以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Predicting the present」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

2018年、米国市民権申請について移民弁護士に相談していた頃、私は『Radicalized(ラディカライズド)』という短編小説の執筆を始めた。この作品は2019年に出版された短編集のタイトル作品となった。

https://us.macmillan.com/books/9781250228598/radicalized/

『Radicalized』は、米国と銃、医療、そして暴力についての物語だ。私は バーバンク(訳注:カリフォルニア州の都市)に住んでいる。ここは米国で人口あたりの銃器店数が2番目に多い町で、隣接するロサンゼルス市の規制が厳しいため、ある種の規制裁定の結果そうなっている。銃が欲しいロサンゼルス市民は、まず バーバンクを訪れるだろう。

カナダ人として生涯見たことがないほど多くの銃器店の前を歩き、自転車で通り、車で見かけながら、私は米国人と銃について考えるようになった。これは多くのカナダ人が考えてきたテーマだ。米国人は世界中の誰もが困惑するほどの率で、互いを、そして特に自分自身を殺している。それも銃で。私たちが引っ越してきた時、小学校で初めて避難訓練に参加した英国育ちの娘は、困惑し、不安を抱えて帰ってきた。米国の銃による暴力について知っていた私は、学校での銃撃事件や無差別殺人は恐ろしい頻度で起きているが、銃による死亡の中ではほんのわずかに過ぎないことを理解していた。銃で命を落とすのであれば、その引き金を引くのは自分自身である可能性が最も高い。次に可能性が高いのは知人だ。その次が警官である。制服を着ていない他人に撃たれることは――確かに衝撃的で私たちの想像力を捉えるものの――相対的に稀だ。

そこで娘にこう言った。「避難訓練で教えられることは基本的に無視していい。ほぼ確実に君の将来とは関係ない。でも、もし友達が『お父さんの銃を見せてあげようか』と言ってきたら、その場から離れて、すぐに連絡してほしい。その瞬間に、だよ」。

銃は(正直に言えば、誰しもが一度は抱いたことがあるだろう)殺意を殺人へと変える。自殺についても同じことが言える。これが米国で故意による自己発砲が多い理由を説明している。銃があれば、自殺念慮から死までの距離は、ソファからクローゼットの銃までの3メートルしかない。

米国人は人に怒りを覚え、そして手元に銃があれば、時にはその人を撃つ。Redditの/r/Burbankのスレッドで、地元の映画館でのマナーの悪さや携帯電話使用について「そういう人たちには直接やめるように言えばいい」という投稿があった。それに対し「撃たれたいなら、そうするといいよ」という返信があった。誰も「大げさな。映画館の携帯を注意されたくらいで人を撃つヤツなんていないよ」とは言わなかった。「あおり運転(road rage)」でも同じだ。

米国人は怒りを覚えた目の前の相手を撃つこともあれば、世の中に対する漠然とした怒りから計画的に銃撃し、大勢の人を殺すこともある。世の中に怒りを覚えることはまったく理解できる感情だが、こうした銃撃の標的は恣意的だ。時には明確な偏見に基づいた標的――黒人が利用するスーパーマーケットやモスク、シナゴーグ、ゲイバーでの大量殺人――もあるが、ほとんどの場合、(カントリー&ウエスタンのコンサートや小学校、映画館で)銃弾を浴びせられる人々は、銃を持った男(ほぼ常に男性だ)が怒りを抱いている相手とは、ほぼ確実に無関係である。

こうした考えは移民申請の手続きをしている間、ずっと頭から離れなかった。移民関係の書類を書いているときだけではない。私は信じられないほど大量の時間を健康保険会社のCignaとのやり取りに費やした。Cignaは、私の痛み専門医(その分野で最も引用される研究者の一人である)が効果があると考えた治療を次々と拒否し続けた。私は10代の頃から慢性的な痛みを抱えていて、その痛みは悪化する一方だった。カナダでも英国でも何十年も痛みの治療を受けてきた。治療効果は長続きしなかったものの、米国の保険会社との間で経験したような官僚的な問題に直面することは一度もなかった。

