以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Why Millennials aren’t leaving Tiktok」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

Z世代のTiktok離れが進み、Tiktokerの中央値がミレニアル世代(あるいはさらに上の世代)になったというニュースを受けて、コメンテーターたちはこぞって、Tiktokはもはや若々しい輝きを失ってクールではなくなったのだと囃し立てている。

https://www.garbageday.email/p/tiktok-millennials-turns

だが、「なぜZ世代のキッズがTikTokから離脱しているのか?」という疑問はナンセンスだ。正しい疑問は、「なぜミレニアル世代はTikTokから離れないのか」なのだから。つまるところ、我々は「メタクソ紀(enshittocene)」を生きている。あらゆるプラットフォームは単調かつ不可逆的に時間とともに劣化していく。それはTikTokも例外ではない。

https://pluralistic.net/2023/01/21/potemkin-ai/#hey-guys

年上のユーザがなぜTikTokに留まるのかを理解するには、まず、なぜ若いユーザが新しいプラットフォームを絶え間なく求めるのかを考えるべきだろう。ある程度は若者特有の新奇性への欲求によるのだろうが、それは物語の一側面に過ぎない。プラットフォームに参加する理由と離脱する理由を真に理解するには、スイッチングコストを理解しなくてはならない。

「スイッチングコスト」とは、製品やサービスを変更するにあたって諦めなければならないすべてのモノを指す経済学用語である。iOSからAndroidにスイッチすると、それまで購入した多数のアプリやメディアを諦めなくてはならない。ある航空会社の上級会員が別の航空会社にスイッチすると、それまで享受してきた無料の手荷物預けや優先搭乗を失うことになるかもしれない。

オープンな市場では、競合企業はさまざまな手を尽くしてスイッチングコストを下げようとする(航空会社に電話して、「やあ、私はアメリカン航空の第33階級のメイソン(訳注:フリーメイソンの最高位、よくわからんがとにかく一番上のクラス)なんだけど、おたく(デルタ航空)に乗り換えたら、トリプル・プラチナ・ダイヤモンド・スカイバロンにしてくれるよね?」と言えば、イイコトがあるらしい)。もちろん、既存の大手企業はこれを嫌って、あらゆる手段でスイッチングコストを引き上げようとする。つまり、他社に乗り換えようとする忠誠心の低い消費者を罰するような、手痛いスイッチングコストを課そうとするのだ。

ソーシャルメディア企業は、「集合行動問題」のお陰で、ユーザをタダでロックインできる。みんなで一緒に同じ行動をする(乗り換える)のは難しい。関わる人数が増えれば増えるほど、難易度は上がっていく。数人のグループチャットで、どこに夕食を食べにいくか、どのボードゲームをプレイするかを決めるのだって面倒くさいことこの上ない。ましてや、一度ソーシャルメディアサービスにどっぷり浸かって、世界中の友人や親戚、顧客、コミュニティ(例えば、難病のサポートグループ)に繋がり、連絡手段として(子どものリトルリーグの車の割当など)常用するようになってしまうと、問題解決はほぼ不可能だ。海外の親戚にお願いしてSignalグループにスイッチさせることはできるかもしれない。だが取引先の企業や高校時代の仲間もそうしてくれるだろうか?

https://pluralistic.net/2022/10/29/how-to-leave-dying-social-media-platforms/

まとめると、スイッチングコストと集合行動問題はプラットフォームを「粘着質」にし、粘着質なプラットフォームは必然的に「メタクソ化」(enshittify)する。

プラットフォームというものは価値を生み出す。プラットフォームはエンドユーザ同士(例えば、リトルリーグの親たち)をつなぎ、エンドユーザをビジネス顧客(あなたと取引先)をつなぐ。その価値は、エンドユーザ、ビジネス顧客、プラットフォームの株主とで分配されなければならない。だが、プラットフォームは、広告の数を増やすことで、エンドユーザを犠牲にしてビジネス顧客に報いることができるし(まさにYouTube!)、出版社やパフォーマーの広告収入の分け前を減らすことで、ビジネス顧客を犠牲にして株主に報いることもできる(またしてもYouTube!)。

プラットフォームにとっての理想的な状態とは、エンドユーザとビジネス顧客がプラットフォームから何の価値も得られない状態である。その価値のすべてをプラットフォームの株主へと流せるからだ。とはいえ、もしYouTubeが30秒の視聴ごとに10分の広告を挟み込み、動画クリエイターをタダ働きさせるようにしたら、ユーザもクリエイターもプラットフォームから離脱し、広告主にも逃げられてしまうだろう。

https://www.youtube.com/watch?v=Dab8sKg8Ko8

よってプラットフォームは均衡点を求める。「ユーザとビジネス顧客に離脱されない程度に、分配する価値を最小化するには何を与えればよいか?」 おそらく、エンドユーザにより多くの価値を与えること(例えば、賃金を抑制してUberの料金を低く抑える)、あるいはビジネス顧客により多くの価値を与えること(ソーシャルメディアのフィードに無数の広告を詰め込む)ということになるのだろう。

