以下の文章は、電子フロンティア財団の「The U.S. Supreme Court Continues its Foray into Free Speech and Tech: 2024 Year in Review」という記事を翻訳したものである。
昨年の記事でも触れたように、米国最高裁判所は近年、インターネット上の表現の自由をめぐる問題に異例の関心を寄せている。
昨年末に持ち越されていた3つの争点に関する5つの事案がすべて今年決着を迎え、インターネットユーザとオンラインプラットフォームそれぞれに、修正第1条に基づく指針が示された。これらの判例から導き出される重要な示唆についても解説を行っている。
また、テキサス州の年齢確認法に対する違憲判断を求める新たな事案において、最高裁判所に法廷助言書を提出した。
政府当局者によるソーシャルメディアページ上のコメント検閲
事案: O’Connor-Ratcliff v. GarnierおよびLindke v. Freed ――判決済み
最高裁判所は、政府当局者が意見の相違を理由にソーシャルメディア上で個人をブロックしたりコメントを削除したりすることの是非を問う2つの事案について判断を下した。これらの事案における核心的な問題は、政府当局者のソーシャルメディアページが私的な性質を持つため修正第1条の制限を受けないのか、それとも政府の目的で使用されているため見解に基づく差別の禁止などの制限を受けるのかを判断する基準をどのように設定するかという点にあった。
最高裁判所は、政府当局者のソーシャルメディア上の発言が修正第1条にいう「国家行為」に該当するかを判断するため、2つの事実要件からなる基準を示した。その基準とは、1)当該当局者が政府を代表して発言する「実際の権限を有していた」こと、2)当該当局者がソーシャルメディア上で発言した際に、その権限を行使する意図があったことである。すでに指摘したように、この判断は我々が法廷助言書で求めた水準には及ばないものの、コメントを削除されたりブロックされたりした個人が、政府当局者に対して表現の自由の権利を主張する際の道筋を示すものとなっている。
最高裁判所の判決を受けて、Lindke事案は第6巡回区控訴裁判所に差し戻されることとなった。我々は新しい基準の適用について控訴裁判所に指針を示すため、法廷助言書を提出した。その後、裁判所は意見を示し、最高裁判所が示した新しい国家行為基準に照らして原告が追加の事実関係を展開できるよう、事案を地方裁判所に差し戻した。また第6巡回区は、第1の要件に関して重要な判断を示し、「国家を代表して発言する実際の権限の付与は、その手段としてソーシャルメディアに言及する必要はない」と述べた。これは我々が法廷助言書で主張した点でもある。
プラットフォームに特定の発言の掲載を強制する州法の是非
事案: NetChoice v. PaxtonおよびMoody v. NetChoice ――判決済み
最高裁判所は、ソーシャルメディアサイトがユーザの投稿に対して通常の編集方針を適用できない場合を州が定めることができるとするフロリダ州とテキサス州の法律について、修正第1条違反の有無を審理した。両法律の無効を求める法廷助言書で主張したように、プラットフォームのコンテンツモデレーションへの政府の介入を排除することは、長期的にはインターネットユーザの利益につながる。なぜなら、プラットフォームが自身の公開するユーザ生成コンテンツをキュレーションする修正第1条の権利を持つことで、多様な視点や関心、信念に応える独自のフォーラムを築くことが可能になるからである。
表現の自由の勝利といえる判決において、最高裁判所は、ソーシャルメディアプラットフォームには、ユーザ向けに選択・推奨する第三者の発言をキュレーションする修正第1条の権利があると判示し、このプロセスに対する政府の介入余地は極めて限定的であるとした。ただし、裁判所は両法律の無効化を即座に判断せず――各法律の特定の機能への適用に限らず、法律全体を無効とできるかどうかの判断を下級裁判所に委ねた。また裁判所は、編集プロセスを直接の対象としない競争法などについては、同様の厳格な修正第1条の基準は適用されないことを明確にした。これはEFFが一貫して主張してきた立場である。
ソーシャルメディアのコンテンツモデレーションにおける政府の強制
事案: Murthy v. Missouri ――判決済み
最高裁判所は、ソーシャルメディアプラットフォームのポリシー執行における政府の関与がどこまで許容されるのかという問題に取り組んだ。修正第1条は、政府が発行者に対して他者の発言の検閲を直接的・間接的に強制すること(一般に「ジョーボーニング(jawboning)」と呼ばれる)を禁止している。しかしこれまで、ユーザの投稿に関する政府とソーシャルメディアサイトとのやり取りについて、この原則がどのように適用されるかは明らかにされてこなかった。法廷助言書において我々は、プラットフォームのポリシー執行判断における政府の関与について、その許容性を判断する明確な基準を設けるよう裁判所に求めた。
しかし残念なことに、最高裁判所は目前の重要な修正第1条の問題――すなわち、ソーシャルメディアプラットフォームとの政府のコミュニケーションにおいて、許容されるものと許容されないものをどのように区別するのか――について判断を避けた。代わりに、原告のいずれも、政府が過去に、あるいは将来、ソーシャルメディアプラットフォームに対して原告の特定の投稿の削除や表示抑制、非表示を強制したことを示す十分な事実を提示できていないとして、「当事者適格」を理由に事案を却下した。この判断は強制を主張する訴訟の勝訴がいかに困難であるかを改めて浮き彫りにする結果となった。