Cignaとの何時間にも及ぶ、成果の出ない電話で、私はしばしば文字通り赤い霧が視界を覆うのを感じた。通話が終わる頃には手が震えていた。

それでも、私はずいぶんと恵まれている方だ。末期疾患を患っているわけでもないし、保険会社に治療を拒否された重病や瀕死の子供や配偶者、親に代わって電話をかけていたわけでもないのだから。バーニー・サンダースの2016年のMedicare For All(メディケア・フォー・オール)キャンペーンの公約は、統計(米国人は富裕国の中で最も高額な医療費を支払い、最も悪い結果を得ている)と、数々の物語で空気を満たしていた。心が引き裂かれるような物語――支払っていた保険が子供の治療を拒否したために、文字通り子供が死んでいくのを見守るしかなかった親たちの物語。父親として、そんな状況でどうしたらいいのかなんて、文字通り想像すらできなかった。考えようとするだけで激しい怒りが込み上げてきた。

ある日、痛みを緩和するために通っている道路向かいのコミュニティプールで泳いでいる時、ふと思った。「なぜこの人たちは医療保険会社の幹部を殺さないのだろう?」もちろん、彼らにそうしてほしかったわけではない。誰も誰かを殺すことなんて望んではいない。でも妻や道路で割り込んできた相手、あるいはたまたま侵入した教室にいた子供たちを殺す米国人の男性たちは、なぜ医療保険業界には手を出さないのだろう?この業界は、関わる人々を抑えきれないほどの怒りで満たすように設計されているも同然なのに。つまり、億万長者のCEOが毎年の自社株買いを通常の90億ドルから100億ドルに増やすという決定をしたせいで、目の前で妻や子供が死んでいくのを見させられたのだとしたら、殺人的な怒りを感じたりはしないのだろうか?

その頃、カナダから両親が訪ねてきた。とても楽しい時間を過ごした。ある夜、母が真夜中過ぎに私を起こすまでは。「お父さんを救急に連れていく。本当に具合が悪そうだから」。本当だった。震え、吐き気、発熱に襲われていた。通りを下った地元の病院へ急いだ。この病院は巨大なチェーンの一部で、この地域の1時間圏内にあるほぼすべての医師のクリニックや検査機関、病院を傘下にしていた。

父は腎臓結石で、敗血症を起こしていた。救急医が結石を取り除くと、腎臓に溜まっていた敗血性の汚物が血流に流れ込み、父は容態が急変した。もし救急の回復室にいなかったら、命を落としていただろう。実際、父は3日間も昏睡状態が続き、予断を許さない状態だった。トロントから弟が飛んできた。父との最後の別れになるかもしれないと思ったからだ。看護師と医師たちは父を懸命に助けようとしてくれた。3日後、父は昏睡状態から回復し、今では前よりも元気になったくらいだ。

しかし2日目、父の死の淵に立たされていた時、母が50年連れ添った夫の手を握っていると、病院の請求部門の職員が近づいてきて、こう言った。「ドクトロウ夫人、大変なときだとは存じますが、ご主人の請求書についてご相談があります」。

請求額は17万6000ドルだった。ありがたいことに、オンタリオ教職員組合年金の海外旅行医療保険がすべてをカバーしてくれた(教職員組合年金に怒りを覚える人はいないだろう)。

どうしてこんな理不尽に耐えられるのだろう? これも「こんなふうに挑発されたなら暴力に訴えるべきだ」と言いたいのではなく、「殺人的な残虐行為を平然と行う信じがたい富裕企業とアサルトライフルで溢れた国で、人々はなぜ殺意の衝動から殺人兵器に飛びついて殺人に及ばないのか?」という意味でだ。

私にとって、フィクションを書くことは積み重ねのプロセスである。物語が醸成されていると感じるのは、様々な考えが心の中で揺れ動き、予期せぬ時に浮かんでくるときだ。まるで、迷子の原子が結合できる分子を探しているかのように。私はあらゆる感情を――特にネガティブな感情を――このプロセスを通じて、物語や小説を書くことで処理している。ただ、何かが醸成されつつあることは分かっていたが、まだ材料が足りなかった。