どんなビジネスでも(実店舗型であれ、非デジタルであれ)、サプライヤー、顧客、オーナー間の価値の均衡点を見出そうとする。だがこの点で、デジタルビジネスには優位性がある。デジタルビジネスには、アナログの消費財ビジネスにはない柔軟性があり、価格設定や支払い、その他のダイナミクスを刻一刻と(秒単位で)変更し、サプライヤーごとに、顧客ごとに異なるオファーを提示できる。デジタルビジネスにはたくさんの調整ノブがあり、それを自在に操れるのだ。

https://pluralistic.net/2023/02/19/twiddler/

もちろん、完全に思いのままというわけではない。ノブを回すのにも限度がある。欲張りすぎれば、ユーザやビジネス顧客は、プラットフォームに留まるコストとスイッチングコストとを比較考量して、(訳注:前者が高ければ)離脱したほうがいいと判断するかもしれない。しかし、プラットフォームは、離脱を高コストで、苦痛を伴うものにすればするほど、どれだけユーザをいじめてもプラットフォームに縛り付けておける。

言い換えれば、顧客やサプライヤーのビジネスを維持するには2つの方法がある。よりよいサービスを提供して離脱したくなくなるようにするか、サービスの離脱に残酷な罰を与えて、どれほど虐げられても離脱できなくするかだ。

顧客やユーザにとってどれほど劣化しても、デジタル企業がビジネスを継続する方法は3つある。

第一に、競争を排除する(マーク・ザッカーバーグがInstagramを買収し、彼の不適切な経営に嫌気が差してFacebookを離脱したユーザを取り戻したことを思い出そう)。

https://pluralistic.net/2023/09/03/big-tech-cant-stop-telling-on-itself/

第二に、規制当局を取り込み、サプライヤーやユーザの法的権利を踏みにじっても処罰されないようにする(Amazonが「最恵国待遇」契約によって、Amazon内外のすべての製品の価格を引き上げてきたことを思い出そう)。

https://pluralistic.net/2023/04/25/greedflation/#commissar-bezos

第三に、競合他社がサービスを改良して、その価値の一部を取り戻すことを知的財産法で防ぐ(AppleがAndroid版のiMessageをブロックするために法的な脅しをかけ、Appleユーザが非Appleユーザとのプライベートな会話を阻止したことを思い出そう)。

https://pluralistic.net/2024/01/12/youre-holding-it-wrong/#if-dishwashers-were-iphones

もちろん、こうしたトリックは自由自在に使えるわけではない。反トラスト法は企業の反競争的な買収や合併を阻止できる。規制当局は顧客、労働者、ユーザをだます企業を処罰できる。テクノロジストは、相互運用可能な」アドオンで、既存のサービスを改良・再設定するクレバーな方法を編み出す(そして、ユーザが劣悪な待遇を拒否し、より良い待遇を求める交渉を可能にする)ことができる。

https://www.eff.org/deeplinks/2019/07/adblocking-how-about-nah

テック企業の意思決定者たちは、ユーザから株主へと価値をシフトさせるために限界ギリギリまでノブを回し続ける。彼らのボスや役員会は、「KPI」で彼らを動機づけ、会社の製品を上手くメタクソ化させた経営者に、巨額のボーナスや昇進の約束をちらつかせる。

https://pluralistic.net/2023/07/28/microincentives-and-enshittification/

数十年にわたる企業寄りの独占政策によって、ノブはどんどん緩んでいった。40年かけてナマクラと化した反トラスト法は、企業による競合の買収・合併を見逃し続けた。それもようやく変わりつつあるが、まだまだ厳しい道のりだ。

https://pluralistic.net/2023/07/14/making-good-trouble/#the-peoples-champion

業界の集中が進むにつれ、企業は規制当局を取り込みやすくなり、価格の吊り上げ、スパイ、賃金未払いなどへの罰則を恐れなくなった。そのため、「法律違反」のノブに同じだけのトルクをかけても、ノブはますます緩んでいった。

https://pluralistic.net/2022/06/05/regulatory-capture/

規制当局を取り込めたら、あとは競合潰しに全力で取り組める。独占に優しい政策環境は、知的財産法をいじめっ子の特権へと変え、スクレイパー、広告ブロッカー、代替クライアントといったメタクソ化から身を守るためのツールを提供する競合企業を捻り潰せるようにした。大企業はメタクソ化のノブを思いのままに回すことができた。ちっぽけなライバルのノブはまったく回らないことをよくわかっているからだ。

https://pluralistic.net/2022/10/20/benevolent-dictators/#felony-contempt-of-business-model

