以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「America and “national capitalism”」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

トマス・ピケティの2013年の予想外のベストセラー(フランス語から翻訳された750ページの経済書!)『21世紀の資本』は、我々の政治的衰退について非常に説得力のある説明を提供しており、その衰退が危機な加速を続ける中で、今なおその役割を果たし続けている。

https://memex.craphound.com/2014/06/24/thomas-pikettys-capital-in-the-21st-century/

その主張を簡単に説明しよう。政府による介入がない場合、市場は労働者よりも投資家をより豊かにする(「資本収益率が成長率を上回る」あるいは「r > g」の状態)。これは非常に強力で、極めて裕福な労働者であっても例外ではない。ピケティはこれを多くの方法で説明しているが、私が最も好きなのは、ビル・ゲイツ、リリアンヌ・ベタンクール、そしてビル・ゲイツ(再び)の寓話である。

ビル・ゲイツは1975年にMicrosoftを設立し、2000年にCEOを退任した。その25年の間に、彼は同社を人類史上最も収益性の高い企業に成長させ、非常に裕福になった。これは市場の神話としてよく語られる成功の物語だ。優れた企業を創業し、富を築く。

ゲイツは裕福な家庭の出身ではあったものの、その後25年で桁違いの資産を築き上げた。それは投資によってではなく、自ら会社を設立し、経営することによってであった。

一方、リリアンヌ・ベタンクールは、ゲイツがMicrosoftのCEOを務めていた時期、欧州一の富豪だった。L’Orealの相続人として生まれた彼女は、ゲイツとは違って仕事らしい仕事はしていない。金融プランナーに家族の資産運用を任せていただけだった。ゲイツがMicrosoftをゼロから地球史上最も成功した企業へと成長させた25年の間に、ベタンクールはゲイツ以上の資産を築いた。ゲイツは働いて金を稼いだ。ベタンクールは運良く金持ちの家に生まれただけで、ただそこにいるだけで金を稼いだのである。

さらに驚くべきことに、ビル・ゲイツはMicrosoft退任後、プロの投資家になった。仕事をするのをやめ、他人が働いている企業に投資するようになった。その後13年間で、投資家としてのビル・ゲイツは、MicrosoftのCEOとして25年間働いて得た額以上の金を稼いだ。リリアンヌ・ベタンクールよりも多く稼いだのである。

これが r > g の意味するところだ。人類史上最も成功した労働者でさえ、莫大な資産を持っているだけの人ほどは稼げない。そして、持っている金が多ければ多いほど、さらに多くの金を稼ぎだせる。

これがどのような結末をもたらすか考えてみよう。好況不況にかかわらず、運よく金持ちに生まれた者たちは、経済を成長させるために働く人々よりも、他の誰よりも裕福になっていく。さらに彼らは経済成長率を上回るペースで富を増やすため、経済全体に占める割合はますます大きくなる。そのため、経済のパイが大きくなっても、彼らの取り分はそれ以上に大きくなり、我々に残される分け前は相対的に小さくなるどころか、実質的にも縮小する。つまり我々は、富裕層と比べて貧しくなるだけでなく、親の世代と比べても貧しくなっているのだ。

ピケティによれば、これは何百年もの資本の流れを分析することで裏付けられた、揺るぎない市場の法則である。彼は750ページの多くを費やし、どの時代であっても、経済の最も収益性の高いセクターでさえ、その時代の最も優秀な経営者や労働者と比べて、投資家が不釣り合いに多くの利益を得ていることを示している。これがオリガルヒが生まれる理由である。それは市場経済が必然的に行き着く姿なのだ。

しかし(とピケティは続ける)、オリガルヒは本質的に不安定な存在である。例えば、ビル・ゲイツやリリアンヌ・ベタンクールの資産があまりに巨大になると、たった1%の資産増加でさえ、他の富裕層から資本を集める必要が出てくる。なぜなら、ビル・ゲイツの資産の1%は、最終的には超富裕層以外の全員の資産の100%を超えることになるからだ。こうして時間の経過とともに、富裕層はさらなる富を得るために互いに争わざるを得なくなる。第一次世界大戦がそうであったように。

極端な富の偏在が政治的不安定性を生む要因はそれだけではない。1%の人々が十分な富を手にすると、彼らは政府を掌握し、富裕層の利益を損なわない政策しか実行されなくなる。そして富裕層が富裕層になると、あらゆる利権が彼らの手に渡る。その結果、秩序ある安定した社会の維持に必要な賢明な政策(例えば、富裕な債券保有者をさらに潤すために経済を破綻させないよう、戦時国債の返済を持続可能な水準に抑えるなど)が実行不可能となり、社会の崩壊へと至る。第二次世界大戦がそうであったように。

