以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Google reneged on the monopolistic bargain」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

驚くべきことに、かつてAltavistaやYahooをふっと飛ばし、魔法の検索ツールで世界を驚かせたGoogleが、突如クソの山になってしまった。

Googleの検索結果はひどいものだ。ページの上部はスパム、詐欺、広告だらけだ。始末に終えないのは、その広告も詐欺だらけなのだ。時には、資金力のある敵対者がGoogleを出し抜いて大金を稼ごうと大掛かりな詐欺が試みることもある。

https://www.nbcnews.com/tech/tech-news/phone-numbers-airlines-listed-google-directed-scammers-rcna94766

しかし通常、こうした詐欺を働くのは有象無象の、小銭稼ぎの詐欺師たちだ。彼らは資金力があるわけでもないし、洗練された攻撃者でもない。さらに言えばSEO業界の初心者である。その彼らでさえ、Googleを出し抜いている。

https://pluralistic.net/2023/02/24/passive-income/#swiss-cheese-security

Google検索は明らかに劣化している。SEO業界は神の与え給うた時間をすべて注ぎ込んで、検索結果の上位にどうやって不正にたどり着くかを考えている。たとえGoogleがそうした試みの99%を退けたとしても、すり抜けた1%が重要な検索結果ページを支配してしまう。

https://downloads.webis.de/publications/papers/bevendorff_2024a.pdf

Googleはこれが真実ではないと主張する。あるいは、仮に真実だとしても、Googleが防ぎきれないほど悪党どもがはびこり、熱心かつ創意工夫に富んでいるのが原因だと言う。

https://searchengineland.com/is-google-search-getting-worse-389658

そんなはずではなかったはずだ。Googleは長らく、そのスケールこそが詐欺師やスパマーから我々を守る唯一の手段だと言ってきた。であればこそ、彼らは積極的な成長を追求し、何百もの企業を買収し、検索にそれらの製品を統合することで、あらゆるモバイルデバイス、広告、動画、ウェブサイトにGoogleの触手を伸ばすことが不可欠だったのだ。

これが、待望の対Google反トラスト訴訟におけるGoogle擁護派のメッセージである。そう、Googleはユーザが他の検索エンジンを試さないように年間260億ドルを費やしてきたんだ。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-10-27/google-paid-26-3-billion-to-be-default-search-engine-in-2021

Googleは、商業的・技術的物理学の通常の法則がもはや適用されないほどの規模に達したと言われてきた。セキュリティを例にとろう。「セキュリティにおいて、曖昧さは役に立たない」というのは鉄則だ。敵が仕組みを理解していないときにのみセキュアなシステムは、セキュアなシステムではない。ブルース・シュナイアーが言うように、「誰でも、自分には破れないセキュリティシステムを設計できる。それが機能するという意味ではなく、自分よりも愚かな人々には機能するという意味だ」。

にもかかわらず、Googleは世界で最も重要なセキュリティシステムの1つである「The Algorithm™」を完全に秘匿して運用している。Googleのランキングシステムがどのように機能するのか、その基準は何なのか、いつ変更されるのかさえ、我々には知らされない。「もしそれを教えたら、スパマーが勝つことになる」というわけだ。

かくしてGoogleは秘密を隠し続けた。そして、スパマーが勝利した。

空気清浄機を実直にレビューしてきたHousefreshが、Google批判する記事を投稿した。最悪のサイトを上位に送り込むGoogleの欠陥アルゴリズ厶では、高品質のレビューサイトは競争できないようになっているのだという。

https://housefresh.com/david-vs-digital-goliaths/

おそらくあなたも、質の悪いクソレビューサイトに誘導されたことは一度や二度ではないだろう。「2024年のベスト○○」を検索すると、Amazonのアフィリエイトリンクが散りばめられた、代わり映えのしないトップ10リスト記事ばかりが引っかかる。Googleはレビューサイトのガイドラインやアルゴリズムの重みづけを絶え間なく調整してきたが、どれも効果がなかった。例えば、Googleが「何かの利点と欠点を、自分自身のオリジナルな分析に基づいて議論すべき」というポリシーを導入すると、以前は同じAmazonベストセラーのトップ10リストを吐き出していたサイトが、「厳格なテストプロセス」、「ラボチーム」、「協力した」専門家など、複雑な方法論への言及っぽいナニかを散りばめるようになった。

