。ベネズエラから学んだ教訓を、デジタル時代における人権保護と、権威主義的慣行の拡散に対抗するための世界的な戦略の礎としなければならない。

ベネズエラのデジタル・人権擁護者グループが、ベネズエラにおけるテクノロジーを悪用した政治的暴力の終結を求める公開書簡を発表した。この書簡はAccess Nowのサイトで公開され、現在も署名を受け付けている。

Unveiling Venezuela’s Repression: A Legacy of State Surveillance and Control | Electronic Frontier Foundation

Author: Laura Vidal and Jillian C. York / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: September 18, 2024
Translation: heatwave_p2p