以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「Ideas Lying Around」という記事を翻訳したものである。

ミルトン・フリードマンを引用するとき、私は特別な喜びを感じる。引用するたびに、彼が口から突き出た真っ赤に焼けた串の周りでうめき声を上げ、それを見た悪魔たちが溶けた糞便を永遠に投げつけながら高笑いする光景を想像して楽しめるのだから。
幸運にもフリードマンについて知らない人のために簡単に説明しよう。フリードマンはロナルド・レーガン、マーガレット・サッチャー、アウグスト・ピノチェト、そして今日我々が住む地獄のような世界への道を切り開いた独裁的な極右指導者たちにとって、一種の宮廷魔術師のような存在だった。しかし影響力を持つ前のフリードマンは、ただの変人だった。正確に言えば、ニューディール政策のすべての成果を覆し、金ぴか時代の再来に生涯を捧げた変人だった。
https://pluralistic.net/2022/11/06/the-end-of-the-road-to-serfdom/
彼が変人だった時代、当然誰もが彼の計画には懐疑的だった。彼らはこう言った。「いいかミルトン、人々はニューディール・プログラムを好んでいるんだ。最低賃金も週40時間労働も、職場で障害を負わされたり毒殺されたり生きたまま焼かれたりしないという保証も大切にしている。尊厳ある老後も、子どもたちへの質の高い教育も、国中で誰も飢え死にしていないという安心も欲しているんだ。国立公園が好きだし、メディケアも大事だ!図書館も博物館も、信頼できる天気予報も必要としている!どうやって大多数の人々に、上級市民のトイレを掃除する機会を得るために額に汗する農奴になれと納得させるつもりなんだ?」
フリードマンはこう答えた。「危機の時代には、アイデアは瞬く間に傍流から主流へと移動する。我々の仕事は、その危機に備えて良いアイデアを散らかしておくことだ」
石油危機が到来し、米国内外で価格が急騰したとき、フリードマンはその機会を掴んだ。石油危機後の数年間で、組織労働、社会正義運動、そしてオリガルヒへの政治的反対は警察の警棒とピノチェトの手下の銃によって粉砕された。これは暴力的な政治革命だった。世界は一変した。英国労働党のような左派政党は緊縮財政を信奉する新自由主義政党へと変身した(マーガレット・サッチャーがトニー・ブレアを「彼女の最大の功績」と呼んだのも理由がある。そしてレーガンでさえ通せなかった極端な福祉「改革」法案を可決したのはビル・クリントンだった)。
フリードマンは怪物だった。
しかし。
彼はとんでもない変革理論を持っていた。
価格が制御不能に上昇し、人々が生活費を支払えなくなり、老後の蓄えが吹き飛ばされるようになれば、何でもできるようになる。石油危機はジミー・カーターの責任ではなかったが、それでも有権者は1980年にバース党スタイルの共和党圧勝を実現した。コロナショックは、パンデミックインフレに直面した世界各国政府の責任ではなかったが、その後の選挙で彼らは完膚なきまでに打ちのめされた。
ここでトランプの関税について話そう。トランプの目標は、レーガン革命後に世界中の低賃金・低規制の企業ヘイブンへと移転した米国の産業力を国内回帰[re-shoring]させることだ。パンデミックは、すべての余剰が搾り取られ、配当と自社株買いへと注ぎ込まれた長く脆いサプライチェーンの問題について生々しい教訓を与えてくれた。このようなシステムは、少なくともウォルマートの棚を安価な商品で満たし続ける限りにおいてはうまく機能するかもしれないが、とんでもない崩壊も引き起こす。レジリエンスを回復させる産業政策と同様に、国内回帰は良いアイデアだ。
しかし国内回帰は一朝一夕には実現しない。中国のコロナロックダウン時に見られたように、あるサプライヤが商品の出荷を停止したからといって、その不足を埋めるために他のサプライヤが即座に現れることはない。中国自体が製造大国になったのは大規模な国家支援と計画のおかげだが、それには数十年を要した。そのような忍耐強い長期的で計画的なプロセスこそが最善のシナリオである(それでも中国社会に大きな混乱をもたらした)。単に関税の壁を設け、産業界に「なんとかしろ」と要求するだけでは――しかも、それによって生じる経済混乱と政治不安の中で――計画とは呼べない。それは災害だ。
世界中で生産手段を再分配することは必要かつ緊急の課題である。だが、トランプによる世界貿易システムの性急で行き当たりばったりの空中解体によって前進することはないだろう。関税は新自由主義の脆弱なサプライチェーンの崩壊を引き起こし、それに伴う混乱――大量失業、物資不足、政治的怒り――は、各国(米国も含め)が40年間の新自由主義によって蒸発した生産力の再構築をさらに難しくするだろう。
これは、我々の時代の石油危険とも言える。好戦的な超大国が世界生産の基盤に無分別に干渉し、混乱を引き起こす瞬間であり、「アイデアが傍流から主流へと瞬く間に移動する」危機だ。スティーブ・バノンがレーニン主義者を名乗れるのなら、左派は自らをフリードマン主義者と呼べるはずだ。これは我々のチャンスだ。
というより、このチャンスを掴むか、負けるかだ。各国政府はトランプ関税への対抗策として報復関税に傾いている。これは政治的な毒薬だ。米国から輸入するすべてのものをより高価にすることが、どうして米国の貿易戦争への制裁になるというのか。パンデミックインフレの明白な教訓を思い出そう――物価上昇を生み出した政府は有権者によって木っ端微塵に粉砕される。
はるかに優れた選択肢がある。それは米国のオリガルヒの根源に打撃を与える。彼らの莫大な富と腐食的な政治的影響力は、レント搾取型の独占企業、特にビッグテック独占企業の保有に由来する。