しかし、こうした壮大な主張(例えば、Better Homes and Gardens(BH&G)の「ラボで67台の空気清浄機をテストした」というような主張)をする一方で、深く掘り下げたレビューもなければデータの開示もされない。こうした厳格にテストしていますよというアピールが含まれるようになったのは、Googleが検索ランキングを変更し、厳格なテストを行ったサイトを上位に掲載すると発表してから、わずか数日のことだった。

実に不愉快なのは、Better Homes and Gardensがオススメする空気清浄機が、厳密に基準を示しているHousefreshのテストと比較して信頼に足るのか、という点だ。「高価格で低性能の製品、出所が疑わしいAmazonベストセラー(もちろん性能は低い)、さらには『空気清浄機のTesla』を謳ってマーケティングする企業の粗悪な製品さえも蔓延している」。

BH&Gが強くオススメする製品の1つは、虚偽広告で訴えられ破産申請したMolekule社のものだ。BH&Gのオススメモデルは、Wirecutterでは「テストした中で最悪の空気清浄機」、Consumer Reportsでは「大げさな宣伝ほどの性能はない」と評価されている。BH&Gのいう厳格なテストプロセスがGoogleのポリシー変更に対応するためだけにサイトに書き足されたウソっぱちか、BH&Gがまともなテストもできない低能かのいずれかなんだろう。

BH&Gの競合も同じ罪を犯している。文字通り、まったく同じ罪だ。Real Simpleのレビューには同じ写真家がクレジットされ、その写真もまったく同じ場所で撮影されたように見える。登場する「専門家」も同じだ。Real SimpleBH&Gも親会社は同じ、Dotdash Meredithである。Housefreshが示すように、Dotdash Meredithのレビュー写真には、同じ場所で同じ人物によって撮影されたと思われるものが非常に多い。

しかし、グループ外の競合も似たようなものだ。Buzzfeedは、あのMolekuleのガラクタを含む22台の空気清浄機をリストアップしている。彼らの「方法論」は、Amazonレビューのスクリーンショットを掲載する、以上だ。

空気清浄機のトップサイトの多くは、かつては素晴らしいメディアだった。が、プライベートエクイティ(PE)大手に買収され、メタクソ化(enshittified)した。例えば1872年に雑誌として創刊されたPopular Scienceは、PEオーナーのNorth Equity LLCが2023年に、誠実であることよりも検索上位に表示させて甘い汁を吸う(googlejuice)ことに価値があると判断したことで、アフィリンクまみれのSEOベイトなおとりコンテンツだらけのサイトとなり、生ける屍と化した。Housefreshが指摘するように、PopSciを運営するマーケティングチームは、同誌が培ってきた150年の信頼を大いに利用しているが、実際のレビューは薄っぺらな感想程度で、経験主義で着飾る努力さえ見えない(ああ、そして彼らはMolekuleが大好きだ)。

世界最大、最強、最も信頼されているメディアの一部は、密かにSEOフレンドリーな「2024年のベスト10○○」リストを制作するサイドビジネスを営んでいる。Rolling StoneForbesUS News and ReportCNNNew York MagazineCNETTom’s Guide、錚々たるメディアだろう?

