以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「How Audible steals from creators (an Audible exclusive)」という記事を翻訳したものである。

あなたがオーディオブック好きなら、おそらく多数のジャンルで90%以上のシェアを持つAmazonの独占プラットフォーム、Audibleで購入しているのだろう。だが、市場のほぼすべてを捨てることになるにも関わらず、私の本はAudibleでは販売されていない。その理由は、レベッカ・ギブリンとの共著で新刊の『チョークポイント資本主義』で説明している。

Amazonは典型的な「チョークポイント資本主義」の物語だ。つまり、オーディエンスをウォールド・ガーデンに囲い込み、そのオーディエンスへの影響力を利用して、オーディエンスにつながろうとするクリエイターに次から次へと譲歩を求め、ついには公正さをかなぐり捨てて、クリエイターから文字通りかすめ取るようになってしまった企業の物語である。

Audibleの場合、その壁はDRM、すなわち「デジタル著作権管理」で作られている。Audibleはそのプラットフォームでオーディオブックを販売するクリエイターと出版社に、この「コピー防止」システムを強制する。DRMは購入された本が共有されるのを防ぐためのもので、クリエイターお利益を守るためのものだと説明して。

だが実のところ、AudibleのDRMを解除するなど実に容易い。あなたがAudibleのタイトルをみんなに共有したいという不届き者なら、ちょっと検索するだけで簡単に方法はわかる。とはいえ、それほど簡単なDRMの解除は、法律上はトンデモない違法な行為とされている。DMCA(1998年米国著作権法)の1201条では、DRM回避ツールの販売は、5年の禁固刑、50万ドルの罰金刑が科せられる重罪なのである。

つまり、DRMは著作権侵害を防ぐことはできないが(侵害者は法律を破ることを気にしないので)、いつだって競争を妨げることができるということだ。もしあなたがAudibleのライバルで、Audibleを追い落としたいと考えているなら、あなたは潜在的な顧客にAudibleのタイトルを諦めるか、2つの別々のライブラリを維持し続けるようお願いしなければならない。もちろん、AudibleのファイルをMP3や他のDRMフォーマットに変換するツールを与えるなんてご法度だ。

Audibleでは、クリエイターは選択の余地なくDRMをかけられてしまう。Penguin Random House Audio(世界最大手出版社のオーディオ部門)だろうと、個人製作者だろうと、AudibleのDRMからは逃れられない。あまりに横暴なので、私はこれを説明するために「ドクトロウの第一法則」なるものまで作ってしまったくらいだ。「誰かがあなたの所有物に鍵をかけても、あなたにその鍵を渡そうとしないのであれば、その鍵はあなたの利益を守るためにあるのではない」。

出版社やクリエイターがAudibleプラットフォームでの作品販売を許可するたびに、Audibleはオーディオブック・リスナーを囲い込む壁にレンガをもう1つ積み上げ、リスナーがAudibleからライバルに移行することをもっと金がかかるものに、もっと面倒なものにしていく。

壁が高くなればなるほど、リスナーは移行しにくくなる。

リスナーが移行しにくくなればなるほど、Audibleはクリエイターの待遇をさらに悪くすることができる。

その結果、Audiblegate(オーディブルゲート)なるスキャンダルが引き起こされることになったのである。Audibleの自費出版プラットフォームのACXを利用していた独立系クリエイターが、同社から数億ドルもの利益を奪われていたことが発覚したのだ。

https://pluralistic.net/2020/11/03/somebody-will/#acx

Audiblegateは、ACXで出版していたスーザン・メイが、同じくACXで出版していたフォレンジック会計士のコリーン・クロスとともに発見、調査したものだ。現在、Audilbeの著者たちはこの盗まれた収入を1兆ドル規模の企業から取り戻そうと団結している(が、同社は集団訴訟の権利を奪うため、クリエイターに拘束力のある仲裁の放棄を巧みに呑ませようとしている)。

我々は『チョークポイント資本主義』の執筆にあたり、クロスに取材した。第13章「透明性の権利」の目玉として、たった3つの州(ニューヨーク州、カリフォルニア州、ワシントン州)の州議会が特定の会計情報の開示を義務付ける法律を制定すれば、独占企業のバランスシートから世界中のクリエイターに数百万ドルのものお金が分配できることを説明している。

本書の後半の「透明性の権利」には、地方自治体、州政府、連邦政府はもちろん、クリエイター、アーティスト団体、いじり屋、起業家、ファンにすぐにでも採用できる、実利的で現実的なアイデアや提案を数多く詰め込んだ。

