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英国政府が、今後4年間の知的財産侵害対策の戦略を公表した。戦略には、ノーティス・アンド・テイクダウンの有効性評価や著作権者が自力で侵害者を追い詰める手段の提供を検討するなど、興味深い点がいくつもある。

このところ、英国はニュースや報道で知的財産エンフォースメントの世界的なリーダーであると伝えられている。実際、知的財産犯罪捜査チーム(PIPCU:Police Intellectual Property Crime Unit)によってさまざまな捜査が行われ、たくさんの逮捕者が出ているというニュースは、メディアで当たり前のように伝えられるようになっている。

そのような取り組みを続ける英国政府は今朝、「クリエイティビティの保護、イノベーションの支援:IPエンフォースメント2020」と題した新たな戦略を発表した。

このレポートは、英国の権利者が、本国や海外で「紛争を解決し、IP侵害に取り組むための適切かつ効果的なメカニズム」にアクセスできる環境を整備するための4カ年戦略を概説している。

戦略には6つのポイントがあり、その最上位に違法オンラインコンテンツの抑制と迅速な法の強化が置かれている。また、知的財産へのリスペクトを高めるための教育プログラムにも力を入れるという。

政府はインターネット上の侵害対策を強化するにあたり、インターネットでファイルを共有する個人から、侵害を助長するサイト、そして検索エンジンに至るまで、さまざまな対策を講じると述べている。

興味深いことに、こうした対策の軸には、消費者の理解を促進し、それによって著作権侵害サイトを避けるようにすることを据えている。

ノーティス・アンド・テイクダウン、ノーティス・アンド・トラックダウン

米国では現在、著作権局がDMCAの見直しを行っており、ノーティス・アンド・テイクダウン手続きの評価が焦点の1つとなっているが、英国においてもこの点に焦点が当たることは何ら不思議はない。政府は「この手続きの改善と効率化」をしたいとする一方で、中間媒介事業者の行為準則(Code of Practice)の導入についても検討するという。

この4カ年戦略では、権利者が通知を送るのみならず、特定された侵害者に直接法的措置をとれる「ノーティス・アンド・トラックダウン」システム導入の可能性にも言及されており、その是非をめぐって論争が起こることになりそうだ。

セーフハーバー(レポート内ではプラットフォームの責任と言及)も同様に重要な論点の1つになるだろう。また政府は、現行のルールを明文化するようEUに求めていくという。

海賊インターネットユーザ対策

上述の「ノーティス・アンド・トラックダウン」はウェブサイトに侵害リンクを掲載するなどのごく一部への対策になるが、それよりさらに重点が置かれているのが消費者に適法なソースからの購入を促す取り組みである。これは主に、長らく延期されてきた警告通知システムを通じてなされるようだ。

「インターネットユーザが著作権侵害を行ったときに警告を行ったり、問題のあるサイトのリンクを検索エンジンに掲載させないといった民間の著作権侵害対策プロジェクトをもとに、政府は施策を講じていきます。消費者の大半は正しい行いをし、法を順守し、クリエイティブ産業を支援したいと考えており、そうした認識に基づくものとなります」と、ネヴィル・ロルフ知財大臣は言う。

「そのような消費者が、インターネット上でしていいこと、してはいけないことを理解できるよう手助けし、検索をした際に合法コンテンツに導くことで、新しい創造的なコンテンツに向けられた需要が、他人の労力を掠め取る犯罪者にではなく、正当なクリエイターに利益をもたらすことになるでしょう」

ユーザの正しい選択を支援するため、政府は、FindanyFilm.comGetitRightキャンペーンのような産業イニシアチブへの更なる支援、児童や学生を対象にした教育キャンペーンの促進を約束している。

「政府は、中間媒介事業者、権利者、産業団体と協働し、英国コンテンツの適法なソースをハイライトしていきます」

海賊版サイト・サービス、その運営者への対策

既存の侵害ウェブサイトリスト(IWL:Infringing Website List)の強化に加え、「金の動きを追え(Follow the Money)」アプローチによってそのようなウェブサイトに収入が流れることを阻み、ビジター数を減らす取り組みを行うことが強調されている。

「政府は、ブランド広告主、広告代理店、警察機関とともに、IWLの価値をより強化するために協働を続け、Digital Trading StandardsGroup(DTSG)のような英国の優れた実践原則を振興する団体を支援していく」

政府は、そうしたサイトへの資金流入を防ぐ現行の取り組みを維持しつつ、PayPalやMasterCard、VISAなどの決済サービスのコミットメントを求め、警察機関からの申し立てに応じたサービス提供の停止をしやすくするという。

もちろん、「海賊版サイト」対策である以上、そこにウェブサイトブロッキングを欠かすことはできないだろう。その実現に向けて、英国政府はありとあらゆる手段を講じてくることが予想される。

「政府は、知的財産保護のため、引き続きインターネット・サービス・プロバイダに対し、違法コンテンツを大量に提供するウェブサイトを、そのプロキシも含めて、ブロックすることを求めていく」とネヴィル・ロルフ知財大臣は言う。

「英国は、インターネット上の侵害への差止救済措置において世界に先んじているが、今後もそうあり続けなければならない。増加の一途をたどり、新たなビジネスモデルを構築している多数の侵害サイトに対抗するためには、更なる強化が必要となる」

政府はさらに、小規模事業者のために、ブロッキングのプロセスをより簡略化することも検討している。

「政府は引き続き、民事裁判システムに誘導し、活用するためのガイダンスを改善・強化することで、すべての規模のビジネスを支援していく。そのために、ウェブサイト・ブロッキング命令の要件となる最低限の証拠についての解説を提供し、裁判の判決や判例を定期的に公表していく」とレポートにはある。

また、詳細は明らかにはしていないものの、差止命令についてEUと協働していく可能性も示唆している。

興味深いことに、『海賊版』(翻訳註:違法に改造された)セットトップ・ストリーミング・ボックスの存在に、権利者や政府が困惑している様子もうかがえる。政府は、現時点での問題点を十分に理解する必要があると特記している。さらに、必要であれば何らかの法的な規制を導入することも検討するという。

検索エンジンとソーシャルメディア

政府は、検索エンジンやソーシャルメディアプラットフォームとともに、侵害コンテンツの利用可能性を減らすために取り組んでいくという。これは、現在の「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続きの評価に加え、上述したような「ノーティス・アンド・トラックダウン」のもとで、権利者が侵害者と戦えるようなオプションを検討していくことになる。

また、この評価プロセスでは、GoogleやFacebook、Twitterなどのプラットフォームを対象とした行為準則が必要か否かが決定される。

国際協調

政府は著作権侵害の問題を、国内の問題であると同時に、国際的な協調のもとで解決すべき問題としても捉えている。政府は、英国の利益が損なわれようとしているときには、海外のパートナー国に「ドメインおよびホスティング・エンフォースメント・アクション」を依頼するという。

「これには、EU加盟国における禁止命令や裁判所命令に必要な証拠の共通認識のオプションを加盟国間で検討することも含まれる」という。

英国がすでに約1000の『海賊版』サイトを禁止命令によってブロックしていることを考えると、非常に興味深い項目である。こうした措置が欧州全域で可能になるとしたら、権利者は大歓迎することだろう。

英国政府の4カ年IPエンフォースメント戦略は、こちらからダウンロードできる(PDF)。

“UK Government Expands Crackdown on Online Piracy – TorrentFreak”

Author: Andy / TorrentFreak / CC BY-NC 3.0
Publication Date: May 10, 2016
Translation: heatwave_p2p