以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The housing emergency and the second Trump term」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

2024年の選挙をめぐる検証と責任追及の声が渦巻くなか、ある説明が重みを増している。米国の住宅危機だ。国民に住まいを提供できない社会システムは、当然ながら存続の正当性を失う。

米国の住宅問題は何十年も前から危機的状況にあったが、その深刻さは増す一方だ。米国民は史上最悪の住環境に、過去最高の費用を支払い続けている。目を覆いたくなるような、怒りすら覚えるホームレス問題の現状。我々は空気や食べ物、水に次いで人間の生存に不可欠な住居すら、資産としてほぼ完全に市場原理に委ねてしまった。その結果、今や国全体を蝕む危機となって我々の前に立ちはだかっているのだ。

トランプ政権に住宅問題への有効な処方箋はない。いや、正確には処方箋らしきものはあるが、どれも「悪手の詰め合わせ」とで呼ぶべき代物だ。トランプは1100万人の不法移民とその家族(市民権保持者やグリーンカード保持者を含む)の国外追放を目論んでいる(まとめて追放しないと「家族が分断」することになり、それは残酷だ、という理由で)。銃を突きつけて収容所に入れ、命の危険がある国へ強制送還することで住宅問題を解決しようなどという非人道的な発想はさておき、これでは住宅危機は解決には程遠く、数百万戸の住宅不足の解消は望むべくもない。

彼らが掲げるもう一つの解決策は、規制緩和と減税という古典的な処方箋だ。我々はこのシナリオを以前にも見たことがある――まさにR指定のホラー映画そのものだ。金融規制緩和は投機的な住宅ローン市場を生み出し、2008年の住宅危機を招いた。熟練工は引退や転職を余儀なくされ、住宅建設会社は次々と市場から撤退した。米国の新築住宅建設は取り返しのつかないほどの打撃を受けた。破産した中小企業の残骸を飲み込んだ独占企業への巨額減税は、皮肉にもより少ない住宅を建設することでより大きな利益を上げる新たな住宅王たちを12人も生み出すこととなった。

https://www.fastcompany.com/91198443/housing-market-wall-streets-big-housing-market-bet-has-created-12-new-billionaires

システムの破綻は明らかだ。ホームレスは増加の一途をたどっている。トランプ政権の唯一の対策は、ホームレスであること自体を犯罪とし、路上生活者を強制排除し、「浮浪」(つまり公共空間に存在すること)を理由に逮捕することだけだ。それでホームレスが減るわけもない。家を失った人々は地面に穴を掘って入り、その上から土をかぶせて消えてなくなるわけではないのだ。むしろ、強制排除や逮捕は、ホームレスの人々が住居を得るために不可欠な所持品、薬、そして生活の安定性を奪い去ることで、問題をさらに深刻化させる

今日、The American Prospectは住宅危機に関する素晴らしい特集を公開した。連邦政府が問題を悪化させようとしているこの状況下でも機能する、実証済みの解決策を示すとともに、危機の本質を鋭くえぐっている。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-12-11-tackling-the-housing-crisis

ハリス陣営はバイデンの経済政策実績を掲げ、インフレを抑え込んだと強調した。確かにバイデン政権は独占企業と強欲インフレに行動を起こし、Realpageのような違法な価格操作を行う企業も追及した。Realpageはフェニックスなど大都市圏で大家たちと共謀し、家賃を不当に操作していた。

https://www.azag.gov/press-release/attorney-general-mayes-sues-realpage-and-residential-landlords-illegal-price-fixing

だが、インフレの抑制と価格の抑制は別物だ。前者は価格の上昇速度を緩やかにするだけにすぎない。確かに多くの分野でインフレは大幅に鈍化したが、住宅分野はそうはなっていない。むしろ、住宅のインフレは加速している

https://www.latimes.com/opinion/story/2024-03-08/inflation-housing-shortage-economy-cpi-fed-interest-rate