21世紀の資本』の核心は、ピケティと彼の大学院生たちが丹念に集めた300年分のグローバルな資本の流れのデータにある。この時系列は同じパターンが繰り返し現れることを示している。富裕層が裕福になるにつれて、彼らは国家の政策立案機構をますます掌握し、富裕層に有利な政策を推し進める。それによって彼らはさらに裕福になり、政策への影響力を一層強くする。この循環は不平等が限界点に達するまで続き、フランス革命や世界大戦のような破壊的な事態へとつながる。それは資本を破壊する狂宴であり、ほぼすべての資本が富裕層の手にあるため、事態が収まった後、彼らの資本も権力も大幅に減少する。社会は大きな打撃を受けるが、より平等になる。これにより我々は再び、富裕層だけでなく全ての人々に恩恵をもたらす社会を再建するための適切な政策を打ち出すことができるようになる(フランス人は第二次世界大戦後の30年間を「栄光の30年」と呼ぶ)。

しかし、その社会が資本の成長率が経済成長率を上回るという現実――戦後のブーム経済でさえ例外ではない――に対処する仕組みを持っていなければ、最終的に富裕層の富は限界点に達し、人々の幸福を支える政策は富裕層の利益のための政策に押しのけられる。富裕層はさらに裕福になり、互いに争い、社会は不安定化し、我々は崩壊に直面する。

さて、ロナルド・レーガンの話をしようか!1970年代後半までに、上位10%が握る富の割合は戦後の最低点から大幅に増加していた。この過剰な資本を手にした富裕層は、自分たちをより裕福にする候補者や政策を推進するために金を使い始めた。ある時点で、彼らはついにレーガンの大統領職を買うだけの金を手に入れ、規制緩和の火祭りが始まった。富裕層への減税、金融規制の緩和、労働者保護の切り捨て、社会保障費の削減である。

これにより、賃金が停滞する一方で、富裕層はますます裕福になった。その後の40年間は、富裕層に優しい政策と政治家が次々と登場する時代となった。ブッシュ政権だけでなく、ビル・クリントンの福祉改革やオバマの差し押さえ危機もその一環だった。富裕層はさらに裕福になり、それ以外の人々は貧しくなった。独占企業が米国経済を蝕んだ。企業セクターは超統合され、価格を引き上げ、賃金を削減することで、より多くの利益と配当を生み出した。その結果、GDPは上昇を続けた。

社会は着実に不安定さを増していった。気候危機の無視、セーフティネットの切り崩し、インフラの荒廃など、大多数の人々を犠牲にして富裕層に利益をもたらす政策が支配的になった。不平等は悪化した。住宅も医療も大学教育も手が届かなくなった。生涯の貯金がサブプライムローン、年金基金の略奪、ビットコイン詐欺に消えていった。不安定さはさらに悪化した。果てしない帝国主義戦争、競業避止契約、プライベートエクイティによる企業の統合など、大多数の人々を犠牲にして富裕層に利益をもたらす政策が増殖した。賃金は停滞した。不平等は拡大した。富裕層はさらに裕福になった。一方の政党は金融の亡者たちに支配された。もう一方の政党も同様に金融の亡者たちに支配されたが、彼らを終末論的人種差別主義者との連合に溶接した。

これが今日のトランプ、差し迫った崩壊、イーロン・マスクとそのコドモ兵団、JD・ヴァンス、そしてこの全てのイカれた状況につながっているのである。

今日、ピケティは高まる米国のファシズムと好戦性に直面する欧州の状況について、鋭い分析を発表した。

https://www.lemonde.fr/blog/piketty/2025/02/18/trump-national-capitalism-at-bay/

米国の経済は「成長している」のに対し、欧州の経済は成長していないという理由で、米国人が欧州を軽視することは珍しくない。ピケティはこれが幻想に過ぎないと指摘する。米国の経済成長は価格の上昇と賃金の急落によるものであり、これは株式市場に相当な投資をしている極めて少数の米国人を除いて、すべての人々を貧しくする一方で、カルテルと独占を築いた巨大米国企業にとっては理想的な状況だ。「購買力平価で測定すると、現実は全く異なる。欧州との生産性格差は完全に消滅する」。

このように米国の経済指標を実態に即して調整すると,米国の衰退は明らかだ――実質GDPは2016年以降、中国に後れを取っている。中国の調整後GDPは現在、米国を30%上回っており、2035年までに米国の2倍に達する見込みである。