かつて、ボスたちのノブ回しを制限していたものがもう1つあった。労働力だ。多くのテックワーカーは、純粋にユーザの幸福を気にかけていた。そしてボスたちは、表向きは、それを奨励した。引く手あまたのテックワーカーに辞められては困るが、長時間労働はさせたい。そこで、無茶なデッドラインを遵守させるために、ユーザのためだと言って手を動かさせた。かつてテックワーカーたちは、ボスがメタクソ化のノブに手を伸ばそうものなら、恐れることなくその手をピシャリと叩き、全精力を注いだプロダクトをメタクソ化されるくらいなら辞めてやるぞと詰め寄った。だが今日、数十万のテックワーカーがレイオフされるに至っては、ボスのメタクソ化の意向に異議を唱えることは難しくなり、声を上げても解雇が待っている。

https://pluralistic.net/2023/09/10/the-proletarianization-of-tech-workers/

あらゆる面で、テック企業の経営者がアプローチを変える必要性が失われた。そうして、サービスは着実に劣化していった。1年前や10年前と全く同じようにメタクソ化のノブをひねる経営者は、ノブが以前にも増して回ることに気づくだろう。なぜなら、ビジネス顧客たちはプラットフォームに縛り付けられ、規制当局は彼らを守ってはくれず、その規制当局が競合他社の反撃を阻止し、労働者は解雇を恐れてユーザのために声を上げられないのだから。

これが、メタクソ紀を生み出した感染症だ。企業を制約していた力(競争、規制、自助、労働力)がすべて溶け去り、あらゆる企業のMBA中毒でノブひねり型リーダーたちが、神が与え給うた時間のすべてを恥知らずにもノブを愛撫することに費やせるようになった。

https://pluralistic.net/2024/01/30/go-nuts-meine-kerle/#ich-bin-ein-bratapfel

そうして、人々はプラットフォームの離脱を考えるようになる。プラットフォームがユーザを失うのは、ユーザがスイッチングコストと滞在の苦痛とを比較考量し、その苦痛に耐えるよりもスイッチングコストを負担する方がマシだと判断したという状態だ。

では、なぜ若いTikTokユーザはスイッチングコストを高すぎると感じず、年上のユーザはプラットフォームに留まっているのだろうか。

そのためには、若者の特徴を見る必要がある。子どもたちは飽きっぽく気まぐれで、新奇性を求めて次々とサービスを乗り換えるーーという凡庸な常套句を超えた特徴だ。

子どもたち目新しさを求めるかはさておき、基本的に子どもたちは不利なマイノリティだ。彼らは、プラットフォームがしてほしくないことをしたい。親や学校などの権威者(あるいは警察や将来の雇用主も。子どもたちはそこまで考えていないかもしれないが)に聞かれることなく交流したいのだ。

言い換えれば、子どもは本質的に、大人よりもスイッチングコストが低い。というのも、プラットフォームが大人向け以上のサービスを子ども向けにしてくれることはない。これは、セックスワーカーからテロリストまで、性的マイノリティからトロールまで、反体制派からファシストまで、テック好きで新しいものを求める「アーリーアダプター」と子どもたちに共通する特徴である。新たなテクノロジーをマスターし、それを中心にコミュニティを形成するコストは、既存ツールから十分なサービスを受けている人々よりも、マイノリティグループのほうが受け入れやすい。

https://pluralistic.net/2022/06/21/early-adopters/#sex-tech

ポルノ業界がホームビデオに飛びついたのは、肉肉しさを記録するメディアとして優れていたからではない。ホームビデオは、こっそりとポルノ消費者に届けることができて、消費者はこっそりと鑑賞できたからだ。覚悟を持って小汚いポルノ劇場に突入できる人よりも、プライバシーが守られたリビングルームでポルノを見たい人のほうが圧倒的に多いのだから。

どんな新技術も、不利なグループと新しもの好きな人々のミックスによって普及する。それがメインストリームになるまで、彼らによって正常化され、洗練され、そしてカウンターカルチャー的なクールさが吹き込まれる。その新しいシステムにフツーの人々が移住してくるようになると、古いシステムから離脱するスイッチングコストは低下する。新しい領域で誰かとつながったりサービスを見つけるのはますます容易になり、古い領域ではどんどん難しくなっていく。