このソリューションベースのアプローチをしたいがために、本書を執筆したと言っても過言ではない。この40年間、クリエイターが自分たちの待遇を良くするためにできることと言ったら「もっと著作権をよこせー!(MOAR COPYRIGHT)」と叫ぶくらいしかなかった。何やかんやで、著作権の保護期間も範囲も拡大したし、エンターテイメント業界の収益は急増した。にも関わらず、アートが生み出す収益に占めるクリエイターの割合は減る一方なのである。

それこそが、我々が「チョークポイント資本主義」と呼ぶものだ。テクノロジーとエンターテイメントの独占企業は、一方にクリエイターを、もう一方にオーディエンスを置く砂時計型の市場を作り上げ、その間に陣取って参入条件としてクリエイターにありとあらゆる譲歩を要求する。

こうした状況でクリエイターに著作権を与えたとしても、いじめられっ子の昼ご飯代を増やしてあげるようなものだ。あなたの子どもにいくら昼ご飯代をあげたところで、校門の前に陣取るいじめっ子がそれをすべて巻き上げてしまう。実際、いじめっ子たちはあなたの子どもにもっと昼ご飯代を増やすよう言えよとロビー活動すらするだろう。あなたが子どもに与えれば与えるほど、いじめっ子の懐だけが潤っていくのである。

https://doctorow.medium.com/what-is-chokepoint-capitalism-b885c4cb2719

『チョークポイント資本主義』は、独占を無力化し、アート市場を再構築することによって、クリエイターをより豊かにするという考えに基づいている。クリエイターに容易に収奪可能な権利を与え、独占者がそれを取り上げて影響力を増すために利用する現状を変えるための本だ。

結局のところ、クリエイターにさらなる著作権――たとえば、正当な目的で使われる場合であっても、DRM解除ツールを禁止する権限――を与えたとしても、我々を豊かにすることはできなかった。むしろ、Audibleが我々のオーディエンスを囲い込み、我々から数億ドルを盗み出すことを可能にしただけだった。

本書は刊行前から大変に好評を頂いている。マーガレット・アトウッドはこの本をたいそう気に入ってくれたし、Publishers Weeklyは今秋の最注目の本に選んでくれた。9月27日にはどこでも購入いただけるはず。

https://twitter.com/rgibli/status/1563648065197981697

いや、ええと……ほとんどどこでも、か。もう理由はおわかりかとは思うが、我々はAudilbeでオーディオブックを販売することはない。その代わりに、オーディオブックを自主制作するためにKickstarterキャンペーンを行い、10万ドル近くを集めることができた。さらに、支援者から377冊のハードカバーの寄付をしていただき、出版社も200冊の寄付を約束してくれた!

https://www.kickstarter.com/projects/doctorow/chokepoint-capitalism-an-audiobook-amazon-wont-sell/description

さて、この本はAudibleでは買えないと言ったが、必ずしもそうとは言い切れない。本日より、第13章を「Audible Exclusive」版として販売することにした。この「透明性の権利」のパートでは、Audibleがいかにしてリスナーを囲い込み、その支配力を悪用してクリエイターから搾取するかについて丹念に説明している。

https://www.audible.com/pd/Transparency-Rights-Chapter-13-of-Chokepoint-Capitalism-Audiobook/B0BCR3J8WJ

Audibleで聞いていただけるのは、この章だけである。我々の本の存在を知り、Audibleで検索をかけたとしても、結果に表示されるのはこの「Audible Exclusive」のパート、つまりAudibleのビジネスプラクティスを詳細に告発した35分間のステファン・ルドニッキのナレーションだけである。

なお、この「Audible Exclusive」の価格は、リスナーごとに異なる。Audibleはクリエイターに価格設定を許していないためだ。私の場合は3.95ドルと表示されている。だが、この短い抜粋版を購入するくらいなら、ぜひともKickstarterに参加して、Amazonによる搾取と横暴な独占主義に風穴を開けるのをお手伝いいただければ。

我々は、本書を携えてツアーに出かけるつもりだ。9月23日には、ニューヨーク大学エンゲルバーグ・イノベーション法・政策センターが主催する最初のツアーが予定されている。

https://www.eventbrite.com/e/chokepoint-capitalism-funtime-book-party-tickets-411552222777

ぜひともクリエイターの方と一緒にご来場いただきたい。我々は、クリエイティブ産業をはじめ労働者による抵抗を組織する複数の草の根グループにもスペースを提供している。本の紹介と同じくらい、戦術を共有する場にしたいと考えている。

Pluralistic: 07 Sep 2022 We published an Audible Exclusive about the monopolistic abuses of Audible – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: September 7, 2022
Translation: heatwave_p2p
Material of Header image: Emiliano Bar