ただし、政府による許容される説得と許容されない強制との境界線について、ソーシャルメディアの文脈を離れた別のジョーボーニング事案で、最高裁判所は重要な判断を示している。NRA v. Vulloでは、全米ライフル協会(NRA)が、保険業界を監督するニューヨーク州の機関から、NRAへの補償提供を続ければ法執行措置を取ると保険会社が脅されたと主張した。最高裁判所はこの事案で、「政府の不利益な行為を示唆することで原告の発言を抑制しようとする脅威として合理的に解釈できる行為が、文脈上もっともらしく主張されているか」という問題について、多くの下級裁判所が採用してきた4つの判断要素を支持した。その要素とは、1)語句の選択とトーン、2)規制権限の存在(つまり、政府の発言者が実際に脅威を実行できる立場にあるか)、3)発言が脅威として受け止められたか、4)発言が不利益な結果に言及しているか、である。
3つの重要な示唆
ソーシャルメディアのブロックに関するO’Connor-RatcliffeとLindkeの事案は、ユーザとしての政府の側面に焦点を当てた。一方、コンテンツモデレーションに関するNetChoiceの事案は、規制者としての政府の役割を問い、Murthyの事案は、規制者とユーザという二つの顔を持つ政府の立場を検討した。
これら3組の事案(合計5つの事案)から、3つの重要な示唆が導き出される。
第1に、インターネットユーザは投稿やコメントを通じてソーシャルメディア上で発言する修正第1条の権利を有しており、この権利は政府の介入によって侵害され得るが、プラットフォーム自身の判断では侵害されない。
第2に、最高裁判所は、ソーシャルメディアプラットフォームが独自のコミュニティスタンダードや編集ポリシーに基づいて、ユーザの目にする投稿の取捨選択や表示方法、投稿の拡散や抑制を日常的に行っていることを認めた。これは、コンテンツモデレーションを受動的で無関心なものとする従来の見方からの大きな前進である。
第3に、これらの事案は、伝統的な修正第1条のルールがソーシャルメディアにも適用されることを確認した。つまり、政府がソーシャルメディアページのコメント欄を管理する場合、公園や公共講堂、市議会といった物理的な公共空間と同様、そこで発言を望む者に対して修正第1条に基づく義務を負う。また、編集ポリシーに従ってユーザの発言をキュレーションするオンラインプラットフォームは、美術館、書店、新聞スタンド、パレード主催者、社説編集者など、他者の発言を選択することで自己表現を行う主体と同じ修正第1条の権利を持つ。
政府による年齢確認の義務化――オンライン表現の自由への新たな課題
事案: Free Speech Coalition v. Paxton ――係争中
デジタル時代における表現の自由とプライバシーの均衡を問う重要な一歩として、我々は法廷助言書を提出し、2023年に可決されたテキサス州のHB 1181法の違憲判断を最高裁判所に求めた。この法律は、「未成年者に有害な性的コンテンツ」が3分の1以上を占めるとテキサス州が判断したウェブサイトに対し、すべての訪問者から年齢を確認する個人情報の収集を義務づけている。一見、未成年者保護という正当な目的に見えるこの規制は、しかし、成人の合法的な表現活動に対する重大な制約となるおそれがある。
我々の分析によれば、この法律が抱える問題は多岐にわたる。まず、この規制は性的コンテンツに限定されず、該当するウェブサイト全体へのアクセスに際して個人情報の提出を求める。これは、インターネット上での匿名性という基本的な権利を大きく損なうものである。
さらに深刻なのは、この法律がウェブサイトに対して個人情報の保持を実質的に強制する点である。レジでIDをちらりと見せる程度の確認とは異なり、オンライン上での個人情報の保管は、データ漏洩やプライバシー侵害、なりすましなど、現代のデジタル社会特有のリスクを伴う。
また、「年齢推定」のような新技術の導入は、一見するとソリューションに思えるかもしれないが、それ自体が新たなプライバシーの懸念を引き起こす。しかも、こうした技術がHB 1181の厳格な要件を満たせるかどうかも疑問である。
この事案における最高裁判所の判断は、インターネット上で保護された表現に安全かつ匿名でアクセスするという、デジタル時代の基本的権利の行方を左右することになるだろう。それは単に性的表現の規制という個別の問題を超えて、オンライン空間における表現の自由とプライバシーの本質的な関係を問い直す契機となるかもしれない。
本稿は、我々EFFの「Year in Review」シリーズの一部である。2024年のデジタルライツをめぐる戦いに関する他の記事はこちら。
The U.S. Supreme Court Continues its Foray into Free Speech and Tech: 2024 Year in Review | Electronic Frontier Foundation
Author: Sophia Cope, Aaron Mackey, and David Greene / EFF (CC BY 3.0 US)
Publication Date: December 24, 2024
Translation: heatwave_p2p