これこそ、歴史的にテックプラットフォームが突然の崩壊を経験してきた理由だ。ユーザが増えることで価値が高まり、離脱しにくくなるプラットフォームは、ユーザが離れれば、価値が低下し、離脱しやすくなる。

https://www.zephoria.org/thoughts/archives/2022/12/05/what-if-failure-is-the-plan.html

TikTokのZ世代は、年上のミレニアル世代と同じようにメタクソ化を経験する。だが彼らは同時に、留まることによる追加コストが上乗せされる。遅れてやって来た大人の権威者たちがプラットフォームを熟知するにつれ、Z世代がどんなふうにプラットフォームを使っているのかを知り、彼らが隠し通してきたオイタを咎めるようになる。

ではなぜミレニアル世代はTiktokから離脱できないのか。メタクソ化を経験するのは離脱したZ世代と同じだ。だが、彼らが離脱した場合のスイッチングコストはZ世代より高いのだ。年齢を重ねるほど社会的つながりは複雑になる。Z世代の中学生なら、プラットフォームを移行しても高校時代の仲間と連絡が取れなくなることを心配する必要はない(まだ高校に行ってないし。中学の友達とは直接会っているので、誰がTikTokを離れ、次にどこに行くのかを共有するサイドチャンネルがある)。中学生なら、リトルリーグの相乗りの調整や、難病サポートグループへのアクセスを失うことを心配する必要もない。

言い換えれば、若ければ若いほど、離れることで得るものが多いので、古いプラットフォームをいち早く離脱する。そして、歳を取れば取るほど、離れることで失うものが多いので、古いプラットフォームからの離脱が遅くなる。

その結果、Facebookはベビーブーマーだらけだ。確かに、彼らの子どもたちは、親(または祖父母)が自分たちの性的、社会的、仕事的生活に入ってこないように出口に駆け込んだ。しかし、ベビーブーマーが若いユーザよりもFacebook離脱が遅れた理由、あるいは未だに残り続けている理由は、彼らのほうが離脱によって失うものが多いからだ。Facebookは、例えば、ユーザに家族の写真をアップロードするよう仕向ける写真ホスティングサービスを作り、この力学を意図的に働かせようとした。離脱する際にそれらの写真をエクスポートするのがいかに難しいかをひた隠しにして。

https://www.eff.org/deeplinks/2021/08/facebooks-secret-war-switching-costs

皮肉なことに、テックは本質的にはスイッチングコストが低い。他の条件が同じなら、新しいプラットフォームは常に、ユーザが古いプラットフォームから乗り換えやすいように橋を架けることができる。Mastodon、Bluesky、その他のプラットフォームに移行することで、あとに残してきた人々とのつながりが断たれるべき(技術的な)理由はない。

旧プラットフォームが新サービスとつながるAPIを提供する自発的な相互運用性、政府がテック企業にAPIを提供するよう強制する義務的な相互運用性、新しい企業がリバースエンジニアリング、スクレイピング、ボット、その他のゲリラ戦術で独自にAPIをハックする敵対的な相互運用性が組み合わされば、ユーザは携帯電話のキャリア変更と同じくらい簡単にネットワーク間を移動できるようになるだろう。

https://pluralistic.net/2022/12/19/better-failure/#let-my-tweeters-go

ローンチしたてのテックプラットフォームは、APIを提供する傾向がある(新規ユーザの流入を容易にするため)。そして、ひとたび優位に立つと、適当な理由をつけてAPIを閉鎖する(ユーザを檻の中に閉じ込めておくため)。EUは、デジタル市場法を通じてAPI提供義務を検討している(ただ不可解なことに、ソーシャルメディアではなく暗号化メッセージングから着手している)。敵対的相互運用性を取り戻すためには、「修理する権利」法にみられるような、広範囲に渡る法改正が必要になるだろう。そして、その動きはすでに始まっている。

https://www.techdirt.com/2024/03/13/oregon-passes-right-to-repair-law-apple-lobbied-to-kill/

ソーシャルメディアプラットフォームに足留めを食らっている人々を、時代遅れでテクノフォビアの老害扱いすべきではない。彼らは頑固なのではなく、立ち往生しているのだ。工場が閉鎖して若者が去っても、衰退しつつある街を離れられない高齢者のように、閉じ込められているだけなのだ。彼らが必要としているのは、避難先と、そこへ行き着くための経路である。

Pluralistic: Why Millenials aren’t leaving Tiktok (21 Mar 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 21, 2024
Translation: heatwave_p2p