以下の文章は、電子フロンティア財団の「Adversarial Interoperability: Reviving an Elegant Weapon From a More Civilized Age to Slay Today’s Monopolies」という記事を翻訳したものである。

Electronic Frontier Foundation

現在、Appleは地球上で最も利益を上げている企業の1つである。だが、同社は2000年代初頭、命がけで戦っていた。当時、市場シェアを支配していたのはMicrosoftのWindowsオペレーションシステムだった。Microsoftはその優位性を利用し、すべてのWindowsユーザが確実にMicrosoft Officeスイート(Word、Excel、Powerpointなど)に依存するよう仕向けた。マイノリティたるAppleユーザが、大多数を占めるWindowsユーザと文書をやり取りするためは、MicrosoftのMacintoshオペレーションシステム向けOfficeに頼らざるを得なかった(しかも、Windows Office文書との整合性に問題があり、文書が破損して読み取れなくなったり、やり取りする文書が部分的に/不適切に表示されるなど、予期せぬ動作が度々発生していた)。AppleユーザはWindowsユーザに、Office文書を(テキストの場合には)リッチテキスト形式、(スプレッドシートの場合には)コンマ区切り(CSV)などの「互換性のある」ファイル形式でエクスポートするよう依頼することもできたが、これも整合性を書いているためにエラーが生じやすく、MacとWindowsのシステム上では、異なるプログラムで異なる解釈がなされていた。

AppleはMicrosoftにMacintosh向けのOfficeを改良するよう懇願することもできたし、MicrosoftはOASISやISOのように、自社のフラッグシップ製品を標準化団体を通じて標準化することもできた。しかし、Microsoftはそうするだけの動機をほとんど持ち合わせていなかった。同社のOffice製品は強力な競争優位性を有し、競合と呼ぶにはAppleはあまりにもちっぽけな存在であったにもかかわらず、MicrosoftはMacintoshやGNU/Linuxオペレーションシステムという潜在的な競合を徹底的に潰そうとしているという不名誉な評判さえ甘受した。

Appleが頼ったのは、Microsoftの善意や寛容さではなく、リバースエンジニアリングだった。Appleは2002年に、MacはWindowsのワークフローには組み込めないという「神話」からの脱却を狙った「スイッチ」広告キャンペーンを展開し、2005年には、独自のワードプロセッサ(Pages)、スプレッドシート(Numbers)、プレゼンテーションプログラム(Keynote)を統合したiWorkスイートをローンチした。いずれも機能豊富なアプリケーションであり、既存のMicrosoftユールを凌ぐ革新性を備えていたものの、その優位性はiWorkの導入を保証するほどではなかった。どれほど素晴らしいスプレッドシートであっても、その作業に関わるすべての人が開けなければ何の役にも立たない。

iWorkの成功――さらにはAppleの復活――に貢献したのは、PagesがほとんどのWordファイルを、NumbersがほとんどのExcelファイルを、KeynoteがほとんどのPowerpointプレゼンテーションを、開き保存できるようになったためだ。AppleはMicrosoftの協力によって互換性を獲得したのではなく、Microsoftが非協力的であったにもかかわらず互換性を獲得したのである。Appleは単に既存製品と連携する「互換」製品を作ったのではない。熱心なリバースエンジニアリングと再実装によって既存製品から互換性を奪い取り、敵対的相互運用プロダクトを作り出したのだ。

Pagesのローンチ以来、文書の相互運用環境は安定し、GoogleのクラウドベースのDocsや、自由かつオープンな代替サービスLibreOfficeなど、複数の企業に市場参入の扉を開いた。このスタンダードへの収斂は、支配的プレイヤーの歓迎を受けて実現したのではなく、むしろMicrosoftの抵抗にもかかわらず実現したのである。Docsは相互運用性を備えているのみならず、敵対的相互運用性を備えているのである。各製品はそれぞれの独自のファイル形式を有すると同時に、Microsoftのファイル形式も読み取ることができるのである。

このドキュメント戦争は、敵対的相互運用性が支配的プレイヤーを打倒した1例に過ぎない。他にも数多くの重要な転換点があった。

ほとんどの大手テクノロジー企業の背景は、こうした相互運用性のストーリーがある。Facebookの成長は、ユーザがMySpaceユーザと連絡を取り合えるツールを作ったことだった。Googleの製品は、検索からDocsに至るまで、競合する相互運用性レイヤーに依存している。Amazonクラウドには、CPUを分散化した仮想マシンが多数存在し、実際のコンピュータによく似ているため、その中で実行されているプログラムはMatrixに閉じ込められていることを認識できない。

