以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「You should be using an RSS reader」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

システムが引き起こす問題を解決するために、個人としてできることはない。どれほどそうあってほしいと願っても、悲しいかなそれが現実だ。例えば、個人としてリサイクルに勤しんだところで、気候危機を好転させる影響を与えることはできない。

理解はできる。よく「メタクソ化(enshittification)と戦うにはどうしたらいいか」、「せめて自分が経験するメタクソ化の影響を軽減するために、生活の中で何かできることはあるか」と聞かれる。

もどかしいが、私の答えは基本的にこうだ。「運動に参加しよう。労働組合や、EFF、FSFに関わろう。たとえ億万長者の民主党支持者からリナ・カーンを解雇するよう求められても、彼女を擁護するよう候補者に伝えよう。システムを変えるために何かをしよう。」

消費者としてできることはほとんどない。買い物という行為を通じて独占資本主義から逃れることはできない。いまやAmazonがほとんどの実店舗とデジタル店舗を駆逐してしまったのだ。Amazonのボイコットは、買い物そのもののボイコットにもなりかねない。TwitterやFacebookから離脱しようにも、克服困難な集団行動の問題を抱えている。愛する人々や頼りにする人々、みんなが互いを思いやり、プラットフォームを嫌っているのに、いつ、どこに移るのかについて合意形成するハードルはあまりにも高く、結局そこに留まることを余儀なくされている。

最近、私生活でいくつか耐え難い経験したせいで、昨日はいつもの気分転換のポッドキャストに耐えられなくなってしまった。そこで気分転換に、XOXOの最新回の動画を見ることにした。

https://www.youtube.com/@xoxofest

その選択は正解だった。ダン・オルソン、ケーベル・サッサー、エド・ヨンらの講演、とりわけモリー・ホワイトの講演だ。

https://www.youtube.com/watch?v=MTaeVVAvk-c

モリーの講演は本当に素晴らしかったのだが、彼女が行動を呼びかける場面で、少し顔をしかめてしまった。

「しかし、プラットフォームは人々なしでは存在できません。そして、我々の方が彼らよりもはるかに多い。プラットフォームは自らを権力の座に据えていますが、同時に脆弱でもあるのです…」

プラットフォームは本当にそんなに脆弱なのだろうか? 集団行動の問題は極めて解決困難で、スイッチングコストはべらぼうに高い。「我々の方が彼らよりもはるかに多い」という事実は、利点ではなくむしろ欠点なのかもしれない。結局のところ、人数が多ければ多いほど、集団としての合意形成は難しくなり、スイッチングコストは高くなる。

そうこう考えていると、ある気づきがあった。モリーの素晴らしい仕事を見るに至った手段は、完全にメタクソ化耐性があり、使えば使うほど、誰にとってもメタクソ化から逃れやすくしてくれるものだ。

特定のプラットフォームに縛られることなく、ほぼすべてのインターネットで機能する。監視に強く、ウェブやモバイルアプリのインターフェースよりもはるかにアクセスしやすい。私が密かに持っていたスーパーパワーだ。

その名もRSS。

RSS(「Really Simple Syndication」など複数の定義を持つ古代インターネットの略語の1つ)は、インターネットに接続されたシステムが「フィード」を配信するための、目に見えない自動的な仕組みだ。たとえばWiredのホームページを毎日チェックして新着記事を探す(レイアウトのせいで、これがとても面倒なのだが!)代わりに、WiredのRSSフィードを購読すれば、RSSリーダーが自動的にサイトをモニターし、新しい記事が公開されたらすぐに知らせてくれる。Wiredは各記事から約600単語をフィードに流しており、通常の記事を読むときの邪魔な要素もすべて取り除かれている。20秒間も待たされる購読案内のポップアップもなければ、好みのフォントとサイズでテキストを読める。クッキーなしでWiredのフィードをフォローでき、Wired側もどの記事を読んだのかを知ることはできない。そもそも、フィードを見ている人が誰なのかすら把握できない。

Wiredを例に取り上げたが、他のサイトでも同じだ。私がフォローしているすべてのニュースソース、たとえばCNNからNew York Timesにも当てはまる。しかし、RSSはニュースだけでなく、あらゆるコンテンツに最適だ! 友人のブログ? どのブログプラットフォームも、デフォルトでRSSフィードを提供している。すべてをRSSリーダーでフォローすればいい。

ブログだけじゃない。たくさんのSubstackライターやニュースレターをフォローかもしれない。それも全部 RSSフィードを吐き出している。それらのニュースレターを、ホスティングプラットフォームの分析に晒されることなく閲覧できるし、テキストは黒と白で表示される(これらのプラットフォームがデフォルトで採用する残酷な8ポイント、白地に80%グレーのフォントではなく)。メールプロバイダがニュースレターをスパムと誤分類することもないので、確実に 届く。

https://pluralistic.net/2021/10/10/dead-letters/

デフォルトでは、あなたに届いたメールがメールの閲覧情報をメーリングリストプラットフォームに送信していることをご存知だろうか。プラットフォームは、メッセージを開封したかどうか、さらにはどこまで読んだかさえ知ることができる。それに加えて、ブラウザやアプリが漏らすすべてのプライベート情報(位置情報を含む)も取得される。これはとんでもなく不快な話だが、RSSで読めば、これらすべてから解放されるのだ。。