Googleには文字通り1つの仕事がある。この手のクソを検出し、一掃することだ。我々がGoogleと交わした取引は、「検索を独占し、その独占的レントを使って、我々が二度と他の検索エンジンを試さないようにする。その見返りに、低品質で役に立たないナンセンスと良質な情報を区別する」というものだった。そしてGoogleは、自らが選ばれることなく、すべての情報アクセスの恒久的な支配者になれば、「世界の情報を整理し、普遍的にアクセス可能で有用なものにしよう」と約束した。

彼らはその取引に背いた。

CNETのような企業は、かつては本当に厳格な製品レビューをしていた。Housefreshが指摘するように、CNETはかつてスマートホームを一軒まるごと購入し、それを製品テストに使用していた。その後、Red VenturesがCNETを買収し、家を売却して雰囲気レビューに切り替えても、Googleは気づきもしないだろうと賭けた。彼らは正しかった。

https://www.cnet.com/home/smart-home/welcome-to-the-cnet-smart-home/

GoogleはHousefreshやGearLabのようなレビューに時間とお金をかけるサイトの順位を下げ、代わりにBH&Gのようなボットのクソ(botshit)の粗製乱造サイトを我々の目に突っ込んでくる。

1558年、トーマス・グレシャムはグレシャムの法則を唱えた。「悪貨は良貨を駆逐する」。偽造通貨が経済の中で流通すると、怪しいコインを手に入れた者は、できるだけ早くそれを使おうとする。なぜなら、それを持っている期間が長ければ長いほど、誰かが詐欺を見抜いてそのコインが無価値になる可能性が高くなるからだ。このシステムを十分な期間運用すれば、流通している通貨はすべてニセモノになる。

Googleによって運営されるインターネットには、独自のグレシャムの法則がある。悪いサイトが良いサイトを駆逐するのだ。BH&Gは、不十分なテストや全くテストをしないという単純な方法論で、Housefreshよりはるかに低コストで製品を「テスト」できるだけでなく、はるかに多くのコンテンツを提供できる。しかし、それだけでは、Googleの検索結果の最初のページからHousefreshを追い出すことはできない。そのために、BH&Gはテストでケチった資金の一部を、本当に厳格な科学に投入しなければならない。Googleの「曖昧さによるセキュリティ」システムを出し抜くための科学だ。そうして、役に立たない最悪なナンセンスを公開しているにもかかわらず、検索トップページを支配することができているのである。

Googleはスパム戦争に敗れた。Google検索結果に詰まったボットのクソの大量発生に対処すべく、同社は…より多くのボットシットを作ることに投資した。

https://pluralistic.net/2023/02/16/tweedledumber/#easily-spooked

昨年、Googleは700億ドルの自社株買いを行い、12,000人の従業員をレイオフした(自社株買いに費やした金額で、解雇した従業員の賃金27年間を賄えた)。そして、さらに数千人の従業員をレイオフしたばかりだ。

それは約束と違う。約束は、Googleが独占権を得て、独占的レントをつぎ込んで、「I’m feeling lucky」をクリックするだけで、クエリに対する最良の回答にテレポートできるほど優れたものになるというものだった。Better Homes and Gardensのような詐欺と、Housefreshのような厳格なレビューサイトの違いを見分けられない企業は、この問題を解決するためにこそ余剰をすべて注ぎ込まなければならない。我々が他の検索エンジンを試さないようにするために、あらゆるプラットフォームのデフォルト検索エンジンの座のために毎年260億ドルを無駄に費やすのではなく、自分たちのクソを直すべきなのだ。

Googleがこうした未熟なスパム農家との戦いに敗北を認めるとき、実に苛立たしく感じる。Googleが我々に他の選択肢を試させないために年間260億ドルを無駄にしているとき、それは非常に苛立たしく感じる。彼らが700億ドルを金融工学に蒸発させ、10人に1人のエンジニアを解雇するとき、そいつはもはや言語道断だ。

Googleの規模は確かにビジネス物理学の法則を超越している。彼らは際限なく劣化を続ける製品を売りつけて、我々の経済でますます大きなシェアを掌握できる。一方で、彼らの無能さは、まともで正直な企業を不当に扱い、詐欺師に肥沃な土壌と無限の誘惑を提供しているのである。

Pluralistic: Google reneged on the monopolistic bargain; The Bezzle excerpt (Part IV) (21 Feb 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 21, 2024
Translation: heatwave_p2p