敵対的相互運用性によって、市場支配力は崩すことのできない財産から負債へと変わっていく。Facebookの新たなユーザがMySpaceの友人と連絡を取り合えるようになると、Facebookユーザが返信するすべてのメッセージのフッターにはFacebookの謳い文句が掲載され、Facebookに勧誘するためのツールとなった。Facebookにとって、MySpaceは潜在的なユーザの宝庫として機能し、MySpaecユーザにFacebookに乗り換えるべき理由を説得力を持って容易に売り込むことを可能にした。

現在、Facebookは収益は前年比30〜54%の成長を見せ、23億人のユーザを獲得している。その多くはFacebookのサービスに不満を抱えているが、友人と繋がり続けるために囲われたままでいる(逆もまた然り)。

23億の不満なユーザを抱えながらも、数十億ドルを稼ぎ出し、2桁成長を続けるFacebookは、投資家には悩ましい存在ではある。だが、Facebookが参入する事業は、投資界隈では「キルゾーン」として知られている。

Facebookの優位性は「ネットワーク効果」、つまりユーザが参加するごとに価値を増すという考え方に支えられている(ユーザを増やせば増やすほど、あなたが探している人がFacebook上で見つかる可能性が高まる)。しかし敵対的相互運用性があれば、新たな市場参入者は、ユーザがFacebookを離れた後もFacebook上の友人と連絡を可能にでき、ネットワーク効果を自らのものとすることができるのだ。

この種の敵対的相互運用性は、「データポータビリティ」以上の効果をもたらす。データポータビリティは通常、自らの全データを1回度に移行するためのツールを提供するものである。確かに重要ではあるのだが、移行先のサービスからの継続的なアクセスを可能にするものではない。

大手プラットフォームは、ユーザの行動データとユーザの「囲い込み」の双方をテコにして、脅威の成長を遂げ、収益をあげている。こうしたシステムを利用する消費者は、あたかも企業との交渉の末に、サービスの対価としてプライバシーを取引したり、何らかの見返りや便宜のためにベンダーロックインされていることにされている。またビッグテックはプライバシー規制「修理する権利」法案のような反囲い込み措置に対抗するロビーを行った際、消費者は交渉の末に、オープンマーケットにおいてサービスを購入するために、自らの個人情報(の提供や販売)、あるいは自らの自由を差し出しているのだと主張した。

だが、そのような交渉が行なわれていないことは明白だ。ウェブをブラウザしているだけで、ブラウザはユーザの気づかぬうちに個人情報を漏らし続けている。携帯電話であれプリンタであれ、あなたが購入したデバイスなら、どのアプリ、どのインクカートリッジを選ぶかという決定権はあなたにあるべきだ。

敵対的相互運用性は、こうした強要的な「交渉」に対抗する消費者側の切り札である。インターネットユーザの4分の1が広告ブロッカーをインストールしているという。人類史上最大規模の消費者の反乱が起こっているのである。プラットフォーム側の「サービスと引き換えに、あなたのすべてのデータを要求する」という提案に対して、消費者側は「やなこった」と言い返しているのだ。これこそが交渉である!

あるいは、iPhoneユーザとAppleの修理サービスの関係を考えてみよう。Apple側の最初の入札は「あなたは我々の設定した価格であなたのデバイスを修理します」であり、それに対してiPhoneユーザは「(その額は)ありえない」という。そしてAppleは次の提案をする。それにiPhoneユーザが納得してAppleの修理サービスを受けるというのであれば、それこそが我々の知るフェアな交渉だ。

これが競争市場である。競合他社からのオファーが存在しない場合には、消費者は別の手段を用いて「次の提案」を探るのである。

米国の競争環境を活性化させるべき理由は十分にあるが、重要な点は、競争は合併や買収によってのみ促進されるわけでも、抑制されるわけでもないということだ。企業はさまざまな法律を駆使して、支配力を獲得・維持しようとする。そして、公共の利益が害されることになる。

今日、消費者や修理職人たちは、法律や規制によって、技術的自己決定権を抑制されている。この状況に変化をもたらすためには、コンピューター詐欺および不正利用防止法デジタルミレニアム著作権法第1201条特許法、その他の規則や法律を改革しなくてはならない。現在支配的な立場にあるすべての大手テクノロジー企業の成功は、敵対的相互運用性に支えてきた。彼らにとって重要な役割を果たしたのであれば、将来彼らを打ち倒す企業にとっても重要な役割を果たすことになるのだろう。

Adversarial Interoperability: Reviving an Elegant Weapon From a More Civilized Age to Slay Today’s Monopolies | Electronic Frontier Foundation

Author: Cory Doctorow (EFF) / CC BY 3.0 US
Publication Date: June 07, 2019
Translation: heatwave_p2p