住宅危機は、社会のあらゆる問題を悪化させている。これまでブルーステートだった州で、民主党が議席を失いつつある。市民が大都市から流出しているためだ。都市生活が嫌になって出ていくわけではない。文字通り、家賃を払い続けることができなくなったからだ。トランスジェンダーやゲイの権利を抑圧するファシスト法から逃れようとするLGBTQの人々にとって、自分たちの生存を認めるはずの州への移住が、経済的に許されなくなっているのだ。

https://www.nytimes.com/2024/07/11/business/economy/lgbtq-moving-cost.html

では、この危機の根源は何か。そして我々に何ができるのか。住宅危機は単一の原因では説明できないが、その核心には2008年の金融危機を引き起こした混乱と、その後に続く混乱がある、とライアン・クーパーは指摘する。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-12-11-housing-industry-never-recovered-great-recession

Glass-Steagall法は、大恐慌型の市場崩壊を防ぐために1933年に制定された金融規制だった。それを1999年にビル・クリントンは「もはや時代遅れだ」として廃止した。その9年後、皮肉にもGlass-Steagall法が阻止しようとしていた、まさにその無謀な投機によって、世界経済は大恐慌型の市場崩壊で溶解した。

2008年の崩壊は、あらゆる産業に打撃を与えたが、最も深い傷を負ったのは住宅建設業界だった(結局のところ、住宅ローンこそが2008年の金融バブル崩壊の引き金だったのだから)。その後2年間で新築住宅の着工は90%も減少した。住宅市場の凍てつく冬の時代は、関連産業をことごとく破壊していった。熟練工たちは再訓練を受けるか、「労働市場から退出」した(これは障害者になる、ホームレスになる、破滅する、の婉曲表現である)。建設業界に破産の波が押し寄せた。建設労働力が危機以前の水準に回復するまでには、16年もの歳月を要した(もちろんその頃には、未着工の住宅は膨大な積み残しとなり、住宅を求める人口もさらに膨れ上がっていた)。

一方で、原材料から生産者に至るまで、住宅サプライチェーンのあらゆる部分の崩壊は、独占的統合の舞台を整えることになった。大手企業は経営難に陥った中小企業を次々と飲み込んでいった。この大規模統合によって、住宅建設業者は建設する住宅を減らしたにもかかわらず、価格の吊り上げによってさらなる利益を搾り取ることができた。彼らはパンデミックによる供給ショックに乗じて、この独占的な価格操作をさらに加速させ、パンデミックによる不足コストをはるかに上回る価格高騰を仕掛けたのだ。

眼鏡から製薬、テクノロジーに至るまで、市場の寡占化に憤る人なら誰もが見覚えのある手口で、住宅市場も独占化されていった。HR Hortonという建設会社は、米国最大の3つの市場で支配的な地位を築き、2005年以降、住宅建設戸数を半減させながら利益を3倍に膨らませている。現代の住宅建設業者は、もはや建設そのものを手がけない。彼らは規模をテコに破格の値段で土地を確保し、計画プロセスを意図的に遅らせ、実際の建設作業は採算ぎりぎりの価格で下請け業者に丸投げするのだ。

https://www.thebignewsletter.com/p/its-the-land-stupid-how-the-homebuilder

独占企業は供給を抑制することで利益を最大化できる。米国の市場の60%が「高度に集中」しており、その市場を支配する企業は年間1060億ドル相当の住宅建設を抑制している。

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3303984

この問題の有効な解決策はいくつかあるが、それらはトランプ政権下では実現が難しいか(市場シェアに基づく建設業者の分割を迫る反トラスト法の執行)、想像すらできないだろう(大手建設会社を優遇する税制上の抜け穴を塞ぐこと)。あるいは、「自動安定装置」としての「住宅保証」を創設するという手もある。つまり、経済が不況に陥るたびに、公営住宅を建設する企業への資金提供が自動的に発動され、経済を刺激し、かつ住宅供給危機を緩和する。

https://www.peoplespolicyproject.org/wp-content/uploads/2018/04/SocialHousing.pdf

