以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Fintech bullies stole your kid’s lunch money」という記事を翻訳したものである。
学校給食の支払いシステム市場は3社に牛耳られている。貧困家庭の親が1ドル入金するごとに最大60セントを搾取し、年間1億ドルもの利益を上げている。文字通り、貧しい子どもたちの給食費を盗んでいるのだ。
消費者金融保護局(CFPB)の最新報告書は、この詐欺まがいの行為をつまびらかにしている。
この報告書は、2万5000校、1670万人のK-12(幼稚園から高校まで)の生徒を対象にしている。その結果、学校の87%が食堂の決済を外部業者に委託しており、キャッシュレス化が急速に進んでいることが明らかになった。この市場を独占しているのが、Myschoolbucks、Schoolcafé、Linq Connectの3社だ。
これらの企業は通常のクレジットカード決済業者ではない。多くの生徒がクレジットカードを持っていないため、刑務所の売店口座のような仕組みで、子どもたちが口座を開設し、家族が現金をチャージできるようにしている。そして、刑務所の売店口座と同様に、家族が口座にお金を入れるたびに、決済業者は手数料という名目で法外なジャンクフィーを搾取しているのだ。
https://pluralistic.net/2024/02/14/minnesota-nice/#shitty-technology-adoption-curve
減額給食の対象となる子どもの親(つまり、貧困家庭)である場合、子どもの口座に入金された金額の約60%が、手数料という名目で決済業者の懐に消えてしまう。
貧困であることには多くの出費が伴うが、これも例外ではない。給食補助の対象にならない子どもの場合でも、約8%の手数料が取られている(これですらクレジットカード会社の決済手数料の3倍だ)。
この格差が生まれる理由は、手数料の計算方法にある。決済業者は入金のたびに定額の手数料を徴収する。しかし、貧困家庭は年度や学期の始めに一括で支払うことができず、給料日ごとに少額ずつ入金せざるを得ない。そのため月に2回(あるいはそれ以上の頻度で)手数料をとられることになる。
問題は3社による市場独占だけではない。学区も親も、まともな選択肢がないのだ。学区にとって、決済処理は学生データ管理や人事データ処理などと一緒にパッケージ化されている。親が別の決済業者を選ぶことはできず、学区が選んだ業者を使うしかないのだ。
これらはすべて違法だ。減額給食プログラムを提供・規制するUSDAは、学校が給食提供に手数料を課すことを禁じている。USDA規則では、学校は子どもたちが現金で支払うことを認め、手数料なしで学校で現金チャージができるようにしなければならない。USDAは繰り返し(2014年、2017年)これらの規則を公表している。
にもかかわらず、多くの学校は安全性とセキュリティを理由に現金の取り扱いを拒否している。現金や小切手を受け付けている学校でさえ、そのことをきちんと周知していないケースが多い。
USDAはまた、学校に決済業者が請求する手数料を公表することを義務付けているが、調査対象の多くの学区がこの規則に違反している。手数料を公表している学校でも、0.26〜0.50ドルの費用しかかからないACH送金に最大3.25ドルもの手数料を課したり、通常であれば1.5%のデビット/クレジットカード取引に4.58%もの手数料を課している。さらに、多くの決済業者は、プログラムへの登録時に一回限りの手数料を取ったり、兄弟姉妹間の資金移動に「便利料(convenience fees)」を請求している。ご丁寧にも、年間を通じて複数回の手数料を支払わせるために、最高額も設定しているのだ。
これらは典型的なゴミ手数料(junk fee)だ。マット・ストーラーの言葉を借りれば、「便利ではない『便利料』や、サービスのない『サービス料』」だ。こうした手数料がゴミ手数料の定義に当てはまるもう一つの点は、取引の最後に計算され、事前に明示されないことだ。
他のゴミ手数料を徴収する企業と同様、学校の決済業者も自動定期支払いの解約を極めて難しくしている。返金を受けるのも一苦労で、実際に返金されるまでには長い時間がかかる。
この報告書は、USDAや学者、ジャーナリストでも作成できたはずだ。しかし、CFPBが作成したことに大きな意味がある。なぜなら、CFPBにはこの問題に対処する能力と意志、そして権限があるからだ。
CFPBは強力な規制当局として、一般のアメリカ人の利益を実質的に守る取り組みを行ってきた。例えば、ロックダウン中には立ち退き禁止令に違反した悪徳家主に対処した。