テック大手は米国経済の健全性を左右する主要要因である。ビッグテック株をS&P 500から除けば、市場の停滞が見えてくる。表向きは米国のテック企業の収益源は異なっているように見えるが、詳しく見ていくと、すべて同じ基盤を共有している。ビッグテックは収益の大部分を、グローバルなIP条約に支えられた独占レントとして獲得しているのだ。
AppleとGoogleはアプリで使われる1ドルごとに30%を掠め取り、業界標準の1-3%の手数料で新しいアプリストアを作るためにスマホをジェイルブレイクすれば重罪となる。GoogleとMetaは広告1ドルから51%を搾り取り、出版社と広告主は濫用的な契約と技術的対策によって両社のエコシステムに閉じ込められている。HPはプリンターの着色水に1ガロンあたり1万ドルを請求し、サードパーティのインクや詰め替えは米国があらゆる国に押し付けた迂回防止法に違反する。テスラは工場で車に搭載された機能――自動運転からバッテリーの全充電容量の使用まで――をレンタルすることで最大の利益を上げ、あなたや中古で車を買った人から毎月料金を絞り取っている。そして整備士がそのDLCをすべて永久に50ドルでアンロックできない理由は、米国と取引するために各国が受け入れざるを得なかったIP法だ。整備士は車のエラーコードを解読するツールのためにメーカーごとに年間1万ドルを支払い、誰も50ドル/月の汎用診断サービスを販売できない唯一の理由も――再び――米国市場へのアクセスを条件に各国に押し付けられた米国発のIP法である。農家は自分のトラクターを修理するたび、ジョンディアに200ドルを支払う。なぜなら、ジョンディアの技術者が訪問してトラクターのキーボードにアンロックコードを入力するまで修理が終わらないからだ――そのコードを回避することは国際条約に準拠するために可決された法律の下では犯罪となる
これらは利益ではない――レントだ。ビッグテックが生産手段を所有することから得る金であり、実際に何かを作ることから得られる金ではない。アプリ開発者がすべてのリスクを負う一方で、AppleとGoogleは彼らの総収入の30%をかすめ取る。ビッグテックの利益は、ジャンクフィーやプラットフォーム手数料、そして馬鹿げて高価な消耗品というレントと比べれば、ほとんど後付けのようなものだ。テック企業にとって、資本主義は封建主義から…テクノ封建主義への過渡期に過ぎない。
https://pluralistic.net/2023/09/28/cloudalists/#cloud-capital
米国の堅調なGDP数値は所詮は幻想だ。米国人も外国人も餌食にする米国ビッグテックが抽出する独占レントによって人為的に押し上げられている。
https://pluralistic.net/2025/02/18/pikettys-productivity/#reaganomics-revenge
しかし外国人がこのナンセンスに付き合ってやる道理はもはやない。世界中の政府は、米国市場への無関税アクセスという約束と引き換えに、巨大な米国企業を国内の小規模な競争相手(国内のアプリストア――スマホ、ゲーム機、IoTガジェット向け――から国内のプリンターカートリッジ再生業者まで)から保護することに同意した。トランプがなんと言っていようと、米国の大小の貿易相手国に関税を課している今、もはや米国ビッグテックにレントを支払い続ける理由はない。
これを最初に実行する国や地域(ハロー、EU!)は巨大な先行者利益を得て、世界的な輸出大国になる可能性がある。人類史上最も収益性の高い企業の最も利益率の高いビジネスラインをぶんどるツール市場を支配できるのだ。ジェフ・ベゾスが出版社に言ったように、「あなたの利益率は私のチャンス」なのだから。
https://www.marketplacepulse.com/articles/the-cost-of-your-margin-is-my-opportunity
危機の時代には、アイデアは瞬く間に傍流から主流へと移動する。我々の多くは何十年もの間、こうした搾取的で危険で社会を不安定化させるテクノロジーの悪用と闘ってきた。日常のあらゆる場面で頼りするコンピュータ搭載デバイスが、我々犠牲にして製造元の株主に仕えるように設計されている状況に対して闘ってきたのだ。にもかかわらず、これらのテクノロジーは増殖の一途をたどり、インスリンポンプや人工呼吸器、コーヒーメーカーや「スマート」テレビに至るまであらゆるものを侵食している。
世界的な挑戦を目指す競争の時が来た――どの国が最も速く、最も積極的に米国ビッグテックの利益を奪取するか競い合う時代だ。これは世界中の人々にとって物を安くするだけでなく、米国人にとっても恩恵をもたらすだろう。ひとたびビッグテックのデバイスとサービスをジェイルブレイクするソフトウェアが世界規模で取引されるようになれば、それは必然的に国境を越えて広がるからだ。カナダは困窮する米国人に手頃な価格の医薬品を販売するだけでなく、技術的自己決定とビッグテックからの解放のツールも提供できるはずだ。
ビッグテックの最も収益性の高い事業の利益率を世界的にゼロにすれば、米国のオリガルヒの根幹を揺るがすものとなるだろう。そして、トランプを再び政権に就かせるために政治システムに流し込まれた何億ドルもの資金にも影響が及ぶ。技術的解放を目指す頂点への競争は、米国人を含むすべての人に利益をもたらす。
まさに、これはすべての船を持ち上げる満ち潮となる。もっとも、オリガルヒのスーパーヨットだけは、沈没することになるのだが。
Pluralistic: Ideas Lying Around (03 Mar 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: March 3, 2025
Translation: heatwave_p2p