以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Someday, we’ll all take comfort in the internet’s “dark corners”」という記事を翻訳したものである。
プラットフォームは衰退する。競争、規制、広告ブロッカーやその他の敵対的な相互運用性、そして自社の労働者による制約を受けないテクノロジー企業の経営者は、必然的にプラットフォームを空洞化させ、超柔軟なデジタル技術を使ってエンドユーザやビジネス顧客から価値を吸い上げ、ユーザをロックインするために最低限の価値しか残さない。
メタクソ化(enshittification)は、高いスイッチングコストの必然的な結末である。テクノロジー企業の経営者は、隙あらば顧客やユーザをロックインしようとする。プラットフォームからの離脱が難しいほど、プラットフォームはユーザの離脱を恐れずに、ユーザをより酷く扱うことができ、より多くの価値を奪えるからだ。
しかし、プラットフォームのユーザは、雑多で、いびつな塊であり、そのユーザグループごとにスイッチングコストは異なる。長年Facebookを使ってきた大人のユーザは、若いユーザよりも離脱できない理由が多い。高校、大学、仕事、友人、家族など、重複しない社会的サークルに参加し、複雑な社会生活を送っているからだ。慢性疾患を抱えている人やその家族であれば、ソーシャルメディア上の支援グループに参加しているだろうし、それがなくなっては困る。あるいはリトルリーグの送迎ローテーションなど、実用的なコミュニティにつながっている人も多い。
これがプラットフォーム衰退の恐ろしい皮肉だ。プラットフォームから得られる価値が大きいほど、そのプラットフォームはより多くのコストを引き出すことができる。そのコストは、ユーザの幸福、楽しみ、尊厳という通貨で支払われる。
(ここで、「プロダクトの対価を払っていないなら、あなた自身がプロダクトなのだ」と言い出す奴が出てきそうだが、そいつはナンセンスだ。尊厳、尊重、公正は、テクノロジー企業が優良顧客に垂れ流すマイレージプログラムのような特典ではない。企業は、顧客が「注目の地代(attention rents)」などのショバ代を嫌でも支払わざるをえないと見るや、喜んで「プロダクト」として扱う)
さて、逆の命題を考えてみよう。若いユーザにとって、プラットフォームがもたらす価値は少ない。若いユーザは、平均して、親や祖父母よりも社会生活が複雑ではないので、プラットフォームは若いユーザに食い込みにくいのだ。さらに、若いユーザは、登録初日からプラットフォームが望まないものを求める傾向がある。とりわけ、大人、特に両親、教師、その他の権威者の目や耳に触れないところでつながりたがる。つまり、典型的な若いユーザは、プラットフォームを離れる理由が多いだけでなく、そこに留まり続ける理由も少ない。
若者には、プラットフォームを早期にそして頻繁に離れるもう一つの理由がある。オンラインとオフラインの社会的サークルが強く重なっている場合、つまり、学校で会う人とフィード上で会う人が同じなら、(より小さく、より複雑でない)社会的サークルを新しいプラットフォームで再構築しやすい。
総じて、若者はプラットフォームを好まず、むしろ嫌っており、失うものは少なく、プラットフォームの移行で得るものが多い。確かに、新しいものへの強い欲求に燃える若者もいるが、その欲求がなくても、テクノロジー企業の経営者がメタクソ化のねじを回し始めると、若者は真っ先に船から飛び降りるのだ。
若者以外にも、早々に船から飛び降りる傾向がある人たちがいる。セックスワーカーだ。
セックスワーカーのテクノロジーを乗り換えるのは、ある種の必然である。セックスワーカーがプラットフォームを変更するのは、プラットフォームがセックスワーカーに絶対的に敵対的であるか、プラットフォームのポリシー変更がセックスワーカーにもたらす苦しみにひどく無関心であるからだ。
メインストリームから外れた政治的イデオロギーを持つ人々など、他の不遇なグループにも同じことが広く当てはまる。こうしたグループには進歩的な考えを持つ人もいれば、あからさまなナチもいるが、彼らは皆、良い時でさえプラットフォームのポリシーに反発している。プラットフォームが全ユーザを締め上げるような段階になれば、すでに船から飛び降りる準備は整っているのだ。
そこで「ダークコーナー(ウェブの暗部:dark corners)」の出番だ。インターネット上の最悪の人々は、いわゆるダークコーナー、つまり個人がホストするサーバ、グループチャット、掲示板などに移動している。Kiwi Farms、4chan、8kun、さまざまなTelegramグループチャットなど悪名高いものもあるが、それ以外は想像を絶する残酷でグロテスクな犯罪の波に関与したときにのみ表面化する。