そして、見つけた。「インセル(incel)」という言葉を作った女性へのインタビューだった。Reply Allポッドキャストで、クィアのカナダ人女性、アラナが説明していた。彼女は生涯にわたってロマンティックな関係や性的なパートナーシップを築くことに苦労し、冗談めかして自身を「不本意な禁欲(involuntarily celibate)」、そして「インセル(incel)」と呼ぶようになったと語った。

https://gimletmedia.com/shows/reply-all/76h59o

アラナは他の「インセル」たちが互いをサポートできるメッセージボードを立ち上げ、目覚ましい成功を収めた。アラナのメッセージボードのインセルたちは、愛を見つける妨げとなっている問題を乗り越えために互いに手助けし、そして幸せな生活を見つけるために掲示板から旅立っていった。

それが問題だった、とアラナは言う。たとえば飲酒の問題を抱える人々のサポートグループなら、ベテランのメンバー、つまり古参たちは、問題を解決し、禁酒できた人々だ。メンバーが人生を悲観しているようなら、古参メンバーが励ますために言うのだ。「今は辛いかもしれないけれど、いつかきっと良くなる。私もあなたと同じだったけれど、乗り越えられた。あなたもきっと乗り越えられる。私はあなたのそばにいる。みんながついている。」

しかしアラナのインセルボードでは、古参メンバーは問題を解決できなかった人々だった。彼らは相互のサポートとアドバイスを得ても、求める愛を見つけるために何をすべきかを理解できなかった人々だった。メッセージボードが長く続くにつれ、希望がない、自分たちのような人間には愛は与えられないと確信する人々が支配的になっていった。新参が怒りと絶望の投稿をすると、この「古い存在たち」はそれを歓迎したその通りだ。決して良くならない。むしろ悪化する一方だ。希望なんてない

それが欠けていたピースだった。私の短編小説『Radicalized』が生まれた。Fuck Cancer Right In the Fucking Face(FCKRFF、「ファックリフ」)というメッセージボードに集まる男たちの物語だ。彼らは最愛の人が保険会社によって殺されていくのを目の当たりにし、互いに医療保険会社の従業員や病院の請求部門を標的とした派手な大量殺人をやろうと煽り合う。現在、この物語は無料で読める。ありがたいことに、出版社のMacmillanが、The American Prospectにこの作品の掲載を許可してくれた。

https://prospect.org/culture/books/2024-12-09-radicalized-cory-doctorow-story-health-care

米国最大の医療保険独占企業、Unitedhealthcare(UHC)のブライアン・トンプソンCEOが、ある人物(本稿執筆時点では不明)に暗殺される以前から、この物語についてよく問い合わせがあった。彼の暗殺以降、何百人もの人々から連絡があり、この事件についてどう思うか、これを「予言」していたことをどう感じているかを尋ねてきた。

ここ数日考えてきたが、正直に言って、複雑な心境である。

トンプソンの暗殺について、皮肉めいた、薄ら寒い冗談を見かけることは間違いない。多くの人がUnitedhealthcareを憎んでいるのには、もっともな理由がある。トンプソンは個人として――あるいは承認者として――数え切れないほどの方針を決定し、それによって人々は詐欺まがいの行為で死に追いやられたのだから。

看護師や医師たちもトンプソンとUnitedを憎んでいる。Unitedは金のために人を殺す。パンデミックの最も深刻な時期、同社は政府に8ドルのコロナ検査を1万1000ドルで請求した。

https://pluralistic.net/2020/09/06/137300-pct-markup/#137300-pct-markup

UHCは保険金支払い拒否率32%(!!)で全米をリードしている。米国がGDPの20%を費やしながら、世界で最悪の医療しか得られない理由を理解したいなら、この二つの事実を結びつければいい。人類史上最大の医療保険会社が、政府にコロナ検査を183,300%の上乗せ価格で請求し、そして請求の3分の1を拒否しているのだ。

UHCは垂直統合型の、殺人的な医療利益追求企業である。彼らは米国最大の薬剤給付管理会社(「政治的な力を持ったスプレッドシート」――マット・ストラー)であるOptum(オプタム)を買収した。そしてOptumへのIT投資を絞り、浮かせた資金を株主に回した。その結果、Optumはランサムウェアギャングにハッキングされ、何週間も処方箋が受け取れない事態に陥った。これによって命を落とした人々がいる。

https://www.economicliberties.us/press-release/malicious-threat-actor-accesses-unitedhealth-groups-monopolistic-data-exchange-harming-patients-and-pharmacists/#