https://pluralistic.net/2021/04/20/euthanize-rentier-enablers/#cfpb
また、雇用主がペイデイローン業者と結託して従業員を年利300%の借金地獄に陥れる「給与前払いアクセス」プログラムとも戦った。
https://pluralistic.net/2023/05/01/usury/#tech-exceptionalism
さらに、銀行に対して口座の移動をワンクリックで可能にすることを義務付けている。これには支払い履歴、登録済みの受取人、自動支払いなどすべての情報が含まれる。加えて、口座データを分析し、最適な取引条件を提供する銀行を教えてくれるサイトを立ち上げてもいる。
https://pluralistic.net/2023/10/21/let-my-dollars-go/#personal-financial-data-rights
借り手保護規則を無視する「今買って、後で払う」企業の追及したり、常習的な企業犯罪者リストを作成し、細字の抜け穴条項の禁止なども行っている。これらの取り組みは、CFPBの権限を認める7対2の最高裁判決の後に加速している。
https://pluralistic.net/2024/06/10/getting-things-done/#deliverism
CFPBには、3つの巨大フィンテック企業による年間1億ドルもの給食代の搾取から、米国の貧困層の親子を守る力がある。そして、実際に行動を起こすだろう。
しかし、カマラ・ハリス政権下でも同様の姿勢が維持されるかは不透明だ。ハリスはこれまで、バイデン政権下のCFPB、司法省反トラスト局、FTCによる企業不正への取り組みを高く評価してきた。その一方で、彼女の有力支援者の中には、これらの機関のトップの解任と政策の転換を要求する声もある。
https://prospect.org/power/2024-07-26-corporate-wishcasting-attack-lina-khan
例えば、ハリスの選挙運動や支援団体に巨額の寄付を行っているリード・ホフマンのような億万長者たち。ホフマンは、FTC委員長のリナ・カーンが「アメリカのビジネスに戦争を仕掛けている」と批判している。
https://prospect.org/power/2024-07-26-corporate-wishcasting-attack-lina-khan
さらに、民主党の裕福な大口寄付者の一部は「フィナンシャル・タイムズ」紙に対し、ハリスがカーンを解任することを条件に寄付を行っており、その保証を得ていると語っている。
これが実現すれば、米国にとっても、ハリスの選挙戦にとっても大きな打撃となるだろう。ハリスと彼女の側近たちがこの状況を理解していることを願うばかりだ。
ハミルトン・ノーランは「How Things Work」ニュースレターで、労働組合がFTC、CFPB、司法省の反トラスト活動への支持を公に表明すべきだと主張している。
https://www.hamiltonnolan.com/p/unions-and-antitrust-are-peanut-butter
「巨大企業とその愚かな億万長者のボスたちに世界を牛耳らせたくない? ならば彼らを分割し、労働者を組織化しろ。これが我々の最善の戦略だ」
反トラスト法は労働者の敵だと思っている人もいるかもしれない。確かに、過去には労働運動を抑圧するために使われてきた。しかし、それは常に法の本来の意図に反するものだった。実際、米国の反トラスト法の歴史を紐解けば、議会が「ドルを狙うもので、人を狙うものではない」ことを繰り返し強調してきたことがわかる。
https://pluralistic.net/2023/04/14/aiming-at-dollars/#not-men
民主党はただの「反トランプ」の党以上の存在にならなければならない。党として、そして米国人の未来を守る勢力として成功するためには、労働者、親、子ども、退職者など、すべての人々を企業の搾取から守る党にならなければならないのだ。
(Image: Cryteria, CC BY 3.0, modified)
Pluralistic: Fintech bullies stole your kid’s lunch money (26 Jul 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: July 26, 2024
Translation: heatwave_p2p