インターネットのダークコーナーで行われる犯罪にどう対処すべきか。どこで行われる犯罪でもその答えは同じ。犯人を捕まえ、犯罪を起訴する。だが、ダークコーナーと、そこで蔓延する犯罪との関連性を観察し、問題はダークコーナー自体にあると結論づける善良な人々は、滅入るほど多い。
そうした人々は、FacebookのようなソーシャルメディアプラットフォームやCloudflare、DNSプロバイダ、ドメイン登録業者などの仲介業者が「コントロールの結節点(nexus of control)」、つまり何十億人ものオンライン生活の関所となるチョークポイントを構成していることを観察し、これらの巨大企業にユーザの「責任」を負わせられるし、負わせるべきだと結論づける。
そのような考えは、刑務所にぶち込めないほど、潰せないほどに巨大化し、絶えずメタクソ化を続ける企業のコントロール下にない人々は、オンライン上に存在すべきではないという結論にまで簡単にたどり着いてしまう。
これは悪魔との取引だ。一握りの不愉快な連中のプライベートグループを潰すという名のもとに、他の全ての人々の運命を、無責任な億万長者の支配下に永久に置くリスクを冒せと言うのだから。
だからこそ、マーク・ザッカーバーグのような人々は、230条のような「仲介者責任」ルールの強化を熱望している。ザッカーバーグが最も恐れているのは、物議を醸すテーマを抑制するモデレータやアルゴリズムに多額のコストがかかることではない。
彼が最も恐れているのは、ユーザを支配できなくなることだ。だから、Instagramを買収した。管理の行き届かない、メタクソ化したプラットフォームから大挙して逃げ出した若いユーザを再び支配するためだ。
ザッカーバーグにユーザの取り締まりを法的に義務づけるのは、ユーザの監視と支配を義務づけるに等しい。それは、競争を働かせようとする新しい動きーーザッカーバーグらテック・バロンたちに、Facebookを離れてもFacebookに残ったユーザとの交流を続けられるゲートウェイの提供を義務づけるーーとは根本的に相容れない。
覚えておいてほしい。プラットフォームのユーザがロックインされれば、そのプラットフォームはユーザを搾取できる。プラットフォームを離れるコストが、プラットフォームに留まりプラットフォームの虐待を耐え忍ぶコストよりも高いと分かっているからだ。
これが「封建的セキュリティ」の問題点だ。外部の脅威から守ってくれると約束して人々を自分の城塞に誘い込む軍閥は、実際には、その軍閥が傍若無人に振る舞える牢獄を運営しているのだ。
今日、インターネット上で最悪な連中だけがダークコーナーを使っているからといって、ダークコーナーを無くす方向に向かうべきではない。ダークコーナーを正常化し、あらゆるユーザが、ザッカーバーグと仲間たちのギロチンにかけられずに済む、居心地の良い片隅を見つけられるようにすべきなのだ。
メタクソ化は止まらない。競争、規制、相互運用性、そして労働者の良心といった、ユーザを搾取するテクノロジー企業にペナルティを課す制約が崩壊したことで、あらゆるテック企業の経営者に治癒不能なメタクソ化の衝動を植えづけた。
プラットフォームをユーザに安全なものにしようとする努力は、ある程度までしか私たちを導いてくれない。巨大な中央集権システムは本質的に、欠陥があり平凡で脆弱な人間の独裁者(自分を高貴で優れていて誤りがないと思い込んでいる)に権威を委ねるものであり、人間が安住することのできないシステムである。我々が注力すべきはプラットフォームの改善ではなく、プラットフォームからの避難なのだ。
自らモデレーションポリシーを管理するオンラインコミュニティが、常に正しいとは限らない。だが、広大なプラットフォームを監督する部外者には、適切に処理できない難しいモデレーションの判断が数多くある。友好的な冗談とハラスメントを区別するには、内部の人間にしかわからない文脈が必要なのだ。
我々は皆、朽ち果てつつある巨大なプラットフォームが提供する価値を代替し、よく管理されたコミュニティを見つけられうるダークコーナーこそがふさわしい。やがて、メタクソ化は子供やセックスワーカー、政治的急進主義者だけでなく全てのユーザを既存プラットフォームから追い出すだろう。そうなったとき、誰もが自分のダークコーナーに安住できたならどれほど素晴らしいだろうか。
Pluralistic: Someday, we’ll all take comfort in the internet’s “dark corners” (23 Mar 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 23, 2024
Translation: heatwave_p2p