皮肉なことに、Optumはハッキングされていなくても十分にひどかった。Optumの目的は、より高額な医薬品を購入させることにあった。それが支払えないなら、死ぬ。Optum――つまりUHC――は人を殺してきた。

https://pluralistic.net/2024/09/23/shield-of-boringness/#some-men-rob-you-with-a-fountain-pen

OptumはUHCの殺人部門の一つに過ぎない。Navihealth(ナビヘルス)もそうだ。これはUnitedが使用するアルゴリズムで、立つことも歩くこともできないほどの病人や怪我人を病院のベッドから追い出すためのものである。医師や看護師は、重篤な患者が病院から追い出されるのを日常的に目にしてきた。たくさんの人が死んだ。UHCは金のために彼らを殺したのだ。

https://prospect.org/health/2024-08-16-steward-bankruptcy-physicians-private-equity

Navihealthによって殺された患者たちは、Medicare Advantageに加入していた。Medicareは米国が高齢者に提供する公的医療制度だが、Medicare AdvantageはMedicareに承認された民間企業のプランで、UHCはこの分野でも全米をリードしている。まぎらわしい広告を大量に流して高齢者をだまし、UHCのMedicare Advantageに加入させてきた。加入した高齢者たちは、かかりつけ医や専門医にかかれなくなり、薬代で数百、数千ドルを支払わなければならず、「無料」のはずの救急車サービスに400ドルを請求されることになった。

https://prospect.org/health/2024-12-05-manhattan-medicare-murder-mystery

通常のMedicareよりも、Medicare Advantageに公的資金が22%多く投入されているのも、なんら不思議ではない。

https://theconversation.com/taxpayers-spend-22-more-per-patient-to-support-medicare-advantage-the-private-alternative-to-medicare-that-promised-to-cost-less-241997

高齢者だけではない。依存症患者やメンタルヘルスの問題を抱える人々も同様だ。UHCは精神疾患や薬物依存の治療の保険適用を違法に拒否している。給料から数千ドルの保険料が天引きされているのに、健康保険会社が治療を拒否したせいで、家族が手に負えなくなり、過剰摂取で命を落とし、あるいは幻覚に苦しみながらホームレスになっていく様を見させられている。

https://www.startribune.com/unitedhealthcare-will-pay-15-7m-in-settlement-of-denial-of-care-charges/600087607

当然のことながら、UHC内部の企業文化は想像を絶するほどに冷酷だ。そうでなきゃ、こんな仕事できるはずがない。人を殺すことになる仕事を続けるのなら、犠牲者たちを非人間化するしかない。UHCの治療拒否を訴えた慢性疾患患者の訴訟で、UHC従業員たちの通話音声が明らかになった。拒否された請求を大声で笑い、患者の涙ながらの必死の嘆願を「かんしゃく」だと一蹴する通話音声だった。

https://www.propublica.org/article/unitedhealth-healthcare-insurance-denial-ulcerative-colitis

もちろん、UHC従業員たちは自分の生活のために働いているだけだ。そしてその仕事を続けるために身につけた冷酷さは、先週の殺人事件で剥がれ落ちた。UHCの幹部たちもそれを理解しているようで、従業員たちが自身の恐ろしい体験を外部に話すことを阻止しようと躍起になっている。トンプソンの死に関する社内アナウンスを1万6000人の従業員が見たにもかかわらず、コメントを残したのはわずか28人だったという事実についてさえ言及を禁じている。

https://www.kenklippenstein.com/p/unitedhealthcare-tells-employees

医師や看護師たちは患者を思ってUHCを憎んでいるが、加えて個人的な理由もある。UHCは支払いを拒否し、何ヶ月も、時には何年も支払いを遅らせてクリニックを苦しめ、支払いが滞っている期間の生活を支えるためにペイデイ(給与担保)ローンを提案してきたのだ。

https://www.youtube.com/watch?v=frr4wuvAB6U

410億ドルの企業を率い、これらすべてを実行した年収1000万ドルのCEOの暗殺について、Redditの看護師フォーラムでは冷淡で、満足げな冗談が溢れている。驚くようなことだろうか。

https://www.thedailybeast.com/leading-medical-subreddit-deletes-thread-on-unitedhealthcare-ceos-murder-after-users-slam-his-record

路上で誰かが殺害されたとき、それがどのような人物であろうと、シャーデンフロイデ(訳注:他人の不幸や失敗を喜ぶ感情、メシウマ)を感じたり、ましてやそれを表現することはよしとはされない。政治的暴力には恐怖を表明すべきだとされる。たとえその暴力が、トンプソンの指揮下でUHCが生み出した死者数のほんの一部にすぎない、たった一人の命しか奪っていない場合でも。マルコム・ハリスが述べたように、「保険適用の拒否で知られる医療保険会社のCEOについて『すべての命は尊い』などと言う物言いは、実に馬鹿げている」。

https://twitter.com/BigMeanInternet/status/1864471932386623753

ウディ・ガスリーが書いたように、「ある者は拳銃で奪い/ある者は万年筆で奪う」。凶器が拳銃か保険会社であったなら、致命的である。保険会社は単に責任の空洞化(accountability sink)、つまり誰もが直接的な殺人者になることなく人を殺す間接的なレイヤとして機能しているにすぎない。

https://profilebooks.com/work/the-unaccountability-machine

保険会社の幹部が殺されてほしいとは思わないし、保険会社の幹部に人々を殺してほしくもない。だが、この事件が起きたことに驚きはない。むしろ、これほど時間がかかったことに驚いている。人を激怒させる組織を運営していれば、やがて人々はあなたに怒りを向けるようになる――それは当然のことだ。トマス・ピケティの『21世紀の資本』の主張そのものだ。富の集中は腐敗につながり、それは不安定化を招く。長い目で見れば、自宅の芝生にギロチンを設置させないように警備員を雇うよりも、公正な社会を運営する方が安上がりなのだ。

https://memex.craphound.com/2014/06/24/thomas-pikettys-capital-in-the-21st-century/

しかし私たちは過去40年間、それとは正反対の方向に突き進んできた。独占、不平等、腐敗を最大化し、これをおかしい、不公正だと批判する大衆をガスライティングしてきた。2022年、UHCがChange Healthcareを買収しようとした時(Change Healthcareは病院の支払い処理を支配するネットワークで、これによってUHCはすべての競合他社の支払いを監視できるようになる)、司法省は合併を阻止しようと訴訟を起こした。トランプ政権によって任命され、数万ドル相当のUHC社債を所有していたカール・ニコルズ判事は、司法省の訴えを退け、UHCには「信頼と誠実の文化」があり、すべてはうまくいくだろうと述べた。

https://www.thebignewsletter.com/p/the-antitrust-shooting-war-has-started

トンプソン殺害の容疑者についてはまだ多くのことが分かっていないが、彼はすでにフォークヒーロー(民衆のヒーロー)となりつつある。ニューヨーク市ではそっくりさんコンテストが開催され、

https://twitter.com/CollinRugg/status/1865472577478553976

巨大グラフィティには、彼を称え、トンプソンを殺すのに使った銃弾の薬莢にあった言葉「delay, deny, depose(遅延、拒否、追放)」が書かれた。

https://www.tumblr.com/radicalgraff/769193188403675136/killin-fuckin-ceos-freight-graff-in-the-bay

これを不快に感じるのはわかる。トンプソンは子供たちを愛する「家族思いの人」だったそうで、それを疑う理由もない。妻や子供たちが悲嘆に暮れていることは想像に難くない。生きている人は誰もが、数十人、数百人もの人々が育て、愛情を注ぎ、世話をするという大きなプロジェクトの頂点にいる。私はこれを小説『Walkaway』で書いた。登場人物たちが、自分たちを殺すために送り込まれた傭兵を捕虜にし、処刑すべきかどうかついて考える場面だ。