米国の世界に対する影響力は失われつつあり、トランプがそれを加速させている。象徴的なのがドル離れだ。米国(そして米国のみ)は自由に米ドルを発行できるため、世界中のモノ(たとえば石油)がドル建てで取引される限り、米国は他のいかなる国よりも有利な条件で購入できた。

https://stephaniekelton.substack.com/p/trade-isnt-money-for-nothing

そして、連邦準備制度理事会を介したドル決済の仕組みは、米国に世界の監視と統制を可能にしてきた(ウクライナ侵攻後のロシアに対するSWIFT制裁、債務不履行後のアルゼンチンに支払いを強要したバルチャーファンドの件などを思い出してほしい)。トランプのビットコイン支持政策は、本質的にドルに敵対する政策である。そもそも世界では、米ドルがグローバルな「ソフトパワー」の道具となっていることへの懸念が広がっており、すでにルーブル建ての石油取引も増えている。そこへきて今、トランプはドルを介さない取引を助長するシャドー通貨の成長を後押ししている(なお、暗号通貨は米国の超富裕層による脱税や贈収賄をいっそう助長するだろう)。

https://www.programmablemutter.com/p/what-happens-when-economic-coercion

トランプはCIAとNSAにも戦いを挑んでいる。確かに結構なことではある――しかしその一方で、これらは世界における米国の影響力を投射する重要な手段でもある。たとえば「ファイブアイズ」諸国との連携によるNSAの大規模監視プログラム。トランプはまさに今、それら同盟国との関係を冷え込ませようとしている。

そして貿易の問題もある。米国は通商協定を通じて、オリガルヒ寄りの政策を世界に押しつけてきた。米国市場へのアクセスと引き換えに、諸外国は知的財産法のような懲罰的な法律を制定させられ、米国の巨大企業による自国経済の収奪を受け入れてきたのである。

https://pluralistic.net/2025/01/15/beauty-eh/#its-the-only-war-the-yankees-lost-except-for-vietnam-and-also-the-alamo-and-the-bay-of-ham

投資家と国家の紛争解決制度も。

https://pluralistic.net/2024/03/27/korporate-kangaroo-kourts/#corporate-sovereignty

米国の巨大企業の利益は、米国民の99%を食い物にすることだけから生まれているわけではない。外国人からも搾取してきたのだ。だがそれは、外国政府が米国市場への無関税アクセスと引き換えに収奪者に都合のよい政策を採用してきたからこそだ。米国がそれを閉ざそうとしている今、もはや米国による自国民への収奪を許す理由はない。

ピケティが指摘するように、トランプは「国家資本主義」を夢想している。だが国家資本主義は、グローバル資本主義以上に悲惨な制度である。

国家資本主義の強みは、普遍的な調和や階級の平等を謳う安易なレトリックを否定しつつ、権力とナショナル・アイデンティティを賛美することにある。その弱点は、権力闘争に直面して破綻し、持続可能な繁栄には教育、社会、環境への投資を通じて全ての人々に恩恵をもたらす必要があることを見失ってしまうことだ。

国家資本主義は、オリガルヒたちを他国の富を収奪する可能性から遮断し、国内での収奪に限定してしまう。やがて国内の富のすべてが収奪者階級の手に渡り、彼らが成長するには互いを攻撃する以外に道はなくなる。この現象について、5億人を擁する豊かな貿易圏である欧州ほど直接的で新しい経験を持つ地域はない。トランプはEUに対し、GDPの5%を軍備と常備軍の増強に充てるよう要求している。

ピケティはこれを行き詰まりだと指摘する。米国がグローバルな法の支配の砦として、取引決済のハブとしての役割を放棄しつつある今、EUには異なる種類の世界的な影響力を持つ機会が訪れているのだ。

欧州は、経済、財政、気候の正義を求めるグローバルサウスの声に耳を傾けなければならない。社会的投資へのコミットメントを新たにし、すでに健康と平均寿命で米国を追い抜いたように、教育と生産性の面でも決定的に米国を追い抜かなければならない。1945年以降、欧州は福祉国家と社会民主主義革命によって自らを再建した。このプロジェクトは未完のままだ。むしろ、今こそグローバルな規模で構想すべき民主的かつ生態学的な社会主義モデルの出発点として捉えるべきなのである。

(Image: Cryteria, CC BY 3.0; EFF, CC BY 4.0, modified)

Pluralistic: America and “national capitalism” (18 Feb 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: February 18, 2025
tTranslation: heatwave_p2p

カテゴリー: Monopoly