友人たちはニュースレターを長すぎると感じ、ソーシャルメディアで手短に発信するのを好むかもしれない。残念ながら、Insta/FB/TwitterからRSSフィードを取得するのは難しいが、新たに登場したプラットフォームにはすべてフィードがある。どのMastodonアカウント(つまりThreadsアカウント)もRSSでフォローできるし、Blueskyも同様だ。TumblrやMediumのような古参プラットフォームもそう。Hacker NewsにもRSSがあり、各ストーリーのコメントもサブフィードとして提供されている。待ちわびているFedex、UPS、USPSの小包だってRSSフィードで追跡できる。

地元の政治家のウェブサイトにもたいていRSSフィードがある。州や国の代表者も同様だ。各連邦機関にもRSSフィードがある(FCCのブログはずばらしいぞ!)。

RSSリーダーでは、これらのフィードを好きなようにフォルダ分けできる。キーワードや「更新頻度の低いサイト」といった条件で、自動的にフォルダを作ることも可能だ。年に数回しか更新しない人々(えーと、ダニー・オブライエンさん、コホン)をRSSでフォローしているが、投稿を見逃したことは一度もない。

RSSリーダーには(必ずしも)アルゴリズムがない。デフォルトでは、すべてが単純に時系列の逆順で表示される。

何かを思い出させないだろうか? そう、これはメタクソ化される以前のソーシャルメディアだ。RSSに切り替えるだけで、FacebookやTwitterが広告や金でブーストされたコンテンツを押し付けてくる以前の、あなたが見たいと望んだものを表示することを優先していた時代に戻り、事実上あらゆるウェブ体験をそれ単独で脱メタクソ化してくれる。

とはいえ、あまりに多くのフィードを購読してしまい、投稿に優先順位をつけたり、コンテンツを推奨するアルゴリズムが欲しくなることもあるだろう。多くのRSSリーダーには何らかのアルゴリズムと推奨システムがある(私が使っているNewsにもその機能はあるが、使っていない――整理されていない大量のフィードがもたらす混沌が好きなのだ)。

だが、アルゴリズムをコントロールするのはあなた自身であり、推奨をコントロールするのもあなた自身だ。試してみたいアルゴリズムを備えた新しいRSSリーダーが登場したなら、ワンクリックでフォローしているすべてのフィードをOPMLファイルでエクスポートできる。そのOPMLファイルはワンクリックで他のどのRSSリーダーにもインポートできるので、すべてのフィードをシームレスに移行できる。古いアカウントを削除してもいいし、用途に応じて複数のリーダーを使い分けてもいい。

RSSはブラウザでもスマートフォンのアプリでもアクセスできるし(ほとんどのRSSリーダーがアプリを提供している)、同期もする。つまり、スマートフォンで「後で読む」ボタンを押した記事は、次にブラウザでリーダーを開いたときに待っていて、同じ記事を二度見ることはない(必要なら未読に戻すこともできる)。

RSSは、ソーシャルメディアが機能すべきように機能する。RSSを使うことは、プラットフォームに権力が集中せず、すべての力が送り手(何を公開するかを自由に決定できる)と受け手(個人情報を漏らすことなく、読む内容とその方法を完全にコントロールできる)に与えられるユートピアの未来を垣間見せてくれる。

そして、ここが最高の部分だ。RSSを使うたびに、その世界の実現に近づくのだ! あなたが大切にする送り手、友人、政治家、企業が直面している集団行動の問題は、彼らがリーチしたい相手がすべてプラットフォーム上に囲い込まれているために、そこを離脱すればそのコミュニティを失うという事実によって生じている。だが、RSSで彼らをフォローする人が増えれば増えるほど、彼らのプラットフォームへの依存度は確実に下がっていく。

広く使用されているプラットフォームに対する、ほとんど効果のない見せかけのボイコットとは異なり、RSSへのスイッチングは何かも諦めなくていい。RSSに切り替えれば、現在フォローするすべてのニュースレター、ウェブページ、ソーシャルメディアアカウントを引き続きフォローできるだけでなく、その体験をより良くできる。よりプライベートで、よりアクセスしやすく、よりメタクソ化されていない方法で。

RSSへの切り替えにより、メタクソ化されたインターネットの良い部分だけを体験できる。しかもその体験は、我々全員が切望する新しき良きインターネットの方法で提供されるのだ。

私のニュースレターも、RSSで全文を配信している。これをMastodonやTwitterのスレッド、Tumblrや Medium、あるいはメールで読んでいるなら、RSSに切り替えることができる。

https://pluralistic.net/feed

どのRSSリーダーから始めるかはさして重要ではない。文字通り、どれでも構わない。たった2回のクリックで、購読したすべてのフィードを携えたままリーダーを乗り換えられるのだから。 もしどうしてもオススメが聞きたいなら、私が2011年以来(!)月額2ドルを払い続けているNewsblurをおすすめしよう。

https://newsblur.com

RSSフィードのリンクはウェブページに見えないかたちで埋め込まれている。ウェブページのURLをRSSリーダーの「フィードを追加」ボックスに貼り付けるだけで、フィードの場所を自動的に検出し、購読リストに追加してくれる。

新しき良きインターネットを実現するには、集団行動の問題や法的障壁を克服する運動が必要だ。個人の行動だけでは、ほとんど何も変えられない。

だが、RSSは違う! あなたにとって大切な情報をRSSでフォローすれば、あなた自身のデジタルライフに即座に、そして確実に良い影響をもたらしてくれるだろう。

Pluralistic: You should be using an RSS reader (16 Oct 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: October 16, 2024
Translation: heatwave_p2p