住宅保証についてはPeople’s Actionのスルマ・アリアスによる別の記事で詳しく説明されており、かつてレッドライニング(住宅ローン差別)と闘った草の根活動家たちが、住宅保証の種を蒔いていたことが語られている。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-12-11-why-we-need-homes-guarantee

アリアスは、住居への権利を確立するには公営住宅の大量供給が必要だという。重要なポイントとして、公営住宅は地方自治体や州政府のレベルで資金調達、運営、建設が可能だ。たとえ連邦政権が敵対的であったり無関心であったりしても、この取り組みは実現可能なのだ。

公共企業のためのセンターのエグゼクティブディレクターであるポール・E・ウィリアムスは、FIMBY(finance in my back yard:私の裏庭の資金調達)を取り上げた記事で、どうすれば地方政府が何千もの住宅を提供できるかについて、実に興味深い事例を紹介している。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-12-11-fimby-finance-in-my-backyard

ウィリアムスが取り上げたのは、メリーランド州モントゴメリー郡で2021年に起きた出来事だ。土地の確保、ゾーニングの承認、作業員の確保まではできていながら、資金調達ができずにいた不動産開発業者に、郡の機関が融資を行うために介入した。モントゴメリー郡の住宅機会委員会(HOC:Housing Opportunities Commission)は、この開発業者に市場金利で短期融資を行った。

2023年までに建物は完成し、融資は返済された。全268戸が入居済みで、そのうち3分の1は低所得者向けの家賃設定で賃貸されているという。HOCはこれらの住宅の恒久的なオーナーとなった。この成功を受けて、モントゴメリー郡のHOCはこの方式で3,000戸の公営住宅をさらに建設する計画を進めている。

https://www.nytimes.com/2023/08/25/business/affordable-housing-montgomery-county.html

驚くべきことに、この取り組みは他の州に――レッドステートにさえ!――広がりを見せている。アトランタとチャタヌーガでは同様の基金とプロジェクトが進行中で、州レベルや地方レベルでさらに「数十の」計画が動き始めている。マサチューセッツのMomentum Fundに至っては、4万戸もの住宅供給に向けた資金提供を計画している。

https://www.nytimes.com/2023/08/25/business/affordable-housing-montgomery-county.html

公共企業のためのセンター(Center for Public Enterprise)は、こうした「政府系企業」と、労働者が購入可能な価格の住宅を供給する上で果たしうる役割について、包括的な報告書を発表している。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-12-11-fimby-finance-in-my-backyard

もちろん、GSE(政府系企業)が住宅建設のために融資を行うためには、その住宅が建設可能でなければならない。YIMBYs(新規住宅建設推進派:Yes In My Back Yard)は、新しい住宅建設の大きな障害として制限的なゾーニングを指摘している。California YIMBYのロバート・クルックシャンクは、そのゾーニングを修正する戦略を解説した記事を書いている。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-12-11-make-it-legal-to-build

クルックシャンクは、オースティンやミネアポリスなどの都市がYIMBY型のゾーニング規則を採用し、賃貸価格の大幅な改善を実現したNIMBY(新規住宅建設反対派:Not In My Backyard)の成功事例を紹介している。これらの成功事例は、制限的なゾーニングが住宅危機の主要な原因のひとつであるという認識が――少なくとも民主党の政治家の間で――広がっていることを示している。

とはいえ、この成功の波が全米に広がるまでには、なお長い時間を要するだろう。その間も、米国の借家人たちは略奪的な大家たちの餌食となり続けている。犯罪的企業のRealpageが住宅の価格操作を可能にし、独占的な開発業者たちが意図的に供給を制限して価格を吊り上げているなかで(最近のBlackrockの投資家向け通信は、露骨にも同社の大規模な賃貸物件ポートフォリオの利益源として住宅供給不足を誇示していた)、借家人たちは劣悪な住環境に、かつてないほどの高額な家賃を支払わされている。ゾーニング改革や公営住宅の供給を通じた住宅危機の解決を、もはや悠長に待ってはいられない。彼らが必要としているのは、今この瞬間の救済なのだ。

