以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Cindy Cohn’s “Privacy’s Defender”」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

EFFのエグゼクティブ・ディレクター、シンディ・コーンとは27年来の付き合いだ。最初に出会ったのは、私が共同創業したスタートアップでサイバー法の助言が必要になったときのこと。意気投合した結果、私はそのスタートアップを辞めてEFFで働くことになった。そのコーンの回顧録『Privacy’s Defender』がいま書店に並んでいる。

https://mitpress.mit.edu/9780262051248/privacys-defender

言うまでもなく、私は中立的な立場にはない。コーンの結婚式にも出席したし、バーニングマンで一緒に踊ったこともあるし、成人してからの人生の大半を共に働いてきた。しかも、本書で語られる数々の重要な場面に私自身も居合わせている。それでもなお言わせてほしい――これは素晴らしい本で、完全に引き込まれた。

コーンがEFFに関わるようになったのはごく初期のことで、コンピューティング史上最も重要な訴訟の1つであるバーンスタイン事件を担当した。この裁判によって民間人が暗号技術を利用する道が開かれ、世界は一変した。

https://www.eff.org/deeplinks/2015/04/remembering-case-established-code-speech

コーンが参戦する以前から、暗号研究者たちは実用的な暗号技術の禁止をめぐって米国政府と何年も争っていた。技術的な論拠、政治的な論拠、経済的な論拠――あらゆる角度から禁止令の撤回を試みたが、いずれも失敗に終わり、びくともしなかった。

コーンの天才的なところは、暗号規制を表現の自由の問題として再構成した点にある。コンピュータのコードは表現としての言論であり、合衆国憲法修正第1条の保護を受けるべきだ、と主張したのだ。この発想自体は彼女のオリジナルではないが、ナラティブを紡ぎ上げ、反論の余地のない専門家を結集させる彼女の才覚が勝利をもたらした。

「表現の自由」や「キャンセルカルチャー」をめぐる不埒な右派のトロール行為が横行するいまの時代にあっては、人権と社会の発展にとって表現の自由に関する裁判や運動がどれほど重要な役割を果たしてきたか、忘れてしまいそうになる。表現の自由をめぐる訴訟は、この国に初めてのプライバシー保護をもたらし、労働組合を守り、公民権運動のオーガナイザーたちを守ってきた。

コーンはこのことを決して忘れない。EFFでの数十年にわたる活動は、インターネット上の言論の自由(つまりプライバシーの権利)をめぐる闘争の歴史そのものだった。米国政府が9.11テロを口実にプライバシーを解体し、インターネットを遍在的監視システムへと変貌させようとしたとき、デジタルライツのための闘いの中心にいたのがコーン(そしてもちろんEFF)だった。バーンスタイン事件を引き受けて勝利に導いた先見性と戦略的な卓越さは、あのミレニアム期にも健在で、当時の訴訟やキャンペーン、闘いの記述は、我々がいま置かれている状況を鮮やかに予見している。

「三文字機関[three letter agency]」の章も同様だ。内部告発者マーク・クラインとエドワード・スノーデンの暴露を受けて、NSAをはじめとする米国の情報機関と繰り広げた闘いが綴られる。これらの記述は、法廷戦術の実践的な講義であると同時に、インターネットを完璧な監視・コントロールの装置へと変容させる動きに対する世界的な反撃のときの声でもあり、さらには一人の戦略家の個人的な回想録でもある――正義の大義をてこにして、専門家、共同弁護人、法廷助言者、そして我々のメッセージを世界に届ける同志たちによるゲリラ軍を組織していく姿が描かれる。

そのすべてが、彼女のもう1つの法律家としてのキャリアと結びついている。ナイジェリアでシェブロンが雇った暗殺部隊による虐殺のサバイバーを代理し、人権擁護の弁護を行ったキャリアだ。コーンは、こうした極めて具体的で目に見える人権闘争と、目には見えないが同じく重要なEFFでの人権活動とを巧みにつなげてみせる。

私はこの出来事の多くを最前列どころか舞台裏から見てきた(もっとも、機密性の極めて高い国家安全保障関連の案件は別だ。EFFの弁護士たちは同僚にも配偶者にも、理事会にさえも一切口外を許されず、機密情報を漏洩すれば長期の禁固刑が待っていた)。それでも、コーンのテンポよく鋭い語り直しは、それらの出来事に新たな命を吹き込んでくれた。そしてもちろん、渦中にいるときには見えなかった一貫性が、事後に振り返ることで浮かび上がっていく。

だが、この愉しい本をいっそう生き生きとさせているのは、コーンが物語のなかに織り込む個人的なディテールだ。彼女が養子であることは以前から知っていたが(彼女の生みの家族とは、小さいが不思議な偶然のつながりもある)、初期の家庭生活や、生みの家族との切なくも温かい交流をめぐるコーンの親密で率直な回想は、長年の親友をもう一度新たに知るような思いにさせてくれた。

コーンはあと数カ月でEFFを退任する(法律の世界からは退かない)。本書は、サイバーライツをめぐる闘いを定義づけた輝かしいキャリアの見事な集大成であり、今世紀のテックと人権をめぐる決定的な闘いを深く、そして分かりやすく描いた一冊である。

Pluralistic: Cindy Cohn’s “Privacy’s Defender” (09 Apr 2026) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: April 9, 2026
Translation: heatwave_p2p