彼女には両親がいた。彼女を愛する人々がいた。人間は誰もが、強烈な感情的・物質的投資の超密度ノードだ。話せるということは、誰かが何千時間もかけてあなたに話しかけたということだ。あの引き締まった筋肉、命令口調の響き――それらインプットは世界中からもたらされ、大切に束ねられていった。傭兵は一人の人間以上の存在だ。宇宙船の打ち上げのように、それは数千人の熟練者、何世代もの専門家、戦争、条約、学問、サプライチェーン・マネジメントの上に成り立っている。その一人ひとりが、そのすべてだった。

しかし多くの場合、「フォークヒーロー」の方程式は「殺人+時間」である。あなたを恐怖に陥れる人々を恐怖に陥れる者があなたのヒーローとなり、やがて我々はその死を美化し、正義の闘士としてのみ記憶するようになる。そんなわけがないと思うなら、ロビン・フッドの伝説を考えてみればいい。

https://twitter.com/mcmansionhell/status/1865554985842352501

保険業界は明らかに、私の物語『Radicalized』のように、この一人の殺人者が他の人々を派手な暴力行為に駆り立てるフォークヒーローとなることを恐れ、抑え込もうとしている。彼らはトンプソンの死を喜ぶのは不適切だと言う。その通りではあるが、それは明らかに敗者の戦略だ。保険業界には、その死が嘆かわしく思えるが驚くに値しない人々で溢れている。クラレンス・ダロウはこう言っている。

私は誰かの死を願ったことはないが、訃報を大きな喜びをもって読んだことはある。

殺人は決して答えではない。殺人は腐敗に抗う健全な反応ではない。しかし、強欲さによって人を殺せば、自分の身の安全が脅かされるという恐れを抱くことは健全なことだ。12月5日――トンプソンが殺害された翌日――健康保険会社のAnthemは、予定時間を超過した医療処置の麻酔費用を支払わないと発表した。翌日、彼らは「抗議」を受けて、その方針を撤回した。

https://www.cnn.com/2024/12/05/health/anthem-blue-cross-blue-shield-anesthesia-claim-limits/index.html

もしかしたら評判を損なうことへの恐れが、この非人道的で、嫌悪感を催す、殺人的な方針を撤回させたのかもしれない。しかし幹部の誰かが、この方針を実施した場合にAnthem幹部全員の警備強化に必要な費用が利益を上回ることに気づき、結局損失につながると判断したのかもしれない。

病院幹部のラルフ・デ・ラ・トーレについて考えてみよう。彼は利益を追求するために患者を殺したことを議会で元気よく証言した。デ・ラ・トーレは自分の行動がもたらすいかなる結果をも恐れていない。彼の所有する病院には何万匹ものコウモリが住み(害虫駆除業者への支払いを滞納した)、エレベーターはすべて故障し(修理業者への支払いを滞納した)、薬剤も血液もなく(サプライヤへの支払いを滞納した)、医師や看護師は家賃も払えない状態だ(彼らへの給与支払いを滞納した)。デ・ラ・トーレは病院を所有しているだけでなく、2艘のスーパーヨットも所有している。

https://pluralistic.net/2024/02/28/5000-bats/#charnel-house

ラルフ・デ・ラ・トーレがもう1艘のスーパーヨットを買うために、数多くの人々が母親、息子、妻、夫を失い、その人々がアサルトライフルを買える国に住んでいながら、デ・ラ・トーレが地下シェルターに住み、戦車で移動せずに済んでいるのは奇跡だ。

正直なところ、これはある意味、美しい奇跡だ。その奇跡は私が後に市民権を得ることになるこの国の人々が、銃弾ではなく政治によって問題を解決すべきだという広く共有された信念に由来するものだと思いたい。

だが、ブライアン・トンプソンの暗殺は警鐘である。この問題を政治的に解決しなければ、暴力による解決を選ばざるをえなくなるかもしれないという警告だ。『Radicalized』の登場人物が言ったように。「暴力は何も解決しないと言われる。でも『The Onion』の言葉を借りれば、それは人類の歴史すべてを見なかったことにした場合に限っての話だ」。

https://prospect.org/culture/books/2024-12-09-radicalized-cory-doctorow-story-health-care

Pluralistic: Predicting the present (09 Dec 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: December 9, 2024
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: Monopoly