そこで登場するのが借家人組合だ。借家人組合連盟(Tenant Union Federation)のルーシー・グレヴィッチとタラ・ラグヴィアは、法外な家賃値上げと危険な住環境に抗議するための、全国の借家人たちによるレントストライキの組織化を記事で伝えている。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-12-11-look-for-the-tenant-union

借家人たちは、複数の仕事を掛け持ちし、手取り給与の大半を大家に支払い――借家人の4分の1は給与の70%を家賃として支払っている――暖房や換気もない害虫だらけの住居に住んでいる。それが現在の米国の姿だ。

https://www.phenomenalworld.org/analysis/terms-of-investment/

フレディ・マックとファニー・メイ1訳注:連邦住宅金融抵当公庫と連邦住宅抵当公庫。いずれも住宅ローン市場に安定的に資金を供給することを目的とした政府系金融機関。からの公的資金が、集合住宅の投機的市場に殺到し、ほとんど規制のない、税金で支えられた投機的な鉄火場と化している。そこでは富裕層が無謀な賭けに興じ、その損失のツケが貧困層に押し付けられている。

これに対応して、借家人組合が全国で、とりわけボーズマン(モンタナ州)やルイビル(ケンタッキー州)などのレッドステートの都市で次々と設立されている。彼らは「正当な理由」のない立ち退きを禁止する制度を求めて組織化し、公正な住宅バウチャーの配布を求め、ロサンゼルスで横行する「改装」を口実とした立ち退きのような抜け穴を塞ごうとしている。

全米テナント政策アジェンダ(National Tenant Policy Agenda)は「全国的な家賃の上限設定、立ち退き防止、居住適格基準の確立、反トラスト法の執行」を要求している。これらの施策は、数百万人の働く米国民の生活を即座に、そして劇的に改善するだろう。

https://docs.google.com/document/d/1JF1-fTalW1tOBO0FhYDcVvEd1kQ2HIzkYFNRo6zmSsg/edit

しかし彼らは、単に住宅供給を増やすだけでは不十分だと警告する。組織化された借家人からの強力な対抗力なしには、新規の住宅供給も結局のところ、富裕層による搾取と投機の新たなエサになりかねない。ここで重要な役割を果たすのがファニーとフレディの規制当局である連邦住宅金融庁だ。彼らは、新規住宅が企業の利益ではなく人々の切実なニーズに応えるものとなるよう、積極的な介入を行う権限を持っている。

そのような状況の中で、カンザスシティの借家人組合は、建物のすべての借家人が家賃の支払いを拒否するレントストライキを成功させ、数百万ドルの未払いの修繕を実現した。さらなるストライキが全国で計画されている。

米国のシステムは危機に瀕している。国民に住居を提供できない国家など破綻している。レイチェル・ジアバが特集の締めくくりで指摘するように、状況はこれまでの常識が揺らぐほどに悪化している。最も人口流入の多い都市が、最も雇用成長が低いのだ。

https://prospect.org/infrastructure/housing/2024-10-18-housing-blues

もちろん、問題は住宅だけではない。米国民は先進国の中で最も高額な医療費を支払いながら、最悪の医療しか受けられていない。独占的な食料品チェーンは、食品価格を高騰させた。さらに次期政権は公教育に宣戦布告し、貧困層の子どもたちを教師のいない学校へと追いやろうとしている。そこでは、Chromebookで穴埋め問題を問いたり、地球がほんの5000年前に創造されたことを学ぶ「教育」を受けるのだ。

国民を住まわせ、養い、教育し、ケアすることのできないシステムは失敗以外の何物でもない。失敗国家に暮らす人々は、そのシステムを破壊してくれるなら誰にだって投票するだろう。生活必需品を規制のない冷酷な市場に委ねるという決定は、自らの破滅にさえ投票するほどの、変化に飢えた国民を生み出すのだ。

Pluralistic: The housing emergency and the second Trump term (11 Dec 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: December 11, 